草刈 麻衣 院長の独自取材記事
くさかり小児科
(所沢市/東所沢駅)
最終更新日:2025/09/24

扉を開けると、かわいらしくデフォルメされた魚や恐竜のステンドグラスが目に飛び込んでくる。ここは、東所沢で約40年、地域の子どもたちの健康を支え続ける「くさかり小児科」だ。草刈麻衣院長は、2024年に初代院長である父から同院を継承。日本周産期・新生児医学会周産期(新生児)専門医の資格を持ち、小児の消化器や肝臓の疾患にまつわる専門的な知見も駆使して、悩める親子に寄り添ってきた。「病気を診るのはもちろんですが、お子さんの成長を親御さんと一緒に喜び合えるのが小児医療の何よりの醍醐味なんです」。そんな言葉がおのずと出てくるところに、草刈院長の思いやりが垣間見える。3児を育む母として、故郷の小児医療を支える医師として日々奮闘する草刈院長に、診療におけるモットーを聞いた。
(取材日2025年8月25日)
子どもの成長を喜び合える。それこそが小児科の醍醐味
勤務医時代はどのような経験を積まれたのですか?

2008年から1年間、長野赤十字病院でNICUでの診療に携わり、小さな命と向き合う貴重な経験をしました。その後、長野県立木曽病院に勤務した際は、周囲に小児科医院がほとんどなく、100km圏という広い範囲の小児患者さんの対応を行う経験もしました。地域の最後の砦といってはいいすぎですが、診断の責任の重さを学ぶことができたと思います。また、長野県立こども病院では新生児医療の前線で、ドクターカーに乗り現場へ向かい、新生児蘇生を行うことも。具合の悪い赤ちゃんが生まれたという連絡を受けては駆けつけ、車の中で処置をしながら病院へ搬送する。そうした限られた時間、医療設備で最善を尽くさなければいけない、まさに救急対応の連続でしたね。でも、これらの経験すべてが今の診療の礎になったんだと思います。
診療をする上で大切にしていることについて教えてください。
お子さんと大人の診療には、一つ大きな違いがあるんです。それは、「お子さんは成長・発達する」ということ。ですので、目の前の症状だけでなく、前回はどうだったか、生活背景はどうかなど全体を見渡しながら診療するようにしています。例えば、咳や鼻水があるからといって薬を出しておしまいではなく、その背景に喘息などが潜んでいないかも注意深く診ることが大切です。また、お子さんの成長を親御さんと一緒に喜び合えるというのは、小児科の医師ならではの特権ではないでしょうか。今までは診察室でずっと泣いていた子が、きちんと座って診察を受けられるようになった。それだけでも大きな成長ですよね。医師を続けていて良かったな、と思える瞬間です。小児科医の究極の役割は、その子なりの成長を見守ることなのかもしれません。
先生ご自身も子育て真っ最中だそうですね。

はい。私には3人の子どもがいますが、子育てで困ったことなどを、机上の空論ではなく実体験として親御さんにお話しできるようになったことは大きいですね。「うちの子もこうだったけれど、こうしたら良くなりましたよ」と具体的にお伝えすると、親御さんたちも「そうなんですね」と納得感を持って聞いてくださるように思います。親御さん方に感情移入しがちな部分もあるので、それは今後の課題ですね(笑)。たとえ親御さんが困ってお子さんを連れて来られたケースであっても、診るべきはやっぱりお子さんご本人。今何に困っているのか、何がつらいのか。上手に話せなかったとしてもちゃんとお子さんの声に耳を傾けるようにしていきたいですね。
周産期・新生児の専門知識を生かし、適切な診断が強み
周産期(新生児)専門医としての強みについて教えてください。

