小笠原 文雄 院長、小笠原 真雄 先生の独自取材記事
小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック
(岐阜市/岐阜駅)
最終更新日:2025/12/26
岐阜駅南口から南へ徒歩5分の場所にある「小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック」。内科、循環器内科、老年内科、緩和ケアなどの専門的な知識と経験を生かしながら、外来診療、および24時間365日対応する在宅医療に取り組むクリニックだ。小笠原文雄(ぶんゆう)院長は、在宅で看取りをした経験を自身の著書や講演会などで多くの人に広めている。2018年より同院で勤務する息子の小笠原真雄(しんゆう)先生は、これまで総合病院などで学んだ循環器内科や老年内科の知識を生かし、日々質の高い医療を提供できるよう取り組んでいる。そんな2人に診療への思いなどについて聞いた。
(取材日2019年3月8日)
豊富な臨床経験をもとに、在宅医療にも取り組む
外来診療と在宅医療の両方に力を入れていらっしゃるんですね。

【真雄先生】はい、外来診療は院長と私が担当し、在宅医療は複数人の医師で対応しています。外来と在宅両方を行う理由は、地域に根づいた医療を提供したいという思いと、在宅医療を希望の持てるものにしたいという思いからです。外来は近くにお住まいの患者さんが多いですね。患者さんの話に耳を傾け、顔を見て、体調を確認し、薬についても副作用や飲み方について理解してもらえるまで丁寧に説明します。付き添いの方にも気を配っています。在宅医療は約30年前から取り組んでいて隣県からも受け入れています。患者さんは軽症の方から一人暮らしの末期がん患者さんまでさまざまです。「退院したら5日の命」と言われた入院患者さんが「家に帰りたい」と言われ、緊急退院し、在宅医療を受ける中で元気になって、外来診療に切り替えられるケースも望み得るのが在宅医療。どんな方でも外来診療に戻れるよう希望を持てることが大切だと思っています。
真雄先生は、循環器を専門にご研鑽を積まれたそうですが、現在の診療ではどのように生かされますか?
【真雄先生】大垣市民病院の循環器内科で勤務しながら多くの臨床経験を積んだことで、外来診療・在宅医療に関わらず、目の前の患者さんにとって一番必要な治療は何か、治療が必要かどうかを適切に判断することができるようになりました。特に在宅医療では患者さんの病状以外に生活や環境、人間関係を含めた広い視野で診ることが求められます。例えば、心不全患者さんの場合、増悪の原因には生活環境によるものが多いので食事指導も含め、個々の生活に合わせて心不全をコントロールする治療ができるのは循環器の専門家ならでは。また、入退院を繰り返すことが多い重症心不全の患者さんでも、在宅医療を希望されれば専門家としての知識と経験を生かした治療方針を立て、患者さんに合わせたオーダーメイド治療を提供しています。
真雄先生は、高齢者医療について深く学ばれていたんですね。

【真雄先生】私も将来は地域医療に携わりたいと考えていました。超高齢社会の日本においては、外来診療でも在宅医療でも高齢者の占める割合がどんどん増えていくことが予想されます。同じ病名でも若い方と高齢者では薬の処方や使い方も違います。また、高齢になると薬の飲み忘れや薬の重複なども増えますので、できる限り、量や種類を最低限にしながら、疾患だけを診るのではなく、認知機能や生活背景など患者さんを全人的に把握して治療方針を立てることが大切だと実感しています。これらに対応できる高齢者医療の知識を名古屋大学大学附属病院で専門的に学べたことは、外来診療と在宅医療のどちらにとっても大きな財産になっています。
在宅医療を通し、“命”の不思議さを知る
文雄院長が在宅医療に取り組んだきっかけを教えてください。

