石井 コズエ 院長、窪野 美乃 先生の独自取材記事
石井こどもの歯科
(横浜市磯子区/根岸駅)
最終更新日:2025/12/10
横浜市磯子区の「石井こどもの歯科」は、その名のとおり小児歯科専門のクリニックだ。石井コズエ院長は50年以上にわたり小児歯科を専門とするスペシャリスト。二人の子どもを育てながら同院を開業し、地域の小児歯科を支えてきた。歯科医師として勤務する窪野美乃先生は石井院長の長女。ともに日本小児歯科学会小児歯科専門医の資格を持ち、自身の子育て経験を生かしながら真摯な姿勢で患者と保護者に向き合っている。2024年にリニューアルしたクリニックで、小児歯科の意義や治療の特徴について聞いた。
(取材日2025年10月31日)
小児歯科専門だからできる治療と指導
開業から現在に至るまでの、クリニックの歴史を教えてください。

【石井院長】当院が開業したのは1986年です。私は大学在学中から小児歯科を専門として研究を続けており、夫が実家の歯科医院で働くことになったのを機に、近くで小児歯科専門のクリニックを始めることにしました。建物の老朽化が気になったことと、大学院で小児歯科を専攻し、小児歯科専門医を取得した娘が手伝ってくれるようになったので、2024年10月に現在の場所に移転、リニューアルオープンしました。現在は私と娘が2人体制で診療を行っています。
小児歯科を専門とされているのはなぜですか?
【石井院長】私が大学を卒業した頃は「虫歯の洪水」といわれるほど、子どもの虫歯が社会問題になっていました。そんな状況に対して歯科医師は足りず、大学病院では治療が1年待ちということも珍しくありませんでしたので、少しでも役に立てればと思い小児歯科を選択しました。近年では虫歯の数は減ってきていますが、代わりに予防歯科の意識が高まっているのを感じます。
【窪野先生】大人と子どもの一番大きな違いは、成長過程にあることです。虫歯を削って終わりではなく、その後のことも考慮して、離乳食やおやつの取り方の指導を通して予防処置を行っています。さらに歯並びや発音など、口腔発達機能と呼ばれる領域全般が小児歯科の守備範囲となっています。
リニューアルにあたり意識したことは何ですか?

【窪野先生】やわらかい雰囲気の色味やデザインを取り入れ、キッズスペースを設けるなど、小児歯科らしい造りにはしていますが、成長した患者さんが通い続けても恥ずかしくならないように意識しています。また、内装以上にこだわったのが中身です。2台ある診療ユニットのうち1台は子ども用の小さな物で、フルフラットにして、赤ちゃんでも無理のない姿勢で治療できます。また、2階の個室にも1台診療ユニットがあり、口腔機能のトレーニングや診療方針の相談など、落ち着いてお話しできるようになっています。
どのあたりから通院される患者さんが多いですか?
【石井院長】待合室の地図にお住まいのエリアのシールを貼っていただいています。やはり神奈川県内が最も多いですが、遠いと小田原や二宮、東京都内から通ってくださる方もいらっしゃいます。海外にお引越しされて、長期休みの帰国に合わせて予約を入れられる「海外組」も。主にクチコミやSNSをとおして知ってくださっているようです。それと、小児歯科の対象年齢は基本的に中学3年生までなのですが、幼い頃から来ているクリニックに慣れているのか、「どうしてもここがいい」と通い続けている30代、40代の患者さんもいらっしゃるんです。そうでない場合は隣の「石井歯科医院」に転院も可能です。石井歯科医院で治療を受けている間、お子さんを当院でお預かりすることもできます。
大切なのは患者と保護者との「三角関係」
子どもの患者さんの治療をするにあたり、心がけていることはありますか?

