岡野 昌彦 院長の独自取材記事
医療法人社団貴昌会 岡野クリニック
(越谷市/越谷駅)
最終更新日:2025/09/02

東武伊勢崎線の越谷駅西口から徒歩数分。視界が開けたとたん目に飛び込んでくる“OKANO FAMILY SQUARE”の文字が光る建物が「岡野クリニック」。2階が外来の診療室、3・4階にはリハビリテーション施設を併設しており、乳児健診や予防接種から一般内科、糖尿病、禁煙治療まで診療内容は多彩。地域の「よろず医療相談所」のような存在であることをモットーに、幅広い年代のニーズに応えている。院長は、越谷市の地域包括ケアシステムづくりに尽力してきた岡野昌彦(あきひこ)先生。高齢者の暮らしには欠かせない在宅医療に力を注ぐ岡野院長に、開業のきっかけや診療への思い、2018年から始まった新しい取り組み「遺族会」などについて話を聞いた。
(取材日2019年10月10日/更新日2025年8月25日)
困り事を気軽に相談できるクリニックに
越谷に開業したきっかけを教えてください。

もともと、越谷に来たのは大学の先輩の病院を手伝うためでした。4〜5年後に急きょ退職することになり、思案していたところ、市内で開業している先生からうちのビルで開業しないかと提案されたのがきっかけですね。ただ、病院勤務の時から在宅酸素療法のために患者さんの訪問は続けていましたし、専門の呼吸器科はもちろん、越谷での4〜5年間はジェネラリストとして内科から小児科まで幅広く診ていたので、開業するための土壌はあったのかなと思います。今の場所に移ったのは2006年。移転にあたっては、赤ちゃんからお年寄りまで自由に来て話ができる、地域の人々が集まれるような場所が持てたらいいなと思い、3階・4階にリハビリテーション施設を作りました。また、待ち時間が長いのも悩みの種だったので、以前から行っていた順番が近づいたら携帯でお知らせするシステムに加え、順番を示す電光掲示板なども導入し、混雑の緩和に努めています。
「地域のクリニック」ということですね。
困り事があれば気軽に相談できる、地域の「よろず医療相談所」がモットーです。まずは一般診療として病気の早期治療・予防、慢性疾患の管理が当院の役割だと思っていますので、呼吸器関連・緩和に関しては深いところまで診ますが、それ以外の分野では広く見極めて、さらに専門的な治療が必要な場合は医療機関を紹介しています。ただ糖尿病や緩和ケアについては、専門の医師による診察を行っています。また、高齢者の自宅での暮らしを支える在宅医療には開業当初より力を入れておりますし、2021年からは再診の方に向けてオンライン診療も取り入れ、通院が難しい方の対応も柔軟にできるような体制を整えております。
在宅医療では、24時間常に先生と連絡が取れる状態をめざしていると聞きました。

そうしています。ただ通常の在宅医療を担うのは医師ではなく、懸命に支えてくれている訪問看護ステーションの看護師たちです。看護師たちで問題が解決できないときや、緊急事態・看取りのときに医師が出向くようにしているので、煩雑に緊急呼び出しがあるわけではありません。自宅で家族に看取られたいと望む人は、7割もいますが、現実にご自宅で亡くなる方はまだ2割ほどです。在宅医療を手がける医師の少なさが大きな原因の一つですが、ご家族の事情もあります。退院して自宅に戻っても、ご家族が介護に疲れきってしまって、最期はまた病院という方もいらっしゃいます。当院での看取りの割合は7割が自宅で、3割は病院で亡くなっています。
在宅診療・訪問リハビリを通じ、人生の最期まで関わる
訪問診療と合わせて、訪問リハビリテーションにも力を入れていらっしゃいます。

