坂口 由一 院長の独自取材記事
坂口医院
(薩摩川内市/上川内駅)
最終更新日:2025/10/23
薩摩川内市の中心部に位置する「坂口医院」は、前身の「坂口病院」から数えて50年以上、薩摩川内の地域医療を支えてきた。2005年より診療にあたる坂口由一院長は、温厚で物腰やわらかく、常に笑顔で患者と向き合う。そんな院長を頼りに、受付開始前から子どもを抱えた親たちが列を成す。坂口院長は小児科・内科の診療に注力しながら、川内市医師会副会長として地域全体の医療を見据える。「来て良かったと思ってもらいたい」と語る坂口院長に、3世代にわたる地域医療の継承、育児不安や不登校などへの取り組み、そして常に周囲への感謝を忘れない診療姿勢について聞いた。
(取材日2025年10月1日)
50年にわたって地域住民の健康を守り続ける
たいへん歴史ある医院と伺いました。継承の経緯を教えてください。

祖父が50年ほど前に、当院の前身である「坂口病院」をこの地で開業し、その後、父が継いで内科の病院として運営していました。子どもの頃に見ていた、夜中に頻繁に往診に出て行く父の姿はとても印象に残っていますね。私は久留米大学卒業後、小児科医として久留米市にある聖マリア病院、八女市や飯塚市の病院などで研鑽を積んでいたのですが、八女市の公立病院に勤務中、父が急逝し、帰郷することに。医師6年目の時でした。帰ってきた当初は、成人の診療経験がほとんどなく、応援の先生方の診察を見よう見まねで学びながら、手探りで診療を始めました。祖父と父が築いてきた、この地域に根差した医療を絶やすわけにはいかないという思いで、今日まで診療を続けています。
お祖父さまやお父さまと同じ内科ではなく、小児科医を志したきっかけは何だったのでしょうか?
大学の臨床実習で担当させてもらった、2人の慢性疾患のお子さんとそのお母さん方との出会いが大きいです。その子たちは風邪をひいて発熱したり肺炎になったりして入退院を繰り返していたのですが、お母さん方から普段の生活や困り事などをじっくり聞かせてもらいました。まだ医学生の私に何ができるわけでもないのに、とても信頼してくださって。その時の充実感、人と人とのつながりの大切さを実感したことが、小児科を選ぶ決め手になりました。内科と迷っていた時期もありましたが、あの子たちやお母さん方との出会いがなければ、違う道を選んでいたかもしれません。
2011年の改築では、木材を使った温かい雰囲気にこだわったそうですね。

「かごしま木づかい推進事業」という県産材使用の助成金を頂けることになり、できるだけ木材を多く使いたいと考えました。いい意味でクリニックらしくない、患者さんがゆったりくつろげるような建物にしたくて、設計士さんと相談を重ねました。ちょうど東日本大震災と時期が重なり、建材が手に入りにくく苦労もありましたが、なんとか理想に近い形になりました。ちなみに、院内の折り紙飾りは看護師さんたちの手作りなんですよ。季節ごとに作り変えてくれて、子どもたちが「あれは何?」と興味を示してくれます。院内の装飾は、少しでもリラックスして診察を受けてもらいたいという目的のほかに、子どもたちの注意を引く目的もあります。私は白衣の胸にクマのアップリケをつけていますが、これも子どもの視線を集める工夫の一つ。例えば予防接種のときなどに「クマさんがいるよ」と目を向かせて、その間にさっと注射をするといった具合です。
「ここに来て良かった」と笑顔で帰ってもらいたい
小児科・内科として、どのような患者さんが来院されていますか?

