岡野 昌彦 院長の独自取材記事
医療法人社団貴昌会 岡野クリニック
(越谷市/越谷駅)
最終更新日:2026/02/12
埼玉県が抱える深刻な医療状況を目の当たりにし、難病やがん治療後のフォローができる場をと「岡野クリニック」を開院した当初から患者を受け入れ続けてきた岡野昌彦(あきひこ)院長。医療機関や医師、看護師といったマンパワーが東京に集中している状況を愁い、1998年の開院時から、院内での診療だけでなく看取りまで対応する訪問診療も行っている。乳幼児から最期の看取りまで患者と家族に寄り添い、心のよりどころになれたらと話す岡野院長。めざすは「よろず医療相談所」のような、開かれたクリニックであること。育児や医療、介護に悩む越谷の人たちが気軽に集い、話せる場でありたいと願う岡野院長にその思いを語ってもらった。
(取材日2025年12月17日)
地域の人たちにとって、心のよりどころとなれる場所に
開院から30年近くたち、振り返って思うことはありますか?

一般内科から呼吸器内科、循環器内科、小児科、禁煙相談、リハビリテーション、訪問診療など医療的な関わりだけでなく、地域に溶け込み、皆さんが困った時にはできるだけ手を差し伸べられる場所でありたいと頑張ってきました。それは開院当時から掲げたクリニックの理念であり、性別、年代を超えて誰もが当院を「よろず医療相談所」のように利用してほしいとの思いからです。乳幼児から、がん手術後の方や難病を抱えた方のフォロー、そしてお看取りまで。この地で30年近くやってきて、親子2代にわたって最期に立ち会うことが増えてきました。コロナ禍も経て、呼吸器専門の医師として、多くのスタッフを抱える長として、高齢者や重病の患者さんを診る院長として「医療の在り方」も考えさせられた年月であったと思います。
先生の今までの軌跡についてお聞きします。
開院する前は研究半分、臨床半分の医師生活を送っていました。浜松医科大学卒業後は内科、呼吸器、循環器、糖尿病、肝臓病といった分野で経験を積み、越谷の市中病院へ。ここで内科、小児科全般のプライマリケアを担う医師として働き、産業医学やスポーツ医学に精通する医師としてのキャリアも磨いてきました。本当にいろいろな人とのご縁があって、この地で開院の運びとなったのですが、それからは自分の力を100パーセント地域医療へ注ぐ毎日へと変化。当初からクリニックでの診療と並行して在宅医療も始め、1998年の開院以来、早期治療・予防・慢性疾患の管理と3本柱で今までやってきました。
埼玉の医療状況、地域の人たちを救いたい一心だったのですね。

埼玉県は埼玉都民といわれるくらい、通勤通学で東京へ出る人が多いエリアです。医療機関も都内に集中しており、開院当時から県外で治療を受ける人はたくさんいました。がんなど深刻な疾患の場合、入院、手術を東京の病院で行うのは良いのですが、退院後のフォローを担ってくれるクリニックが30年前の埼玉県には、ほとんどありませんでした。当時は今のようなシステムはなく……いわゆるがん難民となってしまった行き場のない人たちを目の当たりにし、「地域の患者さんは当院が診なくては!」という思いで、外来でも在宅でも診察し続けました。現在、病診連携は一般的となり、終末期までを想定した在宅医療の制度も確立され、担うクリニックもかなり増えました。周りの医療機関や医師会、行政などを一から説得して今のような基盤、ネットワークをわれわれがつくってきたんです。
乳幼児から看取りまで、地域のために関わり続ける
外来診療やリハビリテーション、在宅医療など、患者さんとご家族の人生を全力で支えていますね。

