長谷川 望 院長の独自取材記事
高橋医院
(練馬区/豊島園駅)
最終更新日:2025/04/07

院内には先代の父が使用していた往診かばんや昔の薬を調合するためのすり鉢が飾られ、この地で歩んできた時間の長さを感じさせる。練馬で約60年の歴史がある「高橋医院」は、小児科を中心に地域の子どもたちを見守ってきたクリニックだ。長谷川望院長は母校の校訓「病気を診ずして病人を診よ」の言葉をモットーに、長年患者一人ひとりの声に耳を傾け、寄り添う姿勢を大切にしてきた。「子育ては一人ではできない」という信念のもと、子育て中の保護者のためのコミュニティーを主催するなど、その活動は院内だけにとどまらない。今回のインタビューでは開業の経緯や印象に残るエピソード、子育て支援への思いなどについて語ってもらった。
(取材日2025年3月17日)
2世代、3世代と家族で長く通ってくれる患者も
お父さまの代から続く医院ですが、開業の経緯を教えてください。

父は新潟の出身なので、関越自動車道で東京に向かうと練馬がちょうど出やすい場所なのだと思います。親戚もこの辺りに多く住んでいたのでここに決めたのではないでしょうか。以前は池袋に出るしか交通手段がありませんでしたが、この頃は副都心線で横浜方面、大江戸線で新宿へもすぐ出られて、都心へのアクセスがとても便利になりました。豊島園駅の近くで、練馬駅の周辺よりは落ち着いた場所だと思います。
どんな患者さんがいらしていますか?
父の代から受け継いでいるので、患者さんも2代目、3代目と長く来てくださっている方もいらっしゃいます。クリニック内には、亡き父の往診かばんを置いているのですが、それを見て「私もこれ持ってきてもらって診察してもらった」と懐かしんでくださる方もいます。私に関していえば、ここで診療を始めて約20年になりますが、当時子どもだった方がお母さんになり、赤ちゃんを予防接種に連れてきてくれるようになりました。とてもありがたいことでうれしかったですね。
先生が大切にしている高橋医院らしさとは何でしょうか?

自分ではあまり意識したことはありませんが、なるべくよく話を聞いて、患者さんの不安を取り除くことでしょうか。忙しい時はそうしていられないこともありますが、できる限り通り一遍の診療ではなくその方に向き合おうとしていますね。なるべく一方通行ではなく、双方向でお話ができるといいなと思っています。小さい頃に通っていたけれどしばらく来院していなかった方が、「学校に行きづらくなった」「親子関係がうまくいかない」などの困り事を相談しに来てくれることもあります。10年以上たっているのにここに相談に来ようと思っていただけるのはありがたいです。私は小児科の医師なので、やはりお子さんの成長が見られるというのはとてもうれしいものです。
子育て中の人の不安を取り除くイベントを開催
こうした先生の診療スタンスはお父さまの影響もあったのでしょうか?

父は患者さんにとても優しい診療をしていました。今でも父の患者さんは「すごく優しくしてもらった」と言ってくださいます。病院の診察では患者さんの生活まで入り込むことはなかなかできないですよね。もちろん私も家庭に立ち入るつもりはありませんが、地域の開業医は患者さんの日常をある程度把握することで、患者さんにより一層役立つ診療ができると感じています。勤務医をしていた時は、いろんな病気を診ていた中でも小児血液が専門で、小児がんの患者さんを多く診てきました。長期間入院するケースが多いので家族のような感じで携わってきましたが、勤務医は一つの病院に長くいることはできず、長く経過を見るということは難しいのです。患者さんを長く診られるのは開業医ならではだと思います。親と一緒に働くというのはきれいごとだけでなく、時にはぶつかることもありましたが、父は一緒に仕事をすることを喜んでくれていたと思います。
病院の建物や設備についても教えてください。
すごく古い建物なので不満を持っていたのですが、実はこの病院の建物の造りが感染症にはとても適していて、新型コロナウイルスなど感染症の診療の際には役立ちました。動線を分けて患者さんが混ざらないようにすることができますし、換気もとてもいいです。おそらく父が診療していた時代は感染症が今よりも多かったので、それに適した建物になったのだと思います。
子育て中の保護者とお子さんの癒やしの場としてコミュニティーを立ち上げたそうですね。

新型コロナウイルスの流行を機に、人との接点がなくすことが感染症予防のポイントになってしまったけれど、感染拡大がだんだん収束していくにつれて今度は、人とのつながりが薄くなり、育児をしている人は不安が強くなっているように感じるようになりました。そこで人と人とをつなげることをやりたいと考えたのですね。それでその構想は昔から持っていたことではあり、「社会的処方」という考え方にもつながります。
「社会的処方」についてもう少し教えてください。
「社会的処方」とは薬などの医療的な処置だけでなく、地域活動やサービスへの参加を促すことで、患者の健康やウェルビーイングを向上させる取り組みです。例えば生活習慣病の患者さんの場合、院内の診察や処方だけでなくジムでの運動をお勧めするなど、病院の外のことも含めてその方を元気にするためには何ができるかと考えます。育児の不安が強い人を元気にしたいと思ったとき、院内での短い診療時間でその方の不安をすべて取り除くことはできず、院外での取り組みも必要です。みんなで集まる場が苦手な方にとっても医療機関が行うということで安心して参加してもらえるようです。近隣のいろんな方が手伝ってくださって、2022年から活動が始まりました。
困ったときに頼ってもらえる存在をめざして
クリニックがコミュニティー活動を通して伝えたいことは何ですか?

コミュニティーの名称「ONE&ONLY」とは、「一人ひとりがかけがえのない」という意味で、オンリーワンを強調した言い方ですね。お母さんに自信がなく自己肯定感が低いと育児にも影響があるし、子どもにもそういう気持ちでいてほしいという願いを込めています。育児は一人だけではできないので、大事な子どもたちを協力して育てたいという願いがあります。今はインターネットでなんでも調べられますが、専門ではない情報に惑わされてしまうこともあると思います。私は小児科医ですから、インターネットで調べるよりもここに来て気軽に聞いてほしいですね。「一部だけ髪の毛が薄い」「歯が生えるのが遅い」などなんでもいいんですよ。正確な医療情報を発信したいという思いがあり、イベントでは私がミニ講義をしたり近所の薬局の薬剤師さんに来てもらったりもしています。今後は栄養関係や病児保育の方に来てもらうのもいいのではないかと考えています。
先生のご趣味についても教えてください。
私は基本的にインドア派ですね。大学でバイオリンをやっていたので音楽も好きだし、本を読むことも好きです。最近はキャンドル作りが好きで、インストラクターの資格を取ったほどです。バザーなどがあったら集中的に作ります。草月流の師範も持っていますし、登山もします。母校の槍ヶ岳の診療所には7年間連続で行きました。きっと好奇心が強いタイプなのだと思います。
今後についてどんな未来を描いていますか?

私自身がどうしたいという希望はあまりなく、みんなが喜んでくれたらいいなと思っています。私の大学の校訓は「病気を診ずして病人を診よ」。この言葉をたたき込まれているので、病気はもちろんですが患者さんに対して何かできることはないかなと考えます。開業医は同じ場所に長年いることができるのが強みですから、困ったときに頼ってもらえる「いつでもここにいるよ」という存在でありたいですね。