日吉 巧 先生の独自取材記事
日吉歯科
(北区/十条駅)
最終更新日:2025/06/06

北区上十条の地で、日吉賢次院長が40年以上診療を続けてきた「日吉歯科」。2024年には、息子で歯科医師の日吉巧先生が加わり、親子で診療を行う。父の姿を見て、小学校低学年の頃から歯科医師に憧れていたという巧先生。自宅でも学術書などにあたり、勉強を怠らない父を尊敬してきたという。そんな自身も院長ゆずりの勉強家であり、これまで作成した英語学術論文は29報にも及ぶ。そんな巧先生がポリシーとする「エビデンスに基づく治療」とは何か、話を聞いた。
(取材日2025年4月8日)
全身の健康に影響する歯周病を研究
まずは先生のご経歴をお教えください。

はい。私は新潟大学歯学部を卒業後、大学院に進みました。大学院で取り組んだのは、歯周病の重症化や治療薬の研究・開発です。それらの研究は同大の教員となってからも継続しました。歯周病を専門にしたのは、全身の状態に大きな影響を及ぼす病気だからです。大学の最終学年までは臨床一本で進もうと考えていましたが、歯周科の教授に研究について教わり、歯周病について知れば知るほど興味が湧いていきました。歯周病の研究は臨床と密接に結びついています。研究した成果が、患者さんに還元できるという点も魅力的に感じた点です。新潟大学の助教となってから、アメリカのハーバード大学に1年間客員研究員として留学もさせていただきました。私の前に同じく研究員として渡米していた先輩から推薦を受け、これまでの成果やアメリカで研究したいことなどを伝えた結果、研究員となることを認めていただけました。
ハーバード大学ではどういった研究をされたのでしょうか。
歯周病の塗り薬の研究に取り組みました。すでに新潟大学での研究で、歯周病の重症化の仕組みや、ある自己免疫物質が炎症を重症化させるということを突き止めていて、それをより深化させる研究を行ったというところです。私が所属したハーバード大学の研究室は、医療工学系だったので、イオン液体というものを使い、新薬ができないかを研究しました。研究室は歯科に特化しているわけではなく、がんの免疫抑制といった歯科以外の研究にも一部携わりました。知識や技術が世界規模で集まる環境で研究に没頭できたことは、私にとって非常に貴重な経験となっています。
留学から戻られて日吉歯科に入職した理由とは?

当院に入職したのは、自分の歯科医師としての喜びの大部分が、やはり臨床にあると気づいたからです。留学中は臨床から離れ、ひたすら研究に没頭していました。研究も臨床も教育も、すべてを行っていた新潟大学時代とはまったく異なる環境の中で、あらためて臨床の魅力を実感しました。研究は成果が出れば、見えない多くの患者さんを救うことができます。一方で、患者さんと直接向き合い、その回復を支えていく臨床の現場には、また別の大きなやりがいがあると、深く感じるようになりました。また、父である院長が70歳を過ぎ、私が子どもの頃から見てきた歯科医院が、このままではなくなってしまうという危機感もありました。それならば、自分が承継することが一番自然な道だと決断しました。研究か臨床か、非常に悩みましたが、院長も家族も大学も私の気持ちを尊重してくれたことに感謝しています。
予防歯科を第一に、基本に忠実な治療を行う
先生はエビデンスに基づいた治療を大切にされていると伺いました。それはどういったことでしょうか。

