田中 洋輔 院長の独自取材記事
椿クリニック 千歳船橋
(世田谷区/千歳船橋駅)
最終更新日:2026/02/09
世田谷の閑静な住宅街にある「椿クリニック 千歳船橋」。メゾネットタイプの一般住宅をオフィスにしていて、総勢約20人のスタッフたちが「いってきます」「ただいま」と元気に行き交っている。アットホームな雰囲気の中心にいるのが院長の田中洋輔先生だ。三次救急病院で救急医療にあたってきた経験を生かし、在宅医療に真摯に取り組んでいる。ポータブルエックス線検査機器をはじめとした先進機器を取りそろえ、患者の生活空間で可能な限りの医療を提供している。一般的な体調管理から末期がんの緩和ケアまで幅広く対応し、患者はもちろん家族の話にもしっかりと耳を傾ける。同院がめざす「患者ファースト」の医療とはどのようなものなのか詳しく話を聞いた。
(取材日2026年1月15日)
フットワーク軽く良質な在宅医療を24時間体制で提供
在宅医療専門クリニックと伺いましたが、どのような患者さんを診ているのですか?

現在、通院が困難な方、これからそうなると予想される患者さまを対象としています。ご高齢の方が中心で、ご家族が介護をしている末期がんの方から、100歳を過ぎても一人暮らしをしている方までさまざまな方がいらっしゃいますね。まれに若くして肝硬変でお困りの方のところに伺うこともあります。基本的に月に2回ほどの訪問診療を行いつつ、患者さまが急に体調を崩された時は訪問予定日以外の往診にも柔軟に対応しています。系列の「椿クリニック 溝の口院」の野中勇志院長が世田谷区の関東中央病院の外科に勤務していたこともあり、以前からこのエリアの患者さまも少なくありませんでした。より近くに開業したので「気兼ねなく呼べるようになった」という喜びの声を聞くとうれしいですね。
チーム医療で24時間365日対応しているとか。
医師や看護師など総勢20人以上のスタッフが力を合わせ、チーム医療で24時間365日、患者さまとご家族のサポートに尽力しています。全員ですべての患者さまの情報を共有し、誰が急に呼ばれても適切に診療できる体制を整えています。救急科、皮膚科、神経内科などを専門とする医師がいて、お互いにすぐに相談し合えるのも当院の強みです。今のところご自宅よりも介護施設に伺うことが多いのですが、施設の方に対応の速さを感謝されることも多いですね。病院から急に退院が決まった患者さまに対しても、間を空けずに訪問診療につなげられるように心がけています。
具体的に受けられる医療処置について教えてください。

各種検査や経管栄養のチューブ交換をはじめとして、必要があれば輸血も行います。持ち運びができる検査機器を一通りそろえ、病院に行かなくても採血検査、エックス線検査、エコー検査、心電図検査などができるようにしています。中でもポータブルエックス線検査装置は、呼吸が苦しい患者さまが心不全なのか肺炎なのかを確認する際に欠かせません。また、ポータブルエコーは心臓、腹部、頸部、肺、膀胱などを観察するのみならず、エコーガイド下で穿刺して腹水を抜くなどの処置にも役立てています。エックス線やエコーで撮影した画像はすぐにモニターでお見せできるので、患者さまやご家族によりわかりやすく説明できているのではないでしょうか。検査の結果、入院が必要ならば関東中央病院、東京医療センター、世田谷中央病院などを迅速に紹介しています。
救急科での長年の経験を生かし緩和ケアにも注力
医師になったきっかけや、院長に就任するまでのご経歴を聞かせいただけますか。