要支援~要介護1ぐらいの方を対象とした「通所リハビリテーション」、通院が難しい方が対象の「訪問リハビリテーション」、難病や心不全の末期の患者さんなどが対象の「マンツーマンの外来リハビリテーション」を3本柱として、リハビリに取り組んでいます。リハビリスタッフは理学療法士、作業療法士を中心に10人ぐらいです。通所・訪問でのチーム分けはないので、通院している患者さんが動けなくなり、訪問リハビリになってもそのまま同じ医師が担当。訪問診療・訪問看護と連携しながら、最期の看取りまで行っています。リハビリは体の機能回復だけをめざすものではなく、例えば「最期は家で過ごしたい」と望む患者さんに、体を動かす、触る、マッサージをするなどでぬくもりを感じてもらうのも大事なこと。訪問診療・看護もそうですが、人をもてなすこと、その人の人生に最期まで関わるということは常に意識し、大切にしているところです。
診療にあたり、大切にしているのはどんなことですか?
昔は患者さんを助ける、病気を治すということばかりに目がいっていましたが、今は治療と同時に「ご本人がどう生きたいのか」を一番に考えるようにしています。看取りを始めてからは、特にそう思うようになりました。本人がどう生きたいか、家族がどうしたいかを考えると、やはり在宅が中心になりますね。外来でも、なるべく患者さんが何を求めているのかを捉えるように話をしています。治すことばかりに気を取られていた時は、なかなか気づけなかったことでもあります。
40人近いスタッフさんたちのリーダーとして、どのように医院をまとめていらっしゃるのでしょう?

子育てではないですが、自分の背中を見せてという部分はあるかと思います。大切なのは、患者さんとしっかり向き合って、患者さんが何に困っているのか、何をしてほしいのかを常に考えること、当院を選んで来てくれた患者さんに対して責任を持つことであるとスタッフみんなに伝えています。そこを大事にしていれば、大きな間違いはないと思うからです。こうしてクリニックを続けていけるのも仲間がいるから。時には注意することもありますが、スタッフからは日々多くのものをもらっています。
一人ひとりが参加することが、住み良い町につながる
地域の方々と一緒に、医療・介護ネットワークづくり、町づくりにも取り組んでいらっしゃるのですね。

近年では、市内の訪問看護・訪問介護ステーションも増え、訪問診療に対応する医師の数は越谷市の人口約34万人に対しては少ないものの、医療・介護が連携して患者さんを診ていく地域包括ケアシステムの器はだいぶ整ってきました。今は、もっと小さな単位でどう密な連携を取っていくか、医療・介護の在り方にとどまらず、子どもから高齢者、障害のある人まで暮らしやすい町をどうつくっていくか、というところで四苦八苦しています。地元の人たちに医療・介護のことを知ってもらった上で「自分たちでこの町をどう守っていくか」を一緒に考える勉強会を始めて4年、2ヵ月に1回のペースで継続中です。健康な時から医療・介護について考えてもらうのはなかなか難しいのですが、大事なのはみんなで「つくり上げていく」こと。それが、地域の医療・介護の土台にもなります。
遺族会「いろはの会」について教えてください。
在宅看取りをされた遺族の方のグリーフを目的とした会です。毎回4~5家族から1人ずつ集まってもらい、一緒に亡くなった方をしのび、当時の介護や看護の話をして、思いを外に出してもらおうというものですね。1回2時間ほどで、4ヵ月に1度のペースで開催しています。前から開きたい気持ちはあったのですが、忙しさに加え、われわれも亡くなった人について話すことに慣れておらず、何をすればいいのか定まらず延び延びになっていました。けれどこの20年で、多くの看取りを通して、ご遺族と一緒にいるだけでも、お話を聴くだけでもいいんじゃないかと思えるようになりまして。実際にやってみると、やはり悩んでいる人がいるのもわかりましたし、参加したことで少し変わったという感想ももらえているので、今後も続けるつもりです。ご遺族の方が思いを話し、受け止められることを繰り返すことが、前に進むきっかけになるのではないかと思います。
最後に、地域の人たちに向けて一言メッセージをお願いします。

医療・介護に限らず、自分が住みやすい町は自分たちの手でつくるもの。自分の将来を含めて、町づくりについて一人ひとりに考えてほしいと思います。当院は「よろず医療相談所」のような存在をめざしています。医療のことも福祉のことも、その声をきちんと必要な所につなげられるだけの情報源とパイプは持っておこうと、普段から努力しているつもりですので、病気のときだけではなく、困ったことがあったら何でもいいので声をかけてください。