上田 英一郎 先生の独自取材記事
上田皮膚科医院
(京都市山科区/京阪山科駅)
最終更新日:2024/12/11

山科駅の西隣、徒歩1分の立地にある「上田皮膚科医院」。この場所に上田菊子院長が開業し約半世紀。地域住民の健康を支えてきた皮膚科医院だ。現在院長は同院の管理を担い、診療は義娘の上田幸子先生をメインに、息子であり大阪医科薬科大学病院に勤務する上田英一郎先生が診療をサポートする体制で行われている。診療は一般皮膚科領域に幅広く対応する中で、特にアトピー性皮膚炎の治療に注力。大学病院で長年アトピー性皮膚炎の治療を行ってきた英一郎先生は、心理的な要因でアトピー性皮膚炎が重症化した場合の心理的アプローチを得意としている。医院の診療内容やメンタルが影響する難治性アトピー性皮膚炎などについて、英一郎先生に話を聞いた。
(取材日2024年2月9日)
約50年にわたり地域に寄り添ってきた皮膚科医院
医院を開業したのはいつですか? 現在の診療体制についても教えてください。

1977年に現院長で私の母でもある上田菊子が、ここ山科駅前で開業しました。母は大学を卒業後、皮膚科として歴史のある京都府立医科大学の皮膚泌尿器科に入局し、当時珍しかった女性医師として皮膚科全般を診療していました。その後、駅前にあるこの場所に出会い医院を開業。当時は皮膚科医院が多くはなかったので、湖西線沿いや福井県からも多くの患者さんが来られていました。その母は現在も院長として管理業務などをしていますが、高齢のため日々の診療は火・水・金曜の午前診療を私の妻である上田幸子が、私は月曜と火曜の夕方以降の診療を担当しています。私は現在、大阪医科薬科大学病院に勤めているので、月曜と火曜日の夕方以降の診療だけに携わっていますが、いずれ定年退職をしたらこの医院を継承するつもりです。
英一郎先生と幸子先生がこちらで診療するまでの経緯をお聞かせください。
私は1991年に大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)を卒業した後、母の母校でもある京都府立医科大学附属病院の皮膚科に入局し、研修医から大学院へ、その後講師を務めました。その当時から当院で夜の診察を時折手伝うようになりました。京都府立医大には16年間ほど所属し、その後兵庫医科大学に移り、2年ほどして母校の准教授として戻り、現在は大阪医科薬科大学病院で医療総合管理部の副部長、医療管理学の教授として勤めています。妻の幸子は、2005年に徳島大学を卒業し、京都府立医大の皮膚科に入局。その後、結婚をして子育てが忙しくなり、病院勤務を辞めて5年前から当院を手伝ってくれています。
開業当時からの患者さんもいらっしゃるのですか?

古くから通ってくださっている80代くらいの患者さんなどは、母が現在診療をしていないので「菊子先生はお元気ですか?」と声をかけてくださったり、私の幼少期を知っている患者さんなどとは、懐かしく昔を思い出してお話をしたりすることもあります。親子2代、3代で来られている人も多くいらっしゃいます。当院は当時かられんが色のタイル張りの外観で、決して今風のモダンな医院ではないのですが、地域の方からは「駅前のれんが造りの医院」と親しまれているようです。昔ながらの落ち着いたアットホームな雰囲気なので、高齢の方も安心して来てもらえているのではないかと思います。
心理面にも配慮し、アトピー性皮膚炎の患者を支える
アトピー性皮膚炎の治療に注力し、患者さんの心理面にも配慮されていると伺いました。