お子さんが中心で、風邪や予防接種、健診で来られる方が多いですね。最近の特徴としては、お父さんお母さんも一緒に診てほしいという要望が増えています。子どもの付き添いで来たついでに、ご自分の体調不良も相談されるんです。一方で、祖父の代から通ってくださっている高齢の患者さんもいらっしゃいます。高血圧や糖尿病などの生活習慣病の管理が中心ですが、長年の信頼関係があるからこそ、ちょっとした不調でも相談に来てくださる。年代としては乳児から高齢者まで本当に幅広く、まさに家族全体を診させていただいている感じです。専門性の高さというよりも、地域のゲートキーパーとして、必要に応じて適切な専門の医療機関につなぐ役割も大切にしています。
育児不安や不登校といったお悩みにも応えていらっしゃるとか。
子育てに関するご相談は多く、赤ちゃんの夜泣きから始まって、最近特に多いのが不登校傾向のお子さんについてのお悩みです。朝起きられない、学校に行けないという悩みを抱えた親御さんが増えているように思います。そうしたお悩みに対しては、まず生活習慣を詳しく聞き、睡眠時間が不足していないか、環境的な要因がないかなどを確認します。明らかに環境的な原因がある場合は、その改善方法を一緒に考えます。また、必要であれば心療内科に紹介することもありますが、紹介先も、その子の性格や家庭環境を考慮して、「この子にはこの先生が合うかな」と、相性まで考えて紹介するようにしています。体調不良の原因がはっきりしない若い世代の方も来られますが、話をじっくり聞くだけで楽になる方も多いもの。薬を出すだけでなく、しっかり話を聞いて、寄り添いながら一緒に解決策を考えることも大切な役割だと思っています。
診療で心がけていることを教えてください。

「ここに来て良かったな」と思って帰ってもらえることが一番大切だと思っています。できれば皆さんに笑顔で帰ってもらいたい。そのためにも、特にお子さんは自分の症状をうまく伝えられないので、お母さんお父さんの話をしっかり聞くことを心がけています。また、診察や注射で泣いてしまう子は多いですが、頑張った時は「よく頑張ったね」と褒めるなどして、お子さん自身との関係も築けるように心がけていますね。時には厳しいことを言わなければならない場面もありますが、それでも患者さんの不安を取り除いて、安心して帰ってもらうことを第一に考えています。医療技術だけでなく、患者さんとの関係性を大切にすることが、地域のかかりつけ医として最も重要なことだと思います。
次世代へつなぐ地域医療への思い
複数の医師やスタッフとの連携について聞かせてください。

妻の坂口奈奈先生が小児科医として一緒に診療していまして、特に発熱の外来は彼女がほぼ担当しています。新型コロナウイルス感染症の流行以降、感染症の窓口として本当に忙しく働いてくれていて、頭が下がります。ほかにも高橋利直先生、鴨川泰之先生、井手上淳一先生と、それぞれ消化器内科や循環器内科など専門を持った先生方が曜日ごとに診療しています。患者さんによって相性や診療スタイルの好みがありますから、「この先生にぜひ診てもらいたい」と指名されることも多いんですよ。それから、当院の看護師さんたちも、患者さんへの気配りが素晴らしくて。自分一人では到底できないことを、スタッフみんなで補い合いながらやっているという感じで、スタッフなくしてはこの医院は成り立ちません。みんなには心から感謝しています。
坂口先生は川内市医師会の副会長も務めていらっしゃいますが、地域医療の課題をどう見ていますか?
率直なところ、子どもの数が減っている現在、小児科がどのように存続していけるかは非常に大きな課題です。ただ、この地域から小児科がなくなってしまったら、患者さんは本当に困ってしまう。中でも、小児の救急の外来はなかなか担い手がいないのですが、尊敬する先輩である関小児科医院の関浩孝先生は、月の3分の2も夜間小児救急を担当されていて。ご自身が大きな負担を抱えても、子どもたちを救うために続けてこられました。その思いを途絶えさせるわけにはいかないと、私は思っています。小児医療の集約化は避けられない流れですが、取りこぼしがあってはいけない。全部を一人で背負うのではなく、それぞれができることを分担しながら、地域医療を守っていく。そのための仕組みづくりを、医師会としても模索している最中です。前を走ってきた先生方の背中を見てきた以上、次世代につなぐ責任があると感じています。
最後に、子育て世代の読者へメッセージをお願いします。

お父さんお母さんだけではなく、いろんな人の手が加わって、子どもは育っていくものだと思います。不安なことがあれば、遠慮なくかかりつけの小児科医に相談してください。必ず解決できるとは限りませんが、何かのきっかけになる可能性はあります。医師も含めて地域で協力しながら、子どもたちが健やかに育つよう支えていきたいと思っていますので、どんどん気軽に利用してくださいね。

