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堤 晴彦 病院長の独自取材記事

埼玉医科大学総合医療センター

(川越市/川越駅)

最終更新日:2019/08/28

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埼玉医科大学総合医療センターは、病床数991、世界トップクラスの総合周産期母子医療センターや高度救急救命センター、ドクターヘリを擁する基幹病院である。ここまでの規模を持つ大学病院は、2015年12月現在、関東圏には2つしかなく、人口10万人あたりの医師数、看護師数、ベッド数も全国平均からかなり下回っている埼玉県において、その重要度は計り知れないものがある。そのような病院を現在率いているのが、堤晴彦病院長だ。堤病院長は日本の救急医療をここまで確立するのに尽力したうちの一人で、診療面でも運営面でもこれまでの経験に基づく持論を持っている。類まれな行動力で進化を続ける大規模病院を牽引する堤病院長に、その熱い思いを聞いた。
(取材日2015年12月9日)

とにかく患者を助けるために何をすべきか、と考えた新人時代

大学ご卒業後のお話をお聞かせください。

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神経系に興味がありましたので、大学では脳神経外科に入局し、大学卒業の翌年には都立病院に派遣されました。当時の救急医療は、内科や外科の当直医が片手間に診ているという状況で、助けられなかった命も少なくありませんでした。私なりにさまざまな勉強をしましたが、救急医療はもはや個人の努力でどうにかなるものではない、これは組織・システムの問題であることを実感したんです。そこで勤務していた大学を辞め、車に荷物や本を積み込んで大阪の救急医療を専門に行なっている診療科のある病院に向かいました。突然行きましたので、身分や肩書きもなく、もちろん無給。そのまま、病院に住み込みました。その後、母校である東京大学の附属病院に救急部をつくるということで呼び戻されました。当初は、各診療科から医師が派遣されるという話だったのですが、蓋を開けてみれば脳外科と麻酔科の医師しかいない。実際に診療ができる医師は、私ともう1人だけという状態でした。

各地の救命救急センターの体制確立にご尽力されていますね。

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東京大学医学部附属病院のあとは、東京都立墨東病院に救命救急センターが新設されるというのでその責任者として赴任しました。開設初日、最初の患者さんを受け入れたあと2人目を受けようとすると、看護師が「先生、救急患者は1日1人と決まっています」と言うのです。なぜかと聞きましたら、労使交渉でそう決まったとのこと。愕然としましたね。さらにあるときには看護師長が、今度国の監査があるからといって、実際には救命センターに勤務していない看護師の名前を使って勤務表を作り変えていたんです。本当に、驚きました。私は、監査当日「この勤務表は嘘です」と正直に伝えしました。 当然のこと、監査は突然中止。その夜、私は病院長から辞表を求められました。そこで、私は病院長あてに進退伺いを書き、都知事あてには退職届けとともに真相を書いた書面を作成し提出しました。その後、数箇月して看護師がいきなり増員されました。「堤は自らの首をかけて看護師を増やしてくれた」と、それをきっかけに多くの職員が私の味方になってくれて、救命センターの実績は急激に伸びました。そのときから「動くときには動く」が私の信条になりました。その後、本学の理事長に声をかけて頂き、こちらの病院に赴任しました。

関東圏でも屈指の規模の病院だと伺いました。

埼玉医科大学総合医療センターの特徴は、総合周産期母子医療センターと高度救急救命センター、ドクターヘリ、すべての分野を網羅した診療科の豊富さにあります。その規模の大学病院は、関東圏ではわずか2つのみです(2015年12月現在)。また埼玉医科大学のグループ全体では3000床以上の規模になります。時代の流れで各診療科は専門分野別に細分化されましたので、今は、それらを統合するシステムを作らなければ、と考えています。私たちは厚生労働省の掲げる5疾病(がん、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、精神科)5事業(救急医療、周産期医療、小児救急、災害医療、へき地医療)にも対応しています。へき地医療に関しては、埼玉にはへき地がないものですから沖縄での研修を始めました。研修開始前には、当時米軍基地問題で忙しかった沖縄県知事がお越しになり、その姿を見てトップに立つ人は自ら動くものだ、と感心しました。

関東圏屈指の規模を誇り、救急医療や災害派遣でも貢献

ドクターヘリや災害派遣でも活躍なさっていますね。

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本学の最大の特徴は、圧倒的なスピード感にあります。医師を1人増やすにも時間のかかる病院が多い中で、必要なこと、良いことであればすぐに対応してくれます。だからこの私が20年も勤められているのかもしれません。災害派遣においても、東日本大震災やニュージーランド、ネパール、四川省などさまざまな現場で活躍しています。東日本大震災では発生初日にDMAT(災害派遣医療チーム)を派遣。ドクターヘリも派遣しました。他のチームが次々と撤退していく中で約2ヵ月間第8陣まで派遣し、現在も緩和ケアのチームを中心に「お医者さんのお茶っこ」を実施して被災者に寄り添うケアを続けています。ドクターヘリは昨年8周年、2000回フライトを達成しました。埼玉県では交通事故死者数はこの10年間で半減させていますが、ドクターヘリの存在と活躍もこの成果に一役買っています。今後は夜間のドクターヘリによる救急搬送も実現していきたいと考えています。

