石垣 泰則 院長の独自取材記事
コーラルクリニック
(文京区/本郷三丁目駅)
最終更新日:2025/06/12

東京メトロ丸ノ内線・本郷三丁目駅から徒歩1分の場所にある「コーラルクリニック」は、通院が困難な患者を対象とする在宅医療専門のクリニックだ。パーキンソン病、MSA(多系統萎縮症)、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経内科疾患や、脳血管障害後遺症や神経膠芽腫などの神経外科疾患を中心に、専門性の高い医療を提供している。優しさにあふれる笑顔と穏やかな口調が印象的な石垣泰則院長は、2009年に同院を開業して以来、神経内科疾患の患者を中心に数多くの患者に在宅医療を提供してきた。「在宅医療は患者さんが自分らしい生活を送るためのもの」と語る石垣院長に、訪問診療の内容や方針、患者と向き合う際に大切にしていること、今後の展望などについて語ってもらった。
(取材日2025年5月20日)
多職種と連携して多方面から患者をサポート
パーキンソン病の患者さんが多いのですね。

そうですね。パーキンソン病は神経変性疾患の中でも多い疾患で、当院にもパーキンソン病の患者さんはたくさんいらっしゃいます。体の動きに障害が出ることが多く、メンタルや自律神経系の合併症が生じることもあります。パーキンソン病の治療では、薬の選択や調整が非常に大切ですが、外来に通院していると、薬の種類や服薬の回数がどんどん増えてしまうことが少なくありません。外来に行った時に患者さんが「調子が良くない」と言うと、医師は薬の種類を増やすことが多いからです。しかし、薬の種類や服薬の回数が増えると、薬を飲むことが負担になります。薬を飲み忘れることが増えて、調子が悪くなり、外来に行って「調子が悪い」と訴えて、さらに多くの薬を処方されるという悪循環に陥っているケースは非常に多いです。
薬の種類が増えると服薬管理は大変ですよね。
パーキンソン病は高齢の患者さんも多く、認知症を併発している患者さんもいらっしゃるので、服薬管理が大変だと感じている方は多いと思います。訪問診療で患者さんの自宅を訪問すると、病院で処方されたまま飲んでいない薬が見つかることもあります。介護施設などでは、指示どおりに薬を飲んでいる患者さんが多いですが、それでも場合によっては精神症状が出てしまい、精神科で薬を処方されて、さらに薬が増える、ということもあります。パーキンソン病に詳しい医師が診察して、一人ひとりの患者さんに合う薬を選択することは、薬の過剰摂取のリスクを回避することにもつながります。病状が進行したからといって薬を増やすのではなく、シンプルにしたほうが良いケースもあるので、見極めが重要です。服薬管理をしっかり行うことも大切なので、在宅医療では、訪問看護や訪問介護とも連携して服薬管理を徹底しています。
訪問看護や訪問介護とも連携しているのですね。

在宅医療では、医師だけではなく訪問看護、訪問介護、リハビリテーションなどを担う多職種の方と密に連携し、一つのチームとして患者さんの生活を多方面から支えることが大切です。患者さんが自宅で自分らしい生活を送れるようにサポートするためには、多職種の方との情報共有が大切なので、いつでも相談できる雰囲気づくりを心がけています。訪問看護師やケアマネジャーから電話で相談を受けることも多いですね。
パーキンソン病以外ではどのような疾患の方が多いですか?
MSAやALSの患者さんも多いです。MSAは、小脳、大脳基底核、自律神経など、複数の神経系統が障害される神経変性疾患です。症状が複雑なので、適切な治療を行うためには熟練の医師の判断が求められます。パーキンソン病とは違い、薬が適さないことも多いため、治療が難しい疾患です。MSAやALSは進行が比較的早いことが多く、物を食べることができなくなるケースもあるので、療養は非常に大変です。呼吸困難などの重篤な合併症を伴うケースもあり、早い段階から延命について考えなければならない場合もあります。
在宅医療は、患者が自分らしい生活を送るためのもの
患者さんと接するときに心がけていることはありますか?

