神谷 達司 院長の独自取材記事
神谷医院
(草加市/草加駅)
最終更新日:2025/05/14

草加駅から歩いて10分の場所にある「神谷医院」。神谷達司先生は、60年以上の歴史を持つクリニックの2代目院長として、地域医療に貢献。脳卒中・パーキンソン病・認知症を中心に、生活習慣病など内科診療も手がける。また、予防医学にも力を入れており、大学病院と同等の水準で検査が受けられるようにMRIを用い、多角的な診断を実施。草加市の認知症検診の礎を築いてきた神谷院長は、「認知症の症状・特徴や検査の重要性について、地域の皆さんの認識が深まってきたと感じています」と語る。笑顔で優しい診療を心がけている神谷院長に、クリニックの歴史や今後の展望について、また現在力を入れている予防医学についても話を聞いた。
(取材日2021年9月17日)
草加市の認知症検診の普及に貢献
地域の認知症検診の礎を築いてこられたそうですね。

認知症検診は、草加八潮医師会から行政に働きかけ、私が中心になって約10年前から始めたものです。草加市と協力して街のホールで500人規模のセミナーを開催するなど、症状・特徴や検査の重要性について啓発活動を続けてきました。この取り組みはとても反響があり、草加市の皆さんの認識が深まってきたと感じています。実際に認知症検診の受診者数も年々増えています。認知症検診は健康診断に加えて行うだけで、チェックシートを使って市内のかかりつけ医ならどこでも受けられます。チェック項目に従って点数をつけ、疑いがあれば精密検査を勧めるなど早期発見につながります。認知症ではないとわかり、安心したという方も多いと思います。一方、認知症だとわかれば、ご本人もご家族も対応方法を考えられるでしょう。認知症は症状が進行しても表に出にくいもの。それを見つけるきっかけとしてたいへん意義のある取り組みだと感じています。
予防医学にも力を入れていると伺いました。
私の専門は脳神経内科ですが、今年からは脳神経外科の医師も加わり、脳や血管の病気について多角的な診断が可能になりました。運送業の企業さまとの契約のもと、トラックやタクシーのドライバーさんの健康チェックにも携わっています。皆さん働き盛りの年齢で、元気に仕事をされています。しかしそういった方でも、脳の血管を調べてみると脳動脈瘤や脳梗塞が見つかる可能性があります。自覚症状がないので、検査して初めてわかるのです。また、大学の研究機関と協力し、MRIを活用した認知症予防の研究も進めています。MRIの結果をもとにいくつかのグループに分け、認知症になりやすい傾向にあるか否かを測るものです。これらが実現されれば症状が悪化する前に対策ができるようになり、皆さんの健康的な生活に貢献できることでしょう。
院内でMRIやエコーの検査ができるのですね。

2015年12月に、大学病院でも使われている水準である1.5テスラのMRIを導入しました。大規模病院ですとMRIの予約は取りにくいものですが、MRIを使わずに認知症診断を行うのは難しいのです。大きな病院へ行かなくても検査ができる施設をつくりたいと思ったのが、MRIを導入したきっかけです。初期の脳卒中・認知症・脳腫瘍・頭痛の原因となる脳内器質性疾患なども、MRIにより状態がよくわかるようになりました。病院へのご紹介時も、検査結果を持って送り出せます。そうすればその後の治療もスムーズですし、患者さんの負担も軽減できます。また隔週1回、心臓の超音波検査を行っています。ご高齢になると心房細動の症状が見られる方も多いのですが、実は心臓の疾患は認知症と関係しています。MRIや超音波検査をぜひ健康管理に役立てていただきたいですね。
地域医療に携わり60年の歴史あるクリニック
クリニックの歴史について教えてください。

