柿木 博成 院長の独自取材記事
柿木産婦人科
(鹿児島市/高見馬場駅)
最終更新日:2025/09/22

鹿児島市の加治屋町にある「柿木産婦人科」は、1962年の開業以来60年以上にわたり地域の出産を支えてきた。2025年7月に有床診療所へ転換し、持続可能な運営を続ける同院。柿木博成院長は「全国的な分娩数減少に対応しながらも、地域の皆さまの声に応えていきたい」と穏やかに語る。フリースタイル分娩から無痛分娩まで幅広い選択肢を提供し、全室個室の入院環境と助産師や看護師が付き添い出産を支える。「家族のように寄り添う」というスローガンのもと、妊娠中から産後ケアまでトータルでサポートする同院には、親子2代で出産する家族も多い。時代の変化に対応しながら地域医療を守り続ける、先生の診療への想いを聞いた。
(取材日2025年8月20日)
60年の歴史を次世代へつなぐ診療体制
今年7月に病院から有床診療所に転換されたきっかけを教えてください。

全国的な分娩数減少に対応するため、持続可能な運営を考えて所帯を小さくしました。病床数は32床から19床に減らしましたが、スタッフの数はさほど減っていないので、今まで同様手厚いケアができています。「地域の産院を残してほしい」という声に応えるためには、分娩数が減少しても運営を継続できる体制が必要でした。1962年の開業から60年以上、この加治屋町で出産を支えてきた歴史があります。最近は、当院で生まれた子が今度は親となって来院されるということがあり、親子2世代、3世代と当院を選んでいただけるのは本当にありがたいことだと思っています。所帯を小さくすることで、結果的に地域の皆さまに永続的に医療を提供できると考えています。
リニューアルされた待合室や病室のこだわりを教えてください。
待合室のブランディングは専門のコーディネーターにすべてお任せしました。ベージュを基調としたラグジュアリーな雰囲気で、壁面のアートも季節により変わるんですよ。病室は全19室すべて個室です。水回りが共用のお部屋から、トイレ・シャワー・電子レンジ・冷蔵庫完備の特別室まで4タイプご用意しています。「なるべく分娩費用をコンパクトに抑えたい」という方から「水回りも含めて個室で完結したい」という方まで、それぞれのニーズに応えられるようにしました。現在は半分ほどリニューアルが終わったところで、改装済みのお部屋からお好みで選択いただいている状況です。1、2ヵ月後には全室の改装が終わる予定です。
分娩方法に特徴があるとお聞きしました。

当院では、無痛分娩、フリースタイル分娩、ソフロロジー分娩といった3種類の分娩方法があります。私自身は1994年から無痛分娩の経験を積んできました。フリースタイル分娩については東京の実績ある医療機関から直接ノウハウを学び、ソフロロジー分娩は熊本の松本産婦人科まで実際に赴いて指導を受けました。フリースタイル分娩と無痛分娩は対極にあるような分娩方法ですが、どちらも患者さんが求めているスタイルです。幅広いニーズに寄り添えるよう、それぞれの分娩方法を提供できる環境を整えていることが当院の特徴です。
さまざまな分娩法と産後ケアへのこだわり
フリースタイル、ソフロロジー、無痛分娩それぞれの特徴について教えてください。

フリースタイル分娩とは、分娩台に縛られることなく、横向きや四つんばいなど、その方が出産しやすい姿勢を自ら選びながら産むスタイルです。ソフロロジー分娩は、「陣痛の痛みを喜びに変える」というポジティブな発想で挑む出産法です。妊娠中にイメージトレーニングやエクササイズなどを通してリラックスした状態で出産できるよう訓練していきます。無痛分娩は麻酔を使用し痛みの軽減を図る方法になります。一見対極にある分娩方法ですが、どれも「ご自分のペースで出産できる可能性のある有力なツール」として、それぞれの特徴を理解していただき、ご自身に適した方法を選んでいただけるよう努めています。
産後ケアにも力を入れていらっしゃるそうですね。
産後のメンタルヘルスは日本で大事にされていることの一つです。当院では以前からこだわりを持ってやってきましたが、今は国も産後ケア事業に公費助成を始めています。私たちも早くから手挙げをして、日帰り型と宿泊型の産後ケア事業に参画させていただいています。農耕民族の日本人の育児は、そもそも集団で行うものでした。核家族化が進み、女性が孤立して育児をする環境から精神的なトラブルが増えているのが現状です。できることに限りはありますが、なるべくサポートさせていただくことが今一番大事なポイントの一つだと考えています。妊娠中から分娩、そして産後1ヵ月健診まで、その先の育児につながるマインド作りができるような場所でありたいと思っています。
先生が診療で大切にしていることを教えてください。

「家族のように寄り添う」というスローガンに沿って、お一人お一人の気持ちに寄り添って医療を提供することを大切にしています。幸いにして電子カルテではないので、端末に向かって打ち込む作業がなく、なるべく患者さんと目を合わせて診察が可能です。限られた診療時間内ではありますが、「最後にお聞きになりたいこととか、ご質問とかありませんか?」という声かけも忘れないようにしています。信頼関係は表情一つ、姿勢、声かけの積み重ねから構築されるもの。妊婦健診の頃から培われた信頼関係が、最終的な分娩環境で発揮されて、ご出産いただける流れを作っているのかなと思います。「ここに来て良かった」と思っていただけるような、そんな診療を心がけています。
スタッフと築く理想の分娩環境
スタッフとの連携で特徴的なことはありますか?

手前みそになりますが、私が何か指示や指導をする必要がないぐらい、当院のスタッフはみんな言葉遣いが丁寧で優しいです。特に誇りに思っているのは、分娩第一期から出産が終わるまで、ほぼずっと助産師がつきっきりで担当させていただくこと。これは私が指示したことではなく、スタッフたちが代々引き継ぎながら作り上げてきた当院の分娩環境なんです。新しいスタッフは「院長がそう作り上げた」と勘違いするぐらい根づいています(笑)。スタッフたちが「妊婦さんファースト」にこだわりを持って、作り上げてきたものなんです。
今後、地域にとってどんなクリニックでありたいですか?
鹿児島市内の数ある産院の中から当院を選んでいただく方に、ご自分の理想に近い分娩体験をしていただければと思います。ただ、理想どおりにいかない場合もあります。自然分娩を希望していた方が、子どものために帝王切開を決断していただくこともある。そういう分娩になった方にも、その分娩に胸を張れるような環境を提供できるよう努めていきたいです。実はこの加治屋町は、明治維新から日露戦争まで日本を動かした偉人たちの発祥の地なんです。そんな歴史を持つ土地にある産院として、これからも地域の皆さまに選んでいただけるよう、時代のニーズに応えていきたいと思っています。
これから出産を考えている方へメッセージをお願いします。

当院をご検討いただける方には本当に感謝しています。ぜひ一度足を運んでいただいて、当院の分娩環境をのぞいていただければと思います。妊娠から出産、そして産後1ヵ月健診でお別れすることになりますが、何かあったら当院に最初に電話していただければ、できることはさせていただきますし、できない時は一緒に道を探すような努力をいたします。