河崎 雅暢 理事長の独自取材記事
すがも腎クリニック
(豊島区/巣鴨駅)
最終更新日:2024/08/07

巣鴨駅南口から徒歩1分。大通りに面したビルの6・7・8階に位置する「すがも腎クリニック」は、腎臓内科、人工透析内科のクリニック。河崎雅暢理事長は、東京医科歯科大学大学院修了後、東京大学医科学研究所などで腎臓内科学の研究を重ね、2004年に同院の理事長に就任。20年以上腎臓疾患や透析治療に携わり、大学病院レベルの専門性を備えた医療を提供する。2024年1月、腎臓リハビリテーションの外来診療部門を新設し、「慢性の腎臓病患者が透析に頼ることなく生き生きとした生活を送ることができるよう、サポートしていきたい」と語る河崎理事長に、クリニックの特徴や腎臓リハビリテーションについて聞いた。
(取材日2024年6月21日)
腎臓内科を専門に研究を重ねる
理事長に就任された経緯を教えてください。

富山医科薬科大学医学部卒業後、東京医科歯科大学医学部附属病院第二内科に入局して研修医、関連病院での勤務を経て東京医科歯科大学に戻り、腎臓内科の臨床に加えて大学院で学び、医学博士を修得しました。その後も腎臓内科学の研究を重ねて、このまま研究者としての道を歩むという選択肢もあったのですが、ちょうどその頃結婚して子どもができ、人生の転機を迎えていました。そのタイミングで、当院の理事長就任のお誘いを受け、研究がひと段落したところで2004年に社団法人塩谷会を設立し理事長に就任しました。2014年に法人名を湖歩会に変更し、現在は3つのクリニックを運営しています。
腎臓内科をご専門にされた理由や、研究内容についても詳しくお聞かせください。
東京医科歯科大学医学部附属病院第二内科で研修医として勤務していた頃、循環器、呼吸器、消化器などさまざまな診療科をローテーションしながら臨床現場で学ぶ中、「臨床だけでなく研究もしてみたい」と思うようになりました。そこで先輩に相談したところ、腎臓内科の教授を紹介いただき、その教授とのご縁により腎臓内科の領域で研究しながら専門性を深めることになったのです。腎臓尿細管に存在するタンパク質の一つで、水を通過させる性質のある「アクアポリン1」を発見した、ピーター・アグレという分子生物学者をご存じの方はいらっしゃるでしょうか。彼はこの研究で2003年にノーベル化学賞を受賞したのですが、実は私たちの研究室では、同じくらいの時期に「アクアポリン2」「アクアポリン3」についての研究を行っていたんですよ。タイミングは逃してしまいましたが、ノーベル化学賞をめざせるレベルの研究を行っていたと自負しています。
医師をめざしたきっかけを教えてください。

家族や親戚に医師がいたわけではないのですが、自分自身が小さい頃体が弱く、月に1度くらいの頻度で病院通いをしていました。加えて、亡くなった母も腎臓の病気で治療を受けていました。当時は腎不全で透析治療が必要になるとかなりのお金がかかり、幼な心に「自分が医師になって、自宅で家族の治療ができればいいな」と思っていました。小学校高学年くらいの時から生物や生命体に興味を抱きはじめ、自然と医学部をめざすようになり、今に至ります。現在、こうして腎臓専門の医師として診療に携わっているのは、家族の病気が潜在的に心に残り続けていたことが、少なからず影響しているような気もしていて、どこか運命のようなものを感じています。
腎臓リハビリテーションの外来を開設
こちらでは、どのような治療を受けることができるのでしょうか。

腎臓の機能が低下した腎不全状態になると、水・電解質の調節障害や昇圧させるホルモンが分泌されて高血圧となり、血管の劣化の原因になると考えられてきました。しかし、慢性腎不全となり十分な透析治療を受け、血圧も正常な範囲までコントロールに導けていたとしても、血管の老化は進んでいます。当院では、主に慢性腎不全の患者さんを診療し、人工透析などの治療を行ってきました。人工透析を必要とする方は、血管や血液の老化に加え、さまざまな合併症にかかるリスクも少なくありません。そこで、当院では透析患者さんの体の状態を詳しく診る検査パックを開設しています。心臓組織の検査などを行い、脳梗塞、心筋梗塞、閉鎖性動脈硬化症などの血管疾患の予防と早期発見に尽力しています。
どのような患者さんがいらっしゃいますか?