大学病院では長年アトピー性皮膚炎を専門とする外来で診療してきました。難治性アトピー性皮膚炎の患者さんの中には、複雑性PTSDを抱えた方が多く見られます。疾患も一因となり適切な養育が受けられず、一般的な親子関係が構築できていない、皮膚の症状からいじめを受けたといった経験が継続的に重なると、コミュニケーションが苦手になり、感情の調節障害などが引き起こされる傾向にあります。そうなってしまうと、適切な援助を引き出しにくくなると考えられます。そのため、心理面にも配慮した難治性アトピー性皮膚炎の治療に注力しています。適切なケアを提供したり、患者さん自身の治療に対するモチベーションを上げたりするためにも、患者さんの背景を知ることは大切です。当院では日々の診療においても患者さんの話をよく聞き、気持ちや悩みに寄り添う診療を心がけています。
ストレスによってもアトピー性皮膚炎は悪化するのでしょうか?
そうですね。アトピー性皮膚炎のコントロールが難しいのは、かくと症状が悪くなってしまうことです。症状が悪化するとわかっていても、かゆいからかいてしまう。重症の方は一日8時間くらい患部をかきむしってしまうそうです。せっかく薬で治療しても、かいてしまえば悪化します。ストレスは皮膚のバリア機能の回復を妨げることや、ちょっとしたストレスが継続的にかかることでかくことがやめられなくなることがわかっています。親子関係や職場や学校での人間関係などのストレスが原因で、かゆみが増す人が多いようですね。働いている人は、人前ではかけないからトイレにこもって患部をかいたり、帰宅してから全身を1時間くらいかいてしまうこともあるそうです。重症のアトピー性皮膚炎の患者さんの多くは、そういった苦しみを抱えているのです。
こちらで受けられるアトピー性皮膚炎の治療法について教えてください。

いろいろな治療薬があるのですが、かゆみや炎症に作用するステロイド薬や保湿剤など従来の薬の他、数年前には難治性のアトピー性皮膚炎でも症状の改善が期待できる、生物学的製剤の注射薬が出てきました。医学の進歩でさまざまな薬が使えるようになりましたね。こうした薬物治療に加えて、重症化の原因が複雑性PTSDなどの精神疾患であるとわかった場合には、一人ひとりの患者さんの生活に寄り添い適切なアドバイスをする行動療法や認知行動療法を必要に応じて行います。
信頼関係を大切に、よく話を聞き心に寄り添う診療を
日々の診療で心がけていることはありますか?

やはり患者さんとの信頼関係がベースにある上で治療を行うので、コミュニケーションは大切です。信頼してもらえてこそ、患者さんもご自身のことをいろいろと話してくれると思います。私も妻も患者さんの話をよく聞きよく話をし、言葉の使い方や声かけにも配慮するようにしています。患者さん一人ひとりの表情や症状をよく見ながら、背景をくみ取りながら診察することを念頭に置いています。妻はもともとそういった、患者さんの立場になって深く寄り添いながら診療を行うタイプの医師なので、私が学ぶ部分も多いですね。他に、皮膚がんなどの悪性所見を見落とさないように、またベースに内科的な疾患が隠れている場合もあるので皮膚の表面だけを診るのではなく、内科的なことも含めて診るようにしています。
アトピー性皮膚炎の他、皮膚科全般に対応しているのですか?
にきびの治療やスキンケア指導、円形脱毛症などの頭皮・脱毛トラブル、じんましん・帯状疱疹・口唇ヘルペス・水ぼうそうなどの皮膚疾患、接触性アレルギーによる皮膚炎、その他かぶれ・やけど・ケガなどといった一般皮膚科全般を診療し、必要に応じて小さな手術にも対応しています。より精密な検査や治療が必要な場合は、人脈を生かして京都府立医科大学附属病院や近隣の医療機関へ紹介するなど、医療連携についてもスムーズに行えるよう環境を整えています。
最後に、今後の展望についてお聞かせください。

母が診察を担当していた頃は、ほぼ休診せずに診療していました。いつでもそこにあって診てもらえることが、患者さんの安心感にもつながっていたのではないかなと思います。私が定年を迎え大学病院を退職し、この医院を継承したらそれを引き継ぐつもりです。私や妻がいつもこの医院にいて、昔からある医院として患者さんがなんでも相談でき、いつでも安心して来てもらえる医院として地域に貢献していけたらと思います。今後も、大学病院で長年携わってきた経験を生かしながら、当院でできる範囲でそれらのエッセンスを用いて、丁寧に診療を行いたいです。アトピー性皮膚炎以外にも、じんましんや結節性痒疹、円形性脱毛症などメンタルが影響して悪化する皮膚疾患があります。そういった症状も、患者さんに寄り添いながら治療を進めたいと考えています。症状に不安を感じる方は気軽にご相談ください。