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任 博 院長の独自取材記事

文京根津クリニック

(文京区/根津駅)

最終更新日:2021/10/18

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東京メトロ千代田線の根津駅からほど近い場所にある「文京根津クリニック」は、在宅医療専門のクリニックだ。任博(にん・ひろし)院長は、たった1人で訪問診療を始めた開業当初も、スタッフが増えた現在も、365日24時間の診療体制で患者と向き合っている。「私には一生懸命やることしかできないのですよ」と笑顔で話す任院長のポリシーは、病気ではなく人を診ること、そして常に自分が患者の家族ならばどうするかという気持ちで診療にあたること。病を抱える本人のみならず、看護をする家族が直面する日常についても目配りや気配りを忘れず、さらには近年増えつつある独居の患者の気持ちも支えられたらと考えている。「すべては患者さんから教えていただいた」と語る任院長に、詳しい話を聞いた。

(取材日2021年6月4日)

患者は自分の家族だと考える在宅医療を提供

こちらは在宅医療専門のクリニックだと伺いました。

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はい。当院は文京区・荒川区・台東区・北区・足立区を対象にした、在宅医療を専門に行うクリニックです。365日24時間、連絡がつく体制を整え、現在は常勤医師1名、非常勤医師6名の体制で、数多くの患者さんを診ています。高齢の方で、がんや心臓疾患を抱えている方がほとんどですが、中には若い方もいらっしゃいますね。日本の医療は外来・入院・在宅の3本柱で支えていく時代になりました。中でも慢性疾患や看取りの医療には在宅の力が重要で、ご本人の希望どおりに時間を過ごせるようサポートしていけるのが在宅医療の大きなメリットだと思っています。

訪問診療の際に心がけていることはありますか?

一つは病気ではなく人を診ること。もう一つは訪問先の患者さんが自分の父親だったら、母親だったらどのような治療を受けさせたいだろうかと考えることです。ほとんどのお年寄りは複数の病気を抱えていらっしゃいます。調子が悪くなってきたときに、高齢の患者さんが抱えているすべての症状に対して万全な医療を受けることが物理的、経済的、社会的に難しいケースもあります。その時に家族であれば、どのような治療を選択するのか。スタッフ全員がこのことを心がけて診療にあたっています。

例えばがんの終末期の患者さんの在宅医療を始めるにあたってご家族はどんな不安をお持ちでしょう?

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まずは家族が亡くなるかもしれないという状況に強いショックを受けている状態です。そして在宅医療とはどういうものなのか、何ができるのかがわからず混乱されていることが多いと思います。実際に治療が始まると、病院にあるようなさまざまな機器が、かなりの割合で在宅で使えることに驚かれることが多いようです。患者さんが感じておられる不安や疑問をできる限り取り除くべく、丁寧なアドバイスを心がけています。患者さんの痛みと不安を取り除くことはもちろん、ご家族の気持ちや在り方にも寄り添うことが、在宅医療では重要です。やはりご家族が1人で24時間介護をするのは大変なことです。もちろん介護ができる方は多ければ多いほど良いのですが、ヘルパーさんを含めてでも、2人の手を確保できれば負担もかなり軽減されると思いますね。

型にはまらぬ診療で患者や家族に寄り添う医療を

在宅だからこそ行える医療とはどのようなことですか?

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健康は「体」の健康だけでなく、「心」「家庭」「社会」の4つの健康要素がある、というのが私の持論です。体がいくら健康でも心や家庭が健全でないと本当の意味での健康とはいえません。逆に病気を患っていても、家庭や社会の面が健全だと、気持ちが明るくいられるものだと思います。実際に自宅に戻られて家族に囲まれ、気持ちが落ち着くことで体調が安定する患者さんは多くいらっしゃるものです。自宅に戻られ、社会的な活動を行うことで体調が安定することもあります。在宅医療には、ご家族やご自宅の力が必ず働いているのだといつも感じていますね。マニュアルに縛られず、100人いれば100通りの方法を模索し、患者さんに寄り添っていけるのも在宅ならではだと思います。先行して予測される症状を伝えていくことで、ご家族も一緒にいる時間が長い分、少しずつ納得されて見送られる傾向にあるようです。