このクリニックは、私が生まれる1年前に父が開業し、66年間続いています。父は内科・小児科を専門にしていました。私は脳神経内科の医師となり、日本医科大学の准教授を経て、岡山大学へ移りました。大学にいた頃はまだ父が元気だったため、草加市へ戻る予定はなかったんです。父は2007年に私が研究していた脳卒中にかかり、後継を考えるようになりました。翌2008年10月には、岡山大学を退職して、私がこのクリニックを引き継ぎました。2010年にはクリニックを改築して今の場所へ移り、地域に暮らす高齢者にとって交流の場となるような明るく過ごしやすい雰囲気に仕上げました。近年は独居の高齢者が増え、人と話す機会が少なくなってきています。人と会話をするだけでも物忘れの防止につなげることができますので、皆さんにとって気軽に通えるクリニックであり続けたいと思っています。
大学病院ではどのような研究をされていましたか?
大学病院では、脳卒中のメカニズムと治療について研究をしていました。脳卒中などの脳血管疾患は日本の国民病であり、死因第4位です。岡山大学では認知症を専門的に扱っていたため、認知症の治療に携わるようになりました。今も岡山大学で臨床教授と非常勤講師を務め、年1回医学部の学生に講義を行っています。2016年4月から自治医科大学でも教壇に立っています。昔は治療法がなかった病気もいろいろな薬が出て、医療技術は進歩しています。患者さんに医療の恩恵を受けてもらえるように、適切な治療を提供していきたいですね。
どのような患者さんが通われているのでしょうか?

脳卒中・パーキンソン病・認知症の方を中心に、頭痛やしびれで悩んでいる若い方も多く受診されますね。もちろん高血圧・脂質異常症・糖尿病など生活習慣病の管理や風邪・インフルエンザなど内科診療も行っています。以前、108歳の草加市最高齢の方を診療させていただいたこともありました。今はその方はお亡くなりになりましたが、クリニックの歴史に合わせ診療の幅も広がってきました。最近は予防意識の高まりもあり、40歳以上の方を対象とした特定健診を受けに来られる方も多いです。
大学病院や在宅医療への橋渡しとなるコンシェルジュに
独居の高齢者が増えていることについてどのように思われますか?

老老介護も独居も増え、今後高齢者の生活がどうなっていくのかを本当に心配しています。IT化の進んだ現代でも、ご高齢ですとパソコンの操作に不慣れな方もいらっしゃいますよね。最近でも「ワクチンのオンライン予約が難しい」というお困りの声をよく耳にします。このようにご高齢でお一人だけの生活では不便も生じます。またご高齢のご夫婦の場合、どちらかが亡くなられた後に、残された方の認知症が進んでしまうケースがとても多いのです。介護保険を通じて医療や福祉を頼り、ケアマネジャーや社会との接点を持ってほしいと思います。
診療時に心がけていることを教えてください。
患者さんとお話しする時は、笑顔で接するように心がけています。なぜ治療を受ける必要があるか理解されていない方もいらっしゃいますが、病気を理解した上で納得して治療を受けてもらうことが大切です。治療は薬を出すだけじゃありません。医師が上から目線でお話しすると、患者さんは説明がわかりにくいだけでなく、聞きたいことも聞けなくなってしまいますから。そして、それぞれの病気にフォーカスを合わせて説明することも心がけています。例えば、脳卒中や認知症の患者さんには適切な栄養や食事の話、頭痛の患者さんには日常で気をつけるポイントなど、といった具合です。一度にたくさんの話をすると、結局何が大切なのか、患者さんは混乱してしまいます。時には世間で話題のニュースなどから引用し、わかりやすい例え話を織り交ぜることもありますよ。
最後に今後の展望をお聞かせください。

私は、地域のかかりつけ医としての役目を大切にしています。気軽に通えるのがクリニックの良いところ。病気や治療について丁寧に説明し、納得して治療を受けてもらえるように心がけています。獨協医科大学埼玉医療センター・草加市立病院・日本医科大学付属病院と連携し、ほかの草加八潮医師会の先生方との横のつながりも大切です。当院は、患者さんの状態を把握し、大学病院や在宅医療への橋渡しとなる、地域のコンシェルジュ。不安なことがあった場合に、何でも気軽に相談できるような患者さんの駆け込み寺でありたいですね。地域医療に携わり、患者さんとの距離が近くなりました。これからもより近づけるように、優しく丁寧に説明して、患者さん自身が納得して受けられる適切な治療に取り組んでいこうと思います。