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大河内 恒 院長の独自取材記事

大河内メンタルクリニック

(鎌倉市/大船駅)

最終更新日:2020/09/07

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湘南の玄関口ともいえる大船駅。笠間口から4分ほど歩いた閑静な住宅街の中に「大河内メンタルクリニック」はある。1997年に大船駅の近くで開業し、2008年鎌倉市大船2丁目の現在地に集団療法室を開設するために移転し、現在に及んでいる。大河内恒院長は50年以上に及ぶキャリアにおいて、「精神医療は患者と向き合うことであるが、それは同時に精神科の医師が自分自身と向き合うことでもある」ということ、「精神医療は人生問題であり人間の存在上の問題と切り離すことはできない」と述べている。自身の経験を通じ、自己と自己自身との関係に迫っていくプロセスが人生の目的であると気づかされ、それは精神医療の神髄でもあるという確信にも至る。詳しく話を聞いた。
(取材日2018年4月19日)

東大病院や公的病院など幅広く経験を積んで開業

長く大船で診療を続けていらっしゃるようですが、医院の概要を教えていただけますか?

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1997年の開業ですから、20年以上になります。もともと大船駅近辺で始めたのですが、2008年に現在の場所に移転しました。集団療法、通院集団精神療法などを行うために、広いスペースが必要になったからです。その試みは有益だったと思っております。しかし昨年末に、集団療法室を閉鎖しました。理由は現場のスタッフに十分な経済保証が許される経済基盤がクリニックにはなかったからです。現在は私と3名の女性医師、2名の日本臨床心理士会認定の臨床心理士で、診療とカウンセリングにあたっております。

院長は医院開設前にどのようなキャリアを積んでいらしたのでしょうか?

私の経歴は迷走しております。北海道の片田舎の中学を出て、旭川市の高校に進学しました。成績は、むしろ振るわない生徒でしたが、「大学進学は東大のみ」という気持ちでした。卒業後上京して一浪の末になんとか目的を果たしました。その後、進路を決めなければならなくなり、何とか医学部に入ったものの、その後も例によって例のごとしでした。卒業時に所属する医局を決められず、モラトリアムの期間を厚生労働省に求めました。入職し、2年後東大病院の精神科に籍を得ました。やがて医局長になりましたが、教授などの地位を得たいという気はまるでなかったので、そこにとどまるのは場所ふさぎと思い、8年ほど後に外部の公的病院に出ました。その病院で最後に仕えた院長が定年に近づき、私も身の振り方を考えなければならなくなりました。そんな折にふと開業ということが頭に浮かび、開業に至ります。

厚生労働省から東大病院など、幅広い現場でご活躍されてきたのですね。

他人の目には「何を考えているのかわからない」という感じだったでしょう。東大教授であった土居建郎先生に「君の野心はどこにあるのかね?」と言われたことがあります。私には医者として社会的地位を得たいという気持ちがまるでありませんでした。そして過去を振り返ると迷走人生であったその軌跡が、無意識のうちに「自分自身であること」にこだわってきたプロセスだったと思い至ります。自己が自己自身という無意識裏にある自己の本来的根拠と一体化するのが人生の目的であると、このごろは確信しております。現実には到達不可能でありながら、この自己自身との関係を模索し生きる責任がわれわれにはあると思っています。私自身は人生に迷いながら自分自身であるための居場所探しを、患者さんとの治療的関係を通じて無意識裏に行ってきたと、今は確信しております。

そうした豊富な経験が、現在の診療にも生かされているのでしょう。

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そうであると良いと思います。患者さんの問題を私自身の問題に置き換える作業を繰り返すことで、治療をしてきたという自負心があります。患者さんと向き合うことは、私にとって自分自身を生きることなので、仕事をして疲れを感じることはありません。日々の診療を通じて自分の問題、人間としての自分のあり方を追及していると実感しております。

薬に頼りすぎない、信頼から生まれる共感が治療の柱

貴院にいらっしゃるのはどのような患者さんが多いのでしょうか?

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統合失調症の患者さんは少ないですが、うつ病圏、神経症圏やその近縁にあるパーソナリティ障害など、さまざまな精神疾患を抱えた患者さんがいらしています。比較的短期間で通院を終えられる方もいれば、10年以上にわたって通い続けていらっしゃる方もおります。精神科疾患では、治療の終了を決めるのは患者さんの意思を尊重して、医師と相談の上で決めております。昨今はお子さんの心のトラブルも増えているようですが、当院の治療は薬のみに頼らないコミュニケーションを主体としたものですので、対話が可能となる中学生以上の方を対象としています。それより低年齢のお子さんの場合は、親御さんの通院をお勧めしています。子どもへの関わり方の相談を勧めることで、お子さんの状態もガラリと変わるものです。

診療に際して心がけていらっしゃることは何ですか?

投薬も行いますが、薬はあくまで補助的なもの。メインの治療は医師と患者の信頼関係から生まれる共感によってなされるべきと考えます。ユング派の言葉を借りれば、治療とは「その時々の創造行為」であり、医師と患者の関係は、その都度変容するものです。治療の主役はあくまでも患者さんです。自分を持て余している患者さんが自分の問題を解決に導く鍵を握っているのは、患者さん自身をおいてはありえない。精神科の医師の仕事は出産における助産師さんの役割に似ています。患者さん自身の治す気持ちを引き出し、共感することでその力をサポートしていくのです。

共感による治療とは?

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自分で解決できない心の底には怒りや恐怖が隠れているものです。そうした御し難い負性な感情をどう扱うかが治療上の要点のひとつです。私たち精神科の医師は患者さんのお話を伺い、それに共感することで、その問題を扱うことが可能になります。

「10年通って近ごろ自分が好きになった」という人も

コミュニケーション主体の治療には時間がかかりそうですね。

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そうですね。ただし、診療時間は個人によってまちまちです。患者さんによっては1時間以上に及ぶこともありますし、逆に薬だけを求めて時間をかけたくないという患者さんもいらっしゃいますから、それなりに対応しています。

印象に残っているエピソードなどあれば教えていただけますか?

精神科を訪れる患者さんの多くは、程度の差はあれ親子関係をその根底に抱えていらっしゃいます。母性のない母親に養育された経験が、後年になって怒りや憎しみ、自己否定などのネガティブな感情となって表れたりすることがあるのです。こうした母子関係から母親に殺意を抱くまでに至ることもまれではないです。こうした場合でも、激しい怒りを受容できるようになる必要があります。受容する上での主役は、本人の自我です。そういう自我を育てていくことが精神医療の焦点です。

ドクターズ・ファイル読者に向けて、一言メッセージをお願いできますか?

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精神科通院はハードルが高いと感じる方が多いようですが、当院に継続して通っておられる皆さんも同様だと思います。それでも、続けて来院いただいているのは、現状を克服したいという意思がくじけないでいるからではないでしょうか。そのためには安心できる場所の提供が大事です。

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