【文雄院長】最初は外来診療だけのつもりで開業し、在宅医療は依頼されたら自転車で回る程度でした。1992年、私はある患者さんと出会いました。その方は末期がんでしたが、とても穏やかに安らかに自宅で旅立たれたそうなんです。それまで“旅立つ時は苦しいのが当たり前”と思っていた私は、その患者さんの旅立ちにカルチャーショックを受け、在宅医療に真摯に取り組み始めたんです。すると、余命宣告をされたような方であっても在宅では長く生きられる方が多いことにとても驚きました。それから多くの在宅看取りを経験をしたことで「最期まで家にいたい」という願いがかなうと、希望と喜びの中で「希望死・満足死・納得死」ができることに気づいたんです。その結果、ご遺族も離別の悲しみで涙を浮かべながらも笑顔でお別れができるんだと実感しています。
独居でも在宅医療を受けておられる患者さんは多いと伺いました。
【文雄院長】これまで独居の方はもちろん、多くの患者さんを在宅で支えきりました。「独居=孤独死」だと思われがちですが、不思議なことにほとんどの方が誰かと一緒にいる時に旅立たれているんです。一人でいる時間のほうが長いので、本来なら一人でいる時に亡くなるのが数字上の理論ですが、そうではない。認知症の女性患者さんの場合、大好きなヘルパーさんが仕事を辞めることになっていたその日の帰り際、時を選ぶかのように旅立たれたそうです。独居の方の看取りでは、そんな不思議なことが次々と起こり得るんです。私は「人は死ぬ時を選ぶ」と思っています。「家にいたい」という願いがかなうと患者さんだけでなく、ご家族も喜ばれます。それに入院よりもお金がかからないことがほとんどなんですよ。
真雄先生が考える在宅医療のメリットを改めて教えてください。

【真雄先生】一番のメリットは、自宅にいたいという希望がかなうこと、自由であるということですね。病院では食事も睡眠もすべて制限がありますが、在宅医療ではほとんど制限のない生活ができます。高齢の方が入院されると、せん妄になったり、食欲が落ちたり、動けなくなって体調を崩される方もいますし、入院がきっかけで認知機能が低下する場合もあります。病院は医師や看護師が常にいて安心だという考えの方も多いですが、在宅医療でも看護や介護のスムーズな連携もあるので患者さんのちょっとした変化にも気づくことができますね。自宅にいる安心感も患者さんの入院率を減らしている大きな部分じゃないかなと。住みたい場所で自由に過ごしたいというのは多くの人の願いでもあるのかなぁと思います。
患者家族の願いや思いにも寄り添う在宅医療
自宅でじっくり治療にあたってもらえるのは安心にもつながりそうですね。

【真雄先生】そうですね。在宅医療では患者さんやご家族と心が通うまで何時間でも話をすることもありますし、本人の願いをかなえるための“ACP(アドバンスケアプランニング)”という人生会議を患者・家族・ケアチームで何度も行っています。
【文雄院長】患者さんやご家族が納得されるまで何度でもACPをすることが大切だと考えています。医療を提供する中で、温かいものが生まれ、生きる希望が湧き、生きる力がみなぎる、そんな心のケアをすると安心していただけると実感していますし、だからこそ笑顔で長生きされる方が多いのだと思います。「死を思え、いつか死ぬのだから、その時を思い生きている今を大いに楽しめ」を意味する「メメント・モリ」という言葉がありますが、医療と同時に患者さんが希望を持ち、満足して、納得できることも大切なんです。それをかなえることが、穏やかな看取りにつながると考えています。
ともすると高度な医療ばかりを追求しがちですが、どのように最期の時を過ごすかもっと考える時代ですね。
【文雄先生】今、日本は終末期医療ランキングが世界的にとても低いといわれていた少し前までの反省期に入っているのかもしれません。「死ぬ時は苦しいのが当たり前」、勤務医時代の私もそう思っていました。しかし長年の経験で、在宅医療では朗らかに生きて、清らかに旅立つことがかなうのだとわかりました。これからも健やかな社会を築くため、培ったノウハウを後進に伝えていきたいと考えています。
今後どのように地域医療に取り組まれたいとお考えですか?

【真雄先生】“住み慣れた自宅で長く健康的に、最期は穏やかに”、そんな生き方ができるような医療を提供したいです。予防医学も含め、地域住民に添った医療を提供し、地域に貢献し、地域とつながるクリニックにしたいですね。在宅医療では、「介護が大変」と思われるご家族も多いですが、独居の末期がん患者さんでも在宅看取りが可能です。「最期まで家にいたい」という患者さんの願いをかなえ、ご遺族が離別の悲しみだけでなく、“いい最期だった”と見送ってあげることができるよう全力でサポートしていきたいです。