当院では20年以上、先ほど申し上げたような腎臓疾患の保存的治療に加え、食事栄養指導や運動療法などにより、透析治療になるまでの期間をできるだけ先延ばしにし、できたら透析を受けることなく過ごせるような、「透析予防」のための治療にも取り組んでまいりました。周辺にお住まいの方に加え、ホームページなどで当院のこのような取り組みを知って、遠方からお問い合わせをいただくことも多いですね。韓国や台湾、中国などから当院の治療を受けにいらっしゃるケースもあります。
2024年1月から、腎臓リハビリテーションを行う外来診療を始められたそうですね。
腎臓リハビリテーションとは、慢性の腎臓病患者さんが透析治療に頼ることなく生き生きとした生活を送ることができるようになることを目的としたプログラムです。運動療法を中心に食事療法や水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポートなどを包括的に行うことにより、持久力や筋力の向上、ADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の改善が期待でき、腎機能が回復が見込めたり、透析治療に移行するまでの期間が延長が望めたりしたという報告もあり、その有用性が注目されてきています。慢性腎不全の患者さんは、心筋梗塞などを合併しやすいといわれていますが、これらの疾患の予防も期待されています。
運動療法として有酸素運動や筋力トレーニングも
腎臓リハビリテーションの具体的な内容について教えてください。

まず運動療法についてですが、以前は、腎臓疾患の患者さんや透析治療を受けている患者さんは運動することでたんぱく尿がでやすくなるとされ、運動は推奨されていませんでした。しかし近年は、適度な運動を奨励する方針に大きく変わっています。当院では運動療法を始めるにあたり、理学療法士がCPX(心肺運動負荷試験)を行います。トレッドミルや自転車エルゴメーターで徐々に運動の強さを増やしていき、その患者さんに即した「運動処方」を出し、ウォーキングなどの有酸素運動と筋力トレーニングを日々の生活の中に取り入れていただきます。食事療法においては、管理栄養士が患者さんの毎日の食事や排泄した尿から、たんぱく、ナトリウム、カリウムの摂取目安を計測し、食生活の指導を行っています。
さまざまなプロフェッショナルがチームになってサポートするのですね。通院のペースは?
医師に加え、看護師、管理栄養士、理学療法士が一つのチームとなって、患者さんをいろいろな角度からサポートしています。腎不全で造血ホルモン注射の必要がある方は1ヵ月に1度、その他の方は、症状に応じて2~3ヵ月に一度のペースで通院いただき、経過を診ていきます。腎臓リハビリテーションに継続的に取り組むことで、透析治療のスタートを遅らせることが望めますが、適切な運動や食事は、腎臓だけでなくどの臓器の健康においても必要不可欠なものだと思います。超高齢社会の今、できるだけ医療費を使わずに健康寿命を延ばしていくためにも、今後はこのような臓器のリハビリテーションが増えていくのではないでしょうか。
最後に、こちらのクリニックの今後の展望についてお聞かせください。

当院は、東京医科歯科大学の連携医療機関です。大学病院と情報や人材の交流により、これからも妥協のない医療を提供いたします。また、腎臓リハビリテーションの普及に取り組むことと同時に、経験を積んだ医療スタッフを育成し、増やしていくことも、当院の存在意義の一つだと思っています。さらに治療のみならず、企業との協働による新鋭機器の開発や医薬品の開発、実用化などにも積極的に臨んでいきたいと思います。