木村 益巳 院長の独自取材記事
木村歯科医院
(武蔵野市/井の頭公園駅)
最終更新日:2025/08/04

吉祥寺駅からタクシーで5分ほどの住宅街に位置する「木村歯科医院」は、アットホームな院内に、待合室から診療室まで白を基調とした清潔感漂う歯科医院だ。院長の木村益巳先生は、吉祥寺地域で40年間歯科医院を開いていた父の後を継ぐようにして開業し、今も父の代からのなじみの患者が多く訪れ、地域に根差した診療を続けている。診療室には院長が近所を回って撮影してきた写真が飾られているが、「診察に来た患者さんとの会話が弾むきっかけになれば」と院長は語る。患者とのコミュニケーションを重んじる配慮が、院内の所々に表れていた。自分の悩みや要望を気兼ねなく相談できる雰囲気をつくってくれるため、歯科医院が苦手だという人にもお勧めできるクリニックだ。
(取材日2025年7月9日)
父の仕事を継ぎ患者とのコミュニケーションを大切に
まずは、この地域で開業された経緯を教えていただけますか。

この辺りは地元ですね。大学時代の2年間だけ、キャンパスが千葉の市川だったので向こうにアパートを借りて住みましたけど、それ以外は生まれてからずっとここで暮らしています。開業が1986年だから、2026年にはちょうど40年になります。うちの父が、この地域で40年歯科医院をやっていたのですが、私がちょうど大学院を出たばかりの時に亡くなりました。その時に場所をこちらに移して、一年後に開業したんです。だから私は、勤務医時代というのはありません。父の代からの患者さんがいましたから、引き続きという感じでした。妻も歯科医師で、総義歯の教室で出会ったんですよ。だから同じ専門なんですけれど、開業した時に、妻には歯科口腔外科のほうを担当してもらうようになって、ずっとここで一緒に働いています。
ではお父さまの治療から学んだことも多かったのでしょうか。
実は私は父の治療を、直接はほとんど知りません。亡くなった後に、父がやっていたこの土地で開業することになったので。けれどここでクリニックを開いて、父の代から引き続き来てくれている患者さんとお会いして、こんなことをやっていたんだな、と思いました。やっぱり昔ながらの歯科医師だとは思いますが、非常に真面目な父だったのできちんとやっているし、患者さんの信頼も得ていたんだな、と思いますね。開業して最初の頃はやっぱり無我夢中でしたから、余裕はなかったです。ただ、父の残してくれた患者さんは、みんな本当にいい人でした。父の代からお互いにコミュニケーションを取ってやっていくことは大事にしていたようなので、それは私の代でも心がけました。
患者さんとのコミュニケーションで特に気をつけていることはありますか。

歯科は歯を削るので、やっぱり患者さんとの信頼関係がないといけないんですよね。患者さんも、歯を削られるためにはその先生を信じなければいけないけれど、こちらも患者さんを信じていないと治療できません。お互いの信頼関係が成り立たないと、この仕事は成り立たないんだろうなと思います。例えば院内に飾っているのは、私が撮った写真なんですけれど、景色の写真にしても、どこの場所かわかるような写真を撮っているんですよ。患者さんとの話のきっかけになるようなもの、というつもりで飾っているのです。写真を楽しみにして来てくれる患者さんもいますよ。
患者の立場に立ち丁寧な入れ歯の調整
木村先生の専門分野についてお聞かせいただけますか。