患者さんが、今後どのように生きていきたいのか、しっかり見極めることを大切にしています。これまでどのようなことを大切に生きてきたのか、これから何を大切にしたいのか、丁寧に伺っています。病気のことだけではなく、患者さんの人間性に焦点をあてながら優先順位を考えて、患者さんにとって最善の医療を提供できるように心がけています。
かなり深い内容の会話をされているんですね。
在宅医療は患者さん一人ひとりが自分らしい生活を送るためのもので、患者さんとはいろいろな会話をしますね。あと、いつも患者さんに伝えているのが「転倒しないように注意してくださいね」ということです。転倒して骨折したことをきっかけに、急激に病状が進んだり、歩くことが困難になったりするケースが多いからです。家の中にも転倒のリスクがあるので、自宅を訪問したときに危険な場所を見つけたら、家具を移動してもらうなどの工夫をすることもあります。
認知症の患者さんとの意思疎通はどうされていますか?

認知症の患者さんとも普通に会話していますよ。症状に進行具合によっては、コミュニケーションに工夫が必要なこともありますが、不安や喜びなどの感情は見逃さないようにしています。言葉を発することが難しい患者さんもいらっしゃいますが、本人が発信しているシグナルをしっかり受け止めるように常に心がけています。
患者さんから感謝されることも多いと思いますが、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
確かに患者さんから「ありがとう」と言われることは多いですし、とてもうれしいのですが、一番強く印象に残っているのは失敗して悔しい思いをしたことですね。検査データで正常値より少し上がっていたのを甘く見て、その後、症状が悪化して入院してしまった患者さんがいました。もう何年も前のことですが、「あの時こうすれば良かった」と何度も繰り返し悔やんでしまい、忘れられません。二度と悔しい思いをしないよう、医師としての意識をしっかり持って、患者さんに適切な医療を提供できるよう、日々勉強を怠らないようにしています。
生きづらさを感じたときは相談してほしい
こちらで在宅医療を受けたいときはどうすれば良いですか?

ホームページから問い合わせできますので、お気軽にご連絡ください。平日9時から17時の間は、お電話での問い合わせにも対応しています。現在通院中の方は、かかりつけ医の先生から紹介していただいても構いません。ケアマネジャーを経由してご紹介いただくことも多くあります。
訪問診療に対応している地域を教えてください。
文京区、千代田区、台東区を中心に、新宿区、中央区、江東区、墨田区、荒川区、豊島区、北区、板橋区など、幅広く対応しています。それ以外の地域でも対応できる可能性があるので、お気軽にご相談ください。
これから在宅医療を受けたいと考えている方へのメッセージをお願いします。

進行性の疾患は、病状が進むと、日常生活に支障を感じることがあるかと思います。生きづらさを感じたときには一人で抱え込まずに相談してください。当院では、薬に頼るのではなく、リハビリテーション、看護、療養など、多職種の方と連携する診療スタイルでチームとして患者さんを支えています。「家族になるべく迷惑をかけずに自宅で過ごしたい」「なるべく自立した生活を送りたい」などの希望があれば、聞かせてください。「今後どのように生きていきたいのか」しっかり聞かせていただき、より自分らしい生活を送れるように多方面からサポートさせていただきますので、お気軽にご相談いただければと思います。
最後に、今後の展望などがあれば教えてください。
現在、看護多機能施設をオープンする準備を進めています。2年後をめどに本郷6丁目にオープンする予定です。看護多機能施設というのは、介護と看護を併せて提供するための施設で、ケアマネジャー、介護士、訪問看護師などと連携して、地域医療を提供できればと思っています。文京区には大きな病院がたくさんありますが、病院に通院できない、施設に入居するのではなく住み慣れた自宅で暮らしたい、あるいは普段は自宅にいるけど一時的に家族からのサポートが受けられないなど、病院では対応できない隙間のニーズも多いです。より多くの人に、より専門性が高く充実した地域医療を提供できるように準備を進めていきたいと考えています。