在宅医療には医師だけでなく、さまざまな職種の方々が関わっていますね。

在宅医療は「医療」と「介護」の両面から成り立っているチーム医療です。ドクターや看護師だけでなく、薬剤師、理学療法士、ヘルパー、ケアマネジャー、介護用品を扱う方や介護タクシーやデイサービスに携わる方まで、さまざまな職種のスタッフが、しっかりとしたチームを組むこと。これが重要な基盤になるんです。本来の人間は、本人の生命力で生きているのであり、それを少しだけ助ける、ガイドするのが私たちの仕事です。しかしそれ以外のところでご家族に多大な負荷がかかることは否めません。ご家族がその負担を乗り越えていくための目配り、気配り、心配りもまた、地域医療や在宅医療に携わるチームにとって必須項目であり、最近深刻化している独居老人の問題にも目を向けていかなければならないと思っています。

現在は4ヵ国語を駆使して診療にあたっているそうですね。

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当院では国際化を視野に入れているため、ドイツ語・英語・中国語・韓国語での診療にも対応しています。ドイツに留学経験があること、また順天堂大学の国際交流の教授も務めていることからドイツ大使館との連携も強く、昨今の新型コロナウイルス感染症問題の相談役としてドイツ大使から相談をうけることもありました。在日の外国人を通じての海外協力が、日本の未来にとって非常に重要になると考えて国際化に力を入れています。特にドイツにはお世話になったので、恩返しの気持ちもありますね。ちなみに留学後はドイツの製薬企業で新薬開発の責任者をしていました。今となっては、当時の臨床薬理学の研究経験を訪問診療に生かすことができて、本当に良かったと思っています。

自宅で看取ることが当たり前になる日をめざして

今後の高齢者医療について先生のお考えを聞かせてください。

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2025年問題と呼ばれる、3人に1人が高齢者となる時期を前に政府は高齢者の治療をできるだけ地域の中で行い、在宅で治療が行えるようにという方針をまとめています。昔はおじいちゃん、おばあちゃんが自宅で亡くなることは普通でした。実際に在宅で看病をする、看取るとなった場合には患者さん本人だけでなくその家族も混乱します。私もご家族に不安を持たれないように説明をしますし、地域ぐるみで支え合うシステムも必要ですね。病気を抱えているご本人とともにご家族の不安やさまざまな感情の流れを見守ることが、終末期の医療ではとても大切です。

遠隔診療の充実も図っているそうですね。

在宅医療では、患者さんとの間にどうしても物理的距離ができてしまいます。そうした際に、患者さんの情報やデータがあり、かつ遠隔診療のシステムがしっかりできていれば、看護師が1人いれば離島や過疎地域でも実際の投薬や点滴を現場で行うことができるわけです。また国内だけでなく海外にも応用できるので国際医療にもつながりますし、独居の方も安心できるでしょう。こうした遠隔診療は当院でも以前から導入していますが、聴覚や視覚では患者さんを診療できても、触覚・嗅覚などの面では難しいという点が問題なんです。これらの感覚を取り入れて完璧なARをめざすため、今年からITの専門家を迎え入れ、システムの構築に乗り出しました。実用化まではしばらく時間がかかりそうですが、ぜひ実現したいと考えています。

最後に今後の展望とメッセージをお願いします。

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私は数多くの患者さんの最期を看取る中で、患者さんからたくさんのことを教えていただきました。いわば患者さんが私の先生だと思っています。今後はもっと多くの病院や医師に関心を持っていただくことで在宅・地域医療が当たり前になっていってほしいですね。ですから自分の体力と気力の続く限り、本来あるべき在宅医療とはこういうものだ、こうあるべきだという具体的なモデルをつくっていきたいと思っています。患者さんのご家族には、無理のない範囲で助け合い寄り添いながら、患者さんに対応していきたいです。患者さんにもご家族にも、ぜひ毎日を大切に生きていただきたいですね。

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