親御さんはお子さんのちょっとした変化にも不安を感じるものですよね。その不安に対して専門的な知見から適切なアドバイスができることが強みではないでしょうか。例えば赤ちゃんの嘔吐一つとっても、原因はさまざまです。吐く回数が多くても体重が増えていて機嫌が良ければ様子を見て良い場合と、緑色の胆汁様嘔吐ですぐに病院へ行かなければいけない場合では対応がまったく違ってきます。中腸軸捻転症のような緊急手術が必要な病気の可能性もあれば、成長発達に伴う生理的な症状かもしれない。こうした見極めをして、お子さん、親御さんの安心につなげられるのが専門の医師の強みであり役割と考えています。また、親御さんへのアドバイスの仕方も工夫が必要です。例えば「様子を見てください」と伝える時も、半日なのか一週間なのか、どの程度様子を見れば良いのかまで具体的にお伝えすることで、親御さんがご帰宅後に困らないよう心がけています。
お子さんの栄養や消化管、肝臓に関する専門的な知識も持っていらっしゃるとか。
消化器の病気は、小児ですとそれほど多いわけではないのですが、「おなかが痛い」と言って来られるお子さんはとても多いので、専門的な視点で原因を探るようにしています。特に中学生くらいになると炎症性腸疾患や潰瘍性大腸炎の発症率が上がるので、町の診療所として最初の窓口の役割を果たし、必要があれば専門の病院へおつなぎすることも重要ですね。ちなみに、おなかが痛いという訴えの中で最も多いのは便秘です。「放っておけば治るかも」と考えがちですが、慢性化すると大人になってからもつらい思いをしますし、十分にご飯が食べられなくなると成長にも影響します。排便のたびに痛がり、毎回苦痛を味わうことでQOLが著しく下がってしまうことも。何より、お子さんご本人はとってもつらいと思うので、「便秘は立派な治療対象」であることをご理解いただき、早めの治療の大切さを伝えていきたいですね。
先進の検査機器も積極的に導入されているそうですね。

最近はインフルエンザが増えていることもあり、AI搭載の検査機器を導入しました。この小さな検査機器で喉を撮影するだけで対応できます。従来の鼻に綿棒を入れる検査は痛みや不快感が伴うので、お子さんにつらい思いをさせたくないと思い導入しました。しかも発熱初期からの診断に使用できるので、早期治療にも役立ちます。また、起立性調節障害の診断用に特殊な血圧計も導入しました。朝どうしても起きられないというお子さんが「怠けている」と誤解されて先々不登校につながる、といったことが起きないよう、その場で起立試験ができる体制を整えています。
育ててくれた地元に小児医療で恩返ししたい
先生が医師を志したきっかけを教えてください。

小児科の医師として、地域の子どもたちを支える父の背中を見て育ったことが一番大きいですね。私自身も小さい頃はアトピー性皮膚炎に悩んでいたので、「私も誰かの助けになりたい」と思い医学部に入学しました。信州大学の小児科でお世話になった先生との出会いも、私の背中を押してくれたように思います。その先生にふと「どうして小児科を選んだんですか?」と聞いたら、こんな答えをくださったんです。「だって、小児科の医師は子どもたちのヒーローでしょ?」と。その言葉は今も忘れられませんね。子どもたちのために熱意を持って働く先輩方の姿には、本当に心を打たれました。また、東所沢に戻って当院に勤務することになった際、幼い頃にお世話になった地域の先生方にもあいさつに伺いました。その時、「今度は自分が地元に恩返しをする番だ」と身が引き締まりましたね。
今後の展望についても聞かせてください。
地域の方々から「ここに来れば大丈夫」と頼っていただける場所でありたいと考えています。不安なことがあっても、ちゃんと診てもらえる、親身に相談にも乗ってもらえる。そんな安心感を提供できるクリニックにしていきたいです。また、当院で父と一緒に診療をするようになって改めて思いましたが、40年以上診療を続けていながら今でもアップデートを怠らない父の姿勢に尊敬の念を抱いています。私も父のように日々研鑽を積み、患者さんに還元していきたいです。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

当院では、発熱症状のある方も安心して来院できるよう動線を分ける工夫をしていますし、時間予約と順番予約の双方に対応していますので、皆さんのご都合に合わせて通院ができると思います。ちょっとしたことでも構いませんので、困ったことがあればどんなことでもご相談にいらっしゃってください。「子どもたちのヒーロー」と呼ばれるにはまだまだですが、お子さんたちが安心してこの地域で育っていけるよう、少しでも助けになれたら幸いです。