長期計画に従って発展されているそうですね。

当院の総合周産期母子医療センターは、世界的に比べても遜色ない規模を誇っています。お母さんの集中治療室は30床、新生児集中治療室が60床、もう少し大きい赤ちゃん用に48床を用意しています。周産期・新生児医療の基幹研修施設であり、新生児蘇生法の拠点でもあります。ここを卒業して成人した方の、新生児当時の最小体重はわずか400g弱です。障害が残ってしまった子供を受け入れるために、新たに「カルガモの家」という医療型障害児入所施設もオープンさせました。他にも看護師寮や高度救命救急センターの新棟も建設。今後は本館のリニューアル工事も行う予定です。新しい本館では診療科別の医局講座制を廃止し、かなりの面積を占めていた研究室を新設の第2研究棟へ移します。本館は診療のための施設にするべきでしょう。さらに訪問診療、訪問介護、訪問歯科診療も充実させていきます。他にも職員の子ども達のための保育園を24時間対応にしたいのですが、保育士の数が足りず実現できていません。早く対応したいところです。

今後、この病院がめざす方向性についてお聞かせください。

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「限り無き愛」を基本理念に掲げ、全米でも最も優れた病院の一つとされているメイヨークリニックと病院の成り立ちが似ていることから、日本のメイヨークリニックをめざしています。その理念は、「患者のニーズを第一にすべての患者に最善の治療を提供する」というものです。そのためにわれわれは全職員で新しいミッションである「Your Happiness Is Our Happiness(あなたの幸せが私たちの幸せです)」を共有しています。とはいえ、いくら患者のためといっても、病院経営が成り立たなくては本末転倒です。ですので私は「健全な財政基盤なくして、健全な医療なし」ということも言っています。不採算部門だからといって、例えば無菌室を廃止したり小児科を縮小したりしていたのでは、地域医療に貢献するという本来の目的が失われてしまいますから。

患者により良い医療を提供すために、職員の環境から整える

より良い組織作りのためには何が必要でしょうか。

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2015年10月に日本救急医学会総会を開催する時にポスターを作ったのですが、そこで「アンモナイトは滅び、オウムガイは生き残った」というダーウィンの言葉を引用しました。これは「生き残るのは強いものでも賢いものでもなく、最も変化に対応できたものである」という意味で、私は病院という組織にもこの言葉が当てはまる、と考えています。理詰めや力づくで組織を動かそうとしてもうまくいきません。大切なことは、周囲の変化に適応することです。人の行動原理は損・得や快・不快ですから、それを無視して組織づくりはできません。ポスターの背景には近々竣工する高度救急救命センターの設計図を描き、私たちは上手に変化に適応しながら進化を続けていますというメッセージも込めています。

軽症の救急搬送患者に対して別途追加の診療報酬を請求することを提唱されましたね。

これは現場から出た意見です。当センターは救急患者の受け入れを断らない方針で運営していますが、その結果、受け入れ患者数はずっと右肩上がりを続けてきました。しかし、いくらなんでもこのまま増え続けると現場はパンクしてしまいます。この時間外特別費用の徴収という考えを発表した当初はマスコミや国会などで議論を巻き起こしましたが、全国から賞賛と激励のご連絡を数多く頂いています。反対のお電話はわずか1件のみでした。当センターは、現場の意見を尊重する組織です。患者に適切かつ最良と思われる医療を提供することはもちろんですが、そのためにも働く職員の待遇改善にも真摯に取り組んでいくべき、と考えています。

車の中でお考えになったという「車中八策」について教えてください。

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私は当院の運営について8つの原則を考えました。まず最初に、1)組織・個人の志の高さを評価すること。次に、2)現場の意見を重視すること(アイデアは常に現場にあります)。3)きちんと自分の意見を主張できるよう、会議のあり方を見直すこと。そして、反対意見を尊重すること。4)組織は結局人で決まりますので、5年先、10年先の人材を発掘し育てること。5)診療の質を高めるために、頑張っているところには人も物もお金も付けること。6)診療は医師だけで成り立つものではなく、放射線技師や薬剤師、検査技師など数多くのメディカルスタッフの手により支えられているので、そうしたメディカルスタッフを大事にすること。7)健全な財政基盤なくして健全な医療なしの観点から、外部資金の調達を行うこと。8)職員を守る(医療事故などの場合)、最後は病院長である私が責任を取る。という8つの原則です。こうした病院の風土が醸成され共有され、良い組織とシステムが出来上がれば、地域医療に貢献できるより良い医療が提供できると考えております。

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