医師を志したのは子どもの頃に薬害エイズ事件が起き「エイズとは? 免疫とは?」と興味を持ったのがきっかけです。生物学者も考えましたが、研究よりも人と関わる医師のほうが自分には向いていると思いました。東京医科大学卒業後は同大学八王子医療センターで初期研修を受け、救命救急センターに入局しました。当時、魅力を感じていた産婦人科を専門にするなら、救急医療の経験があったほうがいいと考えたからです。その後、日野市立病院の救急科立ち上げに参与するなどしましたが、大学の先輩でもある野中先生にお声をかけていただき溝の口院に入職。2025年11月に当院の院長に就任しました。実は私は世田谷区民として子育て中でもあるので、なじみ深いエリアで地域医療に携われることにやりがいを感じています。
長年にわたる救急科での経験が、訪問診療にどのように生かされていますか?
ご高齢の方は基本的に体のベースの部分が弱っていて、いつどなたが急変してもおかしくありません。当院でも緊急の患者さまに対応することがあるので、これまでの経験が大いに役立っていますね。環境が整わない中で患者さまの状態に合わせて最善を尽くすのは、救急医療と在宅医療で共通する部分です。また、長い間、受け入れる側だったので、救急搬送からの入院後にどうなるかはおおよそ見当がつきます。「今、入院したら二度と家には帰れないかもしれません。家では病院ほどの管理はできなくても自由に過ごせます」などと具体的に話し、本人やご家族にとって一番いい方法を選択できるよう相談に乗れるのも、救急科出身だからこそといえるでしょう。
緩和ケアの症例も多いと伺いました。

溝の口院でも緩和ケアも担当していましたが、千歳船橋ではよりご希望が多いように実感しています。在宅での緩和ケアは痛みをコントロールするための投薬がメインで、内服薬、注射薬、体に貼る薬、座薬、点滴などを使い分けます。患者さまが痛みを感じた際にボタン一つで鎮痛剤を投与できるPCAポンプにも対応可能です。病院勤務時代には「最期は自分の家で過ごしたい」と望みながら、かなえられない患者さんになすすべはありませんでした。しかし、在宅医療では患者さまとご家族の最後の希望を第一に考えることができます。いざという時にどうしたいのか事前に決めておいても、いざとなったら慌ててしまうものです。そんな時もお力になれたらと思っているので、気兼ねなくご相談ください。
「患者ファースト」をいつも胸に温かな医療を届けたい
患者さんと接する時に何を大切にしていますか?

大切にしているのは、常に自分事として置き換えて考えることです。患者さまが自分の家族だったら、友達だったらどうするのか、立ち返るようにしています。決してこちらの意見を押しつけるのではなく、患者さまご自身がどうしたいのか答えが出るまで待つようにもしていますね。限られた時間内で大勢の患者さまを診ていた基幹病院では難しかった、「一人ひとりの人生や生活に合ったきめ細かな診療」を心がけています。
今後の展望についてお話ください。
開業したばかりということもあり、今のところは介護施設に入居している方への訪問診療がメインになっていますが、これからはご自宅にお住まいの方のお役にも立ちたいと思っています。そのためにケアマネジャーや地域包括支援センターとの連携を深めていきたいです。また、医療だけでは解決できない生活上の課題を抱えている方も珍しくないと実感しています。現在も介護保険に関する相談などにも医師や看護師が応じていますが、将来的にはソーシャルワーカーを配置してより詳しいご案内ができればと考えています。また、障害のあるお子さんなどへの訪問診療も実現できたらというのも夢の一つです。子どもの訪問診療をしているクリニックは限られているので、お困りの方も少なくありません。もし、体制が整えばぜひ取り組みたいです。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

私たちは24時間365日「患者さまファースト」を理念として、患者さまとご家族の希望を重視した診療を提供しています。生活空間におじゃますることは、患者さまの生活や人生にふれる機会でもあります。それによって患者さまへの思い入れがいっそう強くなるというのは、外来診療だけをしていた頃は思いも寄らないことでした。患者さまやご家族の希望を重視した「患者さまファースト」の医療を実践することで、皆さまが安心して暮らせる地域づくりに役立ちたいと考えています。医療のことでも、それ以外の「介護保険制度が難しすぎる」といったことでも構いません。どんな小さなことでも何なりとお申しつけください。