育児で悩んで孤立している親御さん、老々介護で苦しんでいる人、病気を抱えながら一人暮らしを余儀なくされている人と、個の生活がメインの現代ならではの問題は増えています。患者さんご本人はもちろん、支えるご家族の心にも寄り添える相談場所でありたいと思っています。通院できる方には外来できちんとフォローを行い、それが難しい方には住み慣れたご自宅で療養生活が送れるよう、在宅医療でバックアップ。通常は看護師による訪問看護ですが、緊急時には24時間体制で医師が駆けつけられるよう体制を組んでおり、最期のお看取りまで対応させていただきます。また、当院の3、4階では介護予防や機能回復を目的とした通所リハビリテーションのほか、難病や心不全末期の方を対象としたマンツーマンの外来リハビリテーションを行っています。通院が難しい方は、訪問でのリハビリテーションも可能です。「最期は自宅で自分らしく」を全力でサポートします。
診察で大切にされていることはどのようなことですか?
患者さん、ご家族の立場になって考えることを大切にしています。もう医師が上から指導していく時代ではありません。相手が何を思っているのかを見極めて、話をすることですね。患者さんが抱えている悩み、生活背景、希望……同様にご家族の不安や思いなどを感じ取れるかどうかが重要です。特に在宅医療では、ご家庭に伺ってみて初めてわかる、見えてくることがたくさんあり、その気づきをキャッチできるかも大切です。どんなお部屋で過ごしているのか、お薬はきちんと飲めているか、どんな食事をされているのか、清潔は保たれているか、睡眠は取れているか、ご家族との関係性など、訪問でわかることは多く、そこに隠された思いをくみ取り、「どうしたら患者さんが自分らしくいられるのか」を考えるようにしています。
2026年から、息子さんの岡野貴彦先生も非常勤で勤務されるそうですね。

はい。彼は小さな頃から私の姿を見て育ち、往診にもついて行っていました。私のように地域の人たちのために働き、尊敬されるような医師になりたいと、自然と後を追って医師の道へ。これからは母校の昭和大学系列の医療機関にてキャリアを積みながら、週2回こちらの診察に入ることになります。専門は消化器外科ですが、当院では一般内科、小児科など幅広い治療に携わります。個々で診療を始めるにあたり、私が今まで築いてきたものを大切にしながら、「地域に根差し、心に寄り添った温かい医療」を届けたいという思いでいてくれているようです。
患者の気持ちに寄り添う医療を提供していくために
看護師さんたちの存在は大きくて欠かせないですね。

当院ではあえて担当分けをせず、外来、リハビリテーション、訪問看護とジョブローテーションを行い、全員がすべての仕事に携わるようにしています。それだけに大変さはありますが、質の高い医療を提供できているのは、看護師の力が大きいですね。訪問看護では医師と患者さん、患者さんとご家族の間に入って橋渡しをしていく重要な役割を担っています。看護師しか気づけない、立ち入れないことも多く、チームの要と言っても過言ではありません。当院だけでなく、ケアマネジャーさん、ほかの事業所の方たちとの連携も必要で、なくてはならない存在です。
これからの医療のあるべき姿とは?
開院当時から比べたら、埼玉県内の医療事情は改善されてきたかと思いますが、まだまだ医師や看護師などのマンパワーは大都市に集中しています。一般外来を担う医師の数は増えてきましたが、障害があって肺炎を引き起こしてしまったケースなど、救急要請していても受け入れ先が何時間も見つからないことも現実にはあります。越谷市内でも病床数の多い病院が軒並みなくなってしまうなど、事態は深刻です。一方で、私も関わった、医療と介護の現場が連携してつくりあげた「地域包括支援ネットワーク」は軌道に乗りました。個々の医療機関でも同じような連携システムができ、県内の患者さんがスムーズに受診へとつながれるようになってくれたらと願っています。
最後に今後のビジョンをお願いいたします。

新型コロナウイルス感染症の影響でずっとお休みしていたのですが、ご遺族のグリーフケアを目的とした「いろはの会」を2026年から復活させたいと考えています。これは、同じ経験をされた方が集まって亡くなった方をしのび、介護や看護への思いを吐き出して共有しすることで、心の負担を軽くし、前に進むきっかけとなったらと始めたものです。私たち医療従事者も一緒に聞くことでわかり合えることもあり、貴重な経験をさせていただきました。また、2026年は外来以外で患者さんと向き合う場を設けたいと考えており、月1回くらいのお話会を企画中です。がんや感染症などテーマを決め、お茶を飲みながら、お互いに話ができたらと。患者さんご本人はもちろん、ご家族から聞きたいこともあるでしょうし、「よろず医療相談所」として利用してもらえたらうれしいです。