そうですね、簡単にいうと、信頼できる根拠に基づいた治療を丁寧に行うということです。歯科の分野では次々と新しい技術や考え方が登場しますが、それをすぐに取り入れるのではなく、研究の信頼性や臨床応用の妥当性をしっかり見極めるようにしています。人を対象にした臨床研究なのか、動物実験や試験管レベルの段階なのか、そうした違いで、提供すべきかどうかの判断は変わります。ただ、世界中で認められるのを待っていると、医療の現場が遅れてしまうこともあります。自分自身が研究の現場にいた経験があるからこそ、「このレベルのエビデンスがあれば、患者さんに安心して提案できる」という基準を持って判断しています。患者さんのためになるかどうかを第一に考えながら、誠実に選択していきたいと思っています。
院長先生も予防歯科を大事にされていますが、先生も同じお考えでしょうか。
はい。院長の診療方針を私も踏襲しています。予防歯科は、とても特殊な治療です。通常、クリニックは不調になってかかるものですよね。しかし、予防歯科は健康を自ら獲得するために行います。例えば歯周病を予防することで、高血圧や糖尿病、脳血管障害、早産などの予防や悪化の抑制になります。口の状態は全身と関連しているので、予防歯科が全身の病気の予防にもつながるのです。予防歯科によって、生涯にかかる医療費などが大幅に抑えられるということもいわれています。当院に入職して驚いたのは、一般的な歯科医院に比べてメンテナンスのために来院される患者さんが多いことです。これは、院長が40年かけて患者さんに伝えてきたことが、しっかり浸透している証です。ですので、これからも予防歯科を大切に伝え続けていきたいと思います。
御院の予防歯科ではどういったことを行いますか?

専門的なクリーニングも行いますが、一番大切にしているのは患者さん自身が行う歯磨きです。当院では、歯磨き指導を行うにあたって、しっかり検査を行い、悪いところや磨けていないところを目で見てわかるようにお伝えします。まずはご自身の目で見て、自分でできる方法を学んでもらうことが大切です。小さいお子さんでも、親御さんにだけ伝えるのではなく、本人に挑戦してもらうようにしています。また、メンテナンスの患者さんも年に1回必ず行うのが、口腔内の写真撮影です。成人であれば9枚撮影します。画像に残しておくことで、治療の経過やメンテナンスの結果をわかりやすく比較できます。当院のカルテは、患者さんのこれまでの画像が貼られているので、分厚くて重いものばかりです。しかし、そのおかげで私も患者さんの過去の様子がしっかりわかり、入職後の治療もスムーズに行えました。
重要なのは予防と早期治療。そのために検診の活用を
歯周病治療で重要なことは何でしょうか。

なるべく早く治療を始めることです。大学病院では、重症化して治療を諦めたような患者さんを多く見てきました。歯周病は放置していると悪化する一方なので、どんなときでも今が一番の治療の始め時です。ですので、どうせ治らないなどと思わず、1日でも早く治療を始めてください。たとえ元どおりにはならなくても、今の状態を維持することができるかもしれません。もし歯がぐらついていたとしても、炎症を抑えることでぐらつきを抑えて一生自分の歯を使い続けられる可能性も見込めます。しばらく歯科医院に行っていないという方は、まずは検診を受けて、現状の把握を行うところから始めていただければと思います。
歯周病以外で力を入れている治療はありますか?
歯周病以外では、なるべく歯を削らない治療を心がけています。虫歯にも段階があり、初期であれば削る範囲も治療期間も短くて済みますが、進行すると、場合によっては歯の根っこの治療が必要です。そうした状態も見逃さないよう、しっかりチェックしています。また、最近は保険適用できる白い材料も増えました。自由診療の材料には価格相応の質の良さがありますが、保険適用の材料でもより良くできるように気を配っています。
最後に読者の方へメッセージをお願いします。

歯科医院に定期的に行くのが面倒という気持ちは、とてもわかります。特に、歯科医院で嫌な思いをした経験がある人はなおさらですよね。よく、複数の歯科医院を渡り歩くのは良くないというのを聞きますが、私はそれでもいいと思っています。さまざまな所で治療を受けて、ご自身に合う歯科医院を見つけるのもいいのではないでしょうか。とにかく歯科医院への一歩が大事です。歯科としばらく距離が空いてしまった方には、自治体が実施している歯科検診の利用をお勧めします。ここ北区では、妊娠中の方の配偶者向けに「イクメン歯科検診」というのを実施しています。その他、歯周病検診なども実施されているので、そうした機会を歯科に通うきっかけにしていただくのもいいと思います。お住まいの自治体でそうした制度がないか、ぜひ調べてみてください。
自由診療費用の目安
自由診療とはセラミックを用いた補綴治療/8万8000円