鳥海 和弘 院長の独自取材記事
鳥海ペインクリニック
(中野区/野方駅)
最終更新日:2024/11/05

さまざまな「痛み」の治療を行う「鳥海ペインクリニック」。西武新宿線の野方駅から徒歩1分、環状七号線からもすぐの場所にある同院の院長を務めるのは、鳥海和弘(とりうみ・かずひろ)先生だ。大学病院の麻酔科や大規模病院の整形外科などを経て、父の代までは産婦人科だったクリニックを2004年に引き継いだ。現在は鳥海院長が整形外科と痛みに関する治療を担い、院長の妻である副院長が内科・外科を担当する。車いすでも来院可能なバリアフリーの院内には、胃・大腸内視鏡などの検査機器がそろうほか、コロナ禍の2021年には、当日に検査結果がわかるPCR検査用の機器も導入したという。長らく地域の患者を支えてきた鳥海院長に、ペインクリニックで受けられる治療や、診療時に心がけていることなど話を聞いた。
(取材日2013年2月7日/更新日2021年12月17日)
痛みの軽減をめざすペインクリニックの治療
歴史のあるクリニックとお聞きしました。先生が医師をめざしたきっかけを教えてください。

1932年に私の祖父が開業したのが当院の始まりです。2代目の父の代までは、産婦人科と外科を標榜していました。問診票に「来院2回目」と記入された患者さんのお話をよくよく聞いてみたら、実は当院でお産まれになった方で驚いた経験もあるんですよ。実をいうと、私自身は、もともと医師になりたいとは思っていませんでした。子どもの頃は実家が産婦人科ということで、友達からからかわれることもあり、むしろ「絶対医師にはなるもんか」と決めていたんです。ところが虫垂炎にかかった時に、私のために父が手術をする様子を目の当たりにしたことで、気持ちが変わりました。「ああ、父はこういう仕事をしているんだな」と、初めて医師という仕事の意義を実感できたのです。
ペインクリニックとして引き継ぐまでの経緯を教えてください。

埼玉医科大学を卒業した後、東京慈恵会医科大学附属病院の麻酔科学講座に入局し、医局長まで勤めました。大学との関係は離れた後も続き、非常勤講師として後輩医師の教育にも長らく携わりました。総合病院の麻酔科や整形外科で経験を重ねていた2004年、父が突然亡くなったことを契機に、「ペインクリニック」として当院を引き継いだ次第です。「ペイン」とは英語で「痛み」を意味します。さまざまな痛みやしびれ、がんによる疼痛などが治療対象で、ブロック治療などの薬物療法で症状の軽減をめざします。当院では、私が麻酔科と整形外科を診るのに加え、妻である副院長が内科、外科を担当し、多角的な視点から痛みにアプローチできるのが強みです。幅広い診療を提供する一環で検査機器をそろえており、新型コロナウイルス感染症のためにPCR検査機器も導入しました。PCR検査は当日中に結果がわかりますので、迅速な診断につなげています。
どのような患者さんがいらっしゃるのですか?
年齢層は若い世代からご高齢の方まで幅広く、症状においても、頭のてっぺんからつま先まで、さまざまな痛みに関するご相談があります。大学病院から紹介されてくる方や、他の医療施設で思うような結果が得られず、当院を受診される方もいらっしゃるので、できるだけ患者さんの訴えに耳を傾け、「様子を見ましょう」といった中途半端な対応はしないように心がけています。痛みは生活全般にわたるモチベーションを下げ、最終的には心までむしばんでしまうものです。患者さんに寄り添い、納得して治療を受けていただけるように丁寧に説明し、もし当院で治療が難しい場合には他の病院へのご紹介も行っていますので、気軽にご相談いただきたいですね。
痛みに悩む人を一人でも減らすことが医師としての望み
印象的な患者さんとのエピソードを教えてください。