【窪野先生】子どもだからといって説明をおろそかにせず、「なぜ治療が必要なのか」「放っておくとどうなってしまうのか」と大人と同じように治療内容をしっかり説明しています。3歳半~4歳になればこちらの言っていることはきちんと理解ができます。ただ、他の病院で怖い思いをしたお子さんや、歯科恐怖症の患者さんに対しては工夫する必要があります。特に自閉傾向が強いお子さんは言葉で伝えるよりも視覚情報の方が理解しやすいので、治療までのステップをイラストにしたカードを使って「診察室に入ってみよう」「機械に触ってみよう」と、一歩一歩段階的にチャレンジしてもらうようにしています。緊急性の高い場合は、承諾をいただいた上で抑制治療を行う場合もありますが、基本的には無理やり押さえつけるのではなく、本人が納得した上で治療を受けてもらうことが何より大切だと考えています。
保護者の方も安心できそうですね。
【窪野先生】親御さんとしては「早く虫歯を治療してほしい」という想いもあるでしょうけれど、歯科に恐怖心を抱いて通わなくなってしまわないためにも、ご理解いただければと思います。小児歯科は患者さん、歯科医師、そして保護者の「三角関係」が非常に重要です。歯磨きの指導や通院のトレーニングなどは親御さんの協力が欠かせませんから。私自身も二児の母なので、保護者の方と近い目線でアドバイスできることがあるかもしれません。
【石井院長】娘は現役の親世代、私は子育てを卒業した祖父母世代として、役割分担しながら保護者の方に寄り添っています。歯科衛生士や受付スタッフも子育て経験があるのでお役に立てるかもしれません。もし「拒否反応がひどくて他のクリニックで診てもらえなかった」という患者さんが、当院でトレーニングを経て治療を受けられるようになったら、患者さんだけでなく親御さんのお役にも立てますし、うれしいですね。
訪問診療も行っているそうですが、そうした場合に気をつけていることは?

【窪野先生】重度の脳性麻痺など、自分の意志で体を動かせないようなお子さん、医療ケア児と呼ばれる患者さんに対しては訪問診療を行っています。そういった患者さんは口から栄養を取っていないことが多いので、虫歯は少ないんです。ただどうしても永久歯の根幹治療や歯石の除去が必要な場合があるので、ケアのために伺っています。言葉での意思疎通はできませんが、この場合も治療中に語りかけたり表情を読み取ったりして患者さんとコミュニケーションを取ることを心がけています。
患者や保護者が「働きたい」と思えるクリニック
石井院長と窪野先生、お互いの尊敬する点、期待することはどのようなところですか?

【窪野先生】家庭では母としての役割をこなしながら、長い間クリニックを続けていること。母に憧れて歯科医師をめざしましたが、今は二児の母で同じ立場なので、その大変さが身にしみてわかります。特に、小児歯科では保護者の方に指導するシチュエーションがあるので、優しさがありながらも必要なことはきちんと伝える姿はかっこいいと思いますね。
【石井院長】娘は私が想像していた以上にこの仕事が好きなようで、身内ながらとても一生懸命やっていると思います。子育ても忙しい時期だと思うので、家庭と両立しながら、無理せず続けてもらえたらと思っています。
元患者さんがスタッフとして働いていらっしゃるとか。
【石井院長】そうなんです。かつて当院に訪れていた子が歯科衛生士や助手として「働きたい」と言ってくれて。歯科クリニックでは珍しいかもしれません。また、歯科衛生士の一人は患者さんのお母さんでもともと歯科衛生士の資格をお持ちだった方で、もともとはお子さんの付き添いで通っていたのですが、子育てが落ち着いた時に「ここで働きたい」と言ってくださり活躍していただいています。先日は、1歳から患者として通ってくれた子が大きくなって、高校進学後の進路に歯科衛生士の道を選んだというので、私が衛生士学校に推薦状を書きました。長年やってきたことが実を結んでいてうれしいですね。
今後の展望をお聞かせください。

【石井院長】「虫歯の洪水」といわれる時代は終わりましたが、現代では小児歯科に求められる範囲が広くなっています。口腔機能の発達や障害をお持ちのお子さん、重症の虫歯など、まだまだ課題は多いので、お子さんと保護者の方に丁寧に寄り添って、基本に忠実にやっていきたいと思います。
【窪野先生】地域密着のクリニックとしては「うちでできなかったら大学病院に行くしかない」というくらいできることはやっているつもりです。保護者の方々にとって、SNSをはじめ、子育てに関する情報があふれかえっている時代だからこそ、同じように子育てを経験している立場で、パートナーのような存在になれればうれしいです。引き続き皆さんの信頼と期待に応えられるクリニックでありたいと思います。

