金子 達 院長の独自取材記事
金子耳鼻咽喉科クリニック
(宇都宮市/東武宇都宮駅)
最終更新日:2025/09/30

東武宇都宮駅から車で約7分。「金子耳鼻咽喉科クリニック」の院長を務める金子達先生は、西洋医学と東洋医学を併用した治療に取り組み、同院ではめまいや難聴、耳鳴り、アレルギー疾患から感染症まで、幅広く診断治療。のみならず、栃木県の耳鼻咽喉科、東洋医学への貢献に心を砕いてきた。栃木県下の全学校での耳鼻科検診実施をめざすなど、県全体の医療・保険体制整備にも尽力している。そんな金子院長に、漢方治療やアレルギー治療、今力を入れていることなどについて教えてもらった。
(取材日2025年8月7日)
西洋医学と東洋医学、両方に通じたオーダーメイド治療
漢方を併用して治療を行っているのですね。診療にあたり大事にしていることを教えてください。

患者さんには、「治療しますよ」「治らなければ遠慮なく言ってください」と、きちんと伝えることですかね。治らなければ、患者さんのほうから「先生、治らないよ!」と報告しやすくするためです。治らないということは、どこかに見立て違いがあったということですから、戦略を立て直し、使う漢方薬を変えていきます。その際は必ず、どうして薬を変えるのかをしっかりお話しし、納得した上で服用を続けてもらえるようにしていますね。治療にかかる期間は人と症状によりけりですが、例えば低音障害性の難聴などでは、早ければ1週間かからないこともあります。ただし内耳の問題でなかなか治療が進まないケースもありますから、治療計画の修正は適宜行っていきます。
漢方を併用して治療を行っているのですね。
はい、両方の良いところを取り入れて治療を行っています。西洋医学では、身体診察や問診、検査結果などから診断を下しますが、東洋医学には、おなかを触ったり、脈を診たり、舌を診たりといった独自の診察方法があります。そうやって体の状態や症状の原因を診断し、一人ひとりに合った漢方薬などを使っていくのが、東洋医学の治療法です。西洋医学と東洋医学では向いているものが違うので、西洋医学的診断だけではやはり不十分。西洋医学では難しくても、漢方では治療が可能な病気もあります。西洋医学的診断に基づいて考えた上で、東洋医学的なことも併せて考え、最適な治療法を探すべきだと思います。
漢方治療とはどういうものになるのでしょう?

実際の症状や体の状態を診て、患者さんの心身の状態に合った漢方薬の処方を行っていきます。だから、例え同じ病気でも、人によって処方する薬はさまざまです。まあ常識的には、冷えている人には暖かくする、熱い人には冷やす、水分代謝がうまくいっていない人には水を流すために薬を出すのが基本でしょうか。漢方には、「本治(ほんち)」と「標治(ひょうち)」という言葉があって、「本治」とは根本的な体質改善をめざして治療すること、「標治」とは表面に出ている症状を抑えるため治療をすることを指しますが、漢方は「標本両治」。症状を取り、そして根本的な体質を改善する、この両方をめざすものです。体の弱点を補いながら治療していくのも、西洋医学にはない漢方治療の特徴ですね。例えば、夏バテの改善に「清暑益気湯」という薬が使われることがありますが、漢方薬には、そのような体の弱点を補うための薬「補剤(ほざい)」も数多くあります。
舌下免疫療法など、アレルギー治療も対応
漢方治療が特に向いている症状には、どんなものがありますか?