専門は総義歯、つまり総入れ歯です。入れ歯って、歯科の治療の中で唯一患者さんが自分の意志を通せるものなんですよ。というのは、嫌だったら外せるんです。他の治療はされたものは元に戻せませんが、入れ歯は治療が完了するまでに、患者さん自身の意志がすごく入ります。良ければ着けるし、嫌なら外すということが可能です。だからまずは、きちんと良い入れ歯を作ること。そして、一週間はとにかく頑張って入れてもらうこと。最初のうちは慣れないので痛みも出てしまうため、嫌がられてしまうこともあると思います。でも慣れるためには一週間は我慢して入れてもらわなければいけない。その代わりに、最初の一週間は、毎日のように調整に来てもらいます。やっぱり入れ歯が痛いのはつらいですからね。
調整を丁寧にすることを大切にされているのですね。
そうですね。入れてすぐに快適に使える入れ歯なんていうものは、どんなにうまい人でも作れないと思います。あくまでも調整が大切なのです。入れ歯は道具ですから、その人が使って初めて意味があります。患者さんにとっては痛いから外すという理由が一番大きいと思うので、その痛みを取ってあげることはできる限りしようと思っています。あとは見た目が良いと入れてくれると思いますね。入れた時に自然な感じで、若くなったような感じになれれば、患者さんもうれしいと思いますから。それが、入れようと頑張ってくれることにつながればと思いますね。
自然な見た目にするためにはどんな工夫があるのでしょうか。

総入れ歯だとある程度基本がありますから、それにのっとって作っていますが、それぞれの好みなども少しずつ取り入れています。昔の入れ歯は、「歯を土手の上に並べて安定させる」という考え方だったんですね。土手というのは歯茎のことです。ただ、歯茎は年齢とともにどんどん内側に入っていってしまうので、その歯茎に合わせると、内側に入った小さい歯になってしまう。そうすると、見た目にも入れ歯だとわかる顔になってしまうのです。もともと歯のあった位置に歯を並べないと、自然な感じが出ないんですね。また、歯並びがきれいすぎても、不自然でいかにも入れ歯っぽくなってしまうので、少しずつ乱すようにしたりしています。患者さんが「入れ歯だと思われなかった」と喜んでくれたら、私もうれしいですね。
基本に忠実に自分がしてほしい治療を
特に心に残った患者さんとのエピソードがあれば教えていただけますか。

大学院時代の話なのですが、年配の女性で、入れ歯が壊れて直した際に、新しい物も作りたいと言った方がいました。新しい入れ歯を入れると痛いため、食べる時に、前の入れ歯を使ってしまいがちです。ただその方は「前の入れ歯をここに置いていきます」と言って、置いていけば絶対使わないからと、新しい入れ歯で帰りました。そうして新しい入れ歯で頑張って、2、3回調整した後、「この入れ歯だと食事が楽しみになった」と言ってくれました。そんなふうに頑張ってもらえたことがうれしかったですね。あとは、定期検診に「全然問題ないんだけれど、調子がいいということを伝えに来ました」と言って来てくれた方がいました。その方は90代なんですが、待合で、入れ歯がいいということを、みんなに言うんですよ。「おかげで長生きしている」と言ってくれていますから、やっぱりうれしいです。
休日に楽しむスポーツや趣味などありますか。
運動は昔から好きで、中学校ではバスケットボール、高校ではハンドボール、大学ではバドミントンをやっていました。今は基本的にはゴルフですね。20年前から妻と一緒にゴルフをやっていて、休日に楽しんでいます。あとは、武蔵野市歯科医師会の活動に参加することもあります。武蔵野市歯科医師会は、みんなで協力して武蔵野市の歯科医療を盛り上げていこうという機運が強く、横の連携が強いのですよ。皆さんと親睦を深めるために、旅行に行ったこともあるのですが、その参加率の高さに私も驚きました。
最後に今後の展望や読者へのメッセージをお聞かせください。

今来てくれている患者さんたちに、少しでもいい治療をしてあげたいと思っています。以前は15分に一人くらいの予約で治療をしていたのですが、今はもう少し余裕を持って一人ひとり診ていきたいと思っています。当院は、何か画期的なことをするわけじゃないけれど、基本に忠実にその人の要望に応えたり、気になることにきちんと対処していきたいと考えています。基本ができていれば、そんなに特別なことをしなくたって大丈夫だと思っていますから。考え方としては、「自分がしてもらいたい治療をしたい」と思っています。抜くのであろうと削るのであろうと、「自分ならこうしてもらいたいという治療」をしていきたいですね。そして、「ここに来ればなんとかしてくれる」と思ってもらえるような、地域の人に安心を感じてもらえるような歯科医院をめざしていきたいと思います。