多くの患者さんを診てきましたので、いろいろなエピソードがありますね。例えば、帯状疱疹後の神経痛が10年以上続いていたご高齢の患者さんです。それまで通っていた病院では、「申し訳ないが、墓場まで痛みを持っていってください」と言われていたそうですが、見かねた息子さんがインターネットで調べてご来院くださいました。また変形性脊椎症で車いす生活になった患者さんは、肩の痛みとしびれで整形外科へ長く通っていたと伺い、ブロック治療を行いました。ブロック治療とは、局所麻酔薬などを用いて末梢神経の機能を一時的に停止させることを図り、痛みの軽減をめざすものです。患者さんには、「久しぶりに痛みのない時間をゆっくり過ごすことができる」と感じてもらえるよう、頑張って治療に努めています。それまで苦しんでいた痛みにアプローチすることで、皆さんの表情が変化していくように思います。これは、医師として素直にうれしいことですね。
いろいろな患者さんがいらっしゃるのですね。

そうですね。これまでには残念ながら、治療が難しいケースもありました。特に、まだ薬物療法の選択肢が今ほど多くなかった10年以上前のことですが、足の悪いご高齢の患者さんで、症状がなかなか改善せず、「すごく良くしてくれたが、通うのが大変なので治療を終わりにしたい。先生の笑顔が好きだった」とお電話をいただいたこともあります。当時はまだ治療法が限られていたにせよ、どうにかして差し上げたかったと思うと、今でもつらい気持ちになりますね。現在は劇的に薬物療法の種類が増えていますので、患者さんの悩みに応じて治療していきたいと思っています。
先生のペインクリニックへの想いを教えてください。
ペインクリニックではどんな治療を行っているかご存じない方も多いので、もっと世の中に周知していきたいと思っています。大学病院や近隣の内科クリニックからの紹介も徐々に増えてきていますが、まだまだ認知度は低いですね。私が東京慈恵会医科大学附属病院での研修医時代に指導を受けていたのは、ブロック治療で先駆的な存在として、ペインクリニックを日本に導入するために尽力された方でした。もうずいぶん前のことですが、顔面麻痺になってしまった総理大臣が受診したことで、ペインクリニックの情報が取り上げられたこともあります。しかし、こうした治療を知らずに、痛みに苦しんでいる方がたくさんいらっしゃる現状が本当に残念です。ペインクリニックをもっと皆さんの身近に増やし、痛みに悩む人たちを減らすことが医師としての一番の望みですね。
心がけるのは、一人ひとりに合わせた適切な治療
院外での医療活動にも取り組まれていたと伺いました。

以前は大型クルーズ船に船医として乗船し、船員の方々の健康診断や、乗客の医療対応を行っていたこともあります。実は妻も船医の経験が豊富で、世界一周を3回ほど経験していて、うらやましい限りです。院内だけで診療をしていると、どうしても視野が狭くなりがちです。外の世界で、医師として新しい情報や刺激を得ることが、当院の患者さんにとってもより良い治療を受けられることにつながると考えています。
とてもお忙しそうですが、どのように気分転換されていますか?
休日は妻と2人で過ごすことが多いですね。コロナ禍になる前は、ゴルフへよく行きました。ゴルフは全然知らない人と一緒にコースを回ることがあるので、新しい人との出会いがたくさんあるところが魅力だと思っています。また、商店街のコンペでご近所の酒屋さんと一緒に回ったり、医師会のゴルフ会で専門外の医師の話を聞いたりすることもあります。人は、一人で何かをできるのではありません。人とのつながりがあるからこそ、いろいろなことを成し遂げられるのではないでしょうか。そういう意味では、いつも一緒に頑張ってくれているスタッフとの関わりも大切にしています。患者さんは、私には言いにくいことをスタッフには言ってくださる場合もあるでしょう。一番間近で患者さんを見てくれているスタッフが、診療に対して意見を言いやすい環境を整えていくことは、より良い治療のためにも重要だというのが私の考えです。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

当院の扉をたたいてくださったからには、患者さんにとって一番良い治療を行いたいと思っています。何か症状があれば、疾患はどこかに隠れているもの。早期発見・早期治療が重要ですね。一方通行の医療ではなく、一人ひとりに合わせた「オーダーメイドの医療」を心がけています。例えば薬物療法といっても、局部麻酔薬をはじめ、筋弛緩薬、漢方薬、ビタミン剤など、それぞれの特徴を生かして患者さんに合ったものを考えていきます。痛みに関する悩みはもちろん、体のことでわからないことや不安なことがあれば、ぜひ足を運んでいただければと思います。