いろいろありますが、例えば難聴やめまい、耳鳴りでしょうか。突発性難聴は西洋医学的対処が優先ですが、発症から時間がたっている場合は治療が難しいです。漢方治療なら、1年や3年、10年前に発症した難聴にも対応しやすいです。なお、東洋医学的には、難聴やめまい、耳鳴りは一連の疾患と考えられます。ただ原因はさまざまなので、何がそれらを引き起こしているのかを見極めた上で、漢方薬を選んでいきます。例えば、低気圧が来ると頭痛がするという人は、体の水の流れが滞る「水毒(すいどく)」の可能性が高いので、水の流れを良くするために、例えば「五苓散」を処方したりします。もちろん、生理不順や便秘などほかにも問題があるなら、その改善も含めて薬を選んでいきます。また帯状疱疹なども、西洋医学の薬と併せて漢方薬を使い、疱疹だけでなく疱疹の治癒後も続く神経痛にも対応していきます。
舌下免疫療法やアレルギー治療も行われていますね。
この2つを目的に来られる患者さんは多いですね。2025年1~3月の集計では、舌下免疫療法の患者さんだけで四百数十人。それ以外のアレルギー治療の患者さんはその何倍か来られました。もともと漢方薬はアレルギー治療全般に使いやすいものですが、スギ花粉やダニアレルギーに関しては有用とされる舌下免疫療法があるので、そちらをメインにしています。なお院内には、約30種類のアレルギー検査を30分ほどでできる機器もそろえており、お子さんのアレルギー検査も可能です。西洋医学と東洋医学の併用で、スギ花粉の最重症患者さんの治療や、スギ花粉とダニ以外によるアレルギーの治療にも対応しています。
検査設備にはこだわりがあるそうですね。

西洋医学の診断に基づいた上での漢方治療なので、検査設備には確かにこだわり、周波数別の聞こえを調べる聴力検査から言葉の明瞭度検査まで、細かい検査をしっかり行っています。聴力検査のデータは20年分をコンピュータで保管しており、いつでも患者さんに、過去の記録を見せられるようになっています。治療の経過が目に見えてわかるので、漢方治療を続けるモチベーションにもなればうれしいですね。言葉の明瞭度検査は、言葉の聞き取り度合いを測るために行われます。人の話す言葉の何%を聞き取れるのかを調べているクリニックは多くないようですが、うちでは検査しています。特にこれは漢方薬で有用性が発揮されます。また、感染症にも対応して、PCR検査や白血球分離検査も院内でできるようになっています。
栃木県全体の医療体制整備にも尽力
診療以外でも広く活動されていると聞きました。

今は、研究発表や若手の先生の指導などぐらいです。2009年に新型インフルエンザが流行し、また今回の新型コロナウイルスでも医師会で感染症対策としてPCR検査体制をつくったりしました。そんな時に比べれば少し時間ができたので、最近はジムで筋力トレーニングをしたり、医療以外の社会を知るために社会団体活動にも参加したり、歴史人物の勉強会を開いたりもしています。
さまざまな活動の中で、最近、特に力を入れていることはありますか?
大変なのは、母校の同窓会事務ですね(笑)。医療関連では、栃木県の学校保健委員会・耳鼻咽喉科の委員長として、学校保健には力を入れています。現在、栃木県下では、市町村内に耳鼻科が専門の医師がいない所もあり、まだすべての学校での耳鼻科検診を実施できていません。医師をどう手配するかが課題で、今、検診実現に向けて動いているところです。それが2025~2026年のテーマですね。聞こえないことで学校でばかにされた子が、検査したら難聴だったということもあるので、早めに見つけて治療できるようにしてあげたいと思っています。また、今直接何かすることができる立場にはないですが、以前、精神科救急医療の病院群輪番制創設に関わったことがあることから、栃木県の救急医療の問題も気になっています。
なぜそんなに精力的に活動できるのですか?

何でしょう。常に前に行こうと前進する考え方だからですかね。しっかり診療を行っていけば、そのうちに患者さんは自然に集まってくると考えています。そんな日々の中で、患者さんのために今、自分ができること・取り組みたいと感じたことを大切にすることで、いろいろなことに精力的に取り組めていますね。
最後に、地域の方々に一言メッセージをお願いします。
「しっかり医師とコミュニケーションを取ってほしい」ですかね。医師側も心がけないといけないことですが、治療への不安や不満、聞きたいことなどがあれば、質問してほしいと思います。僕も、言いっぱなしにならないように気をつけています。ちゃんと聞きますので、思ったことはいつでも伝えてください。