高橋 恒輔 院長の独自取材記事
たかはし在宅クリニック 百合ヶ丘院
(川崎市麻生区/百合ヶ丘駅)
最終更新日:2026/01/05
小田急線百合ヶ丘駅から徒歩1分、坂の多い住宅地に2025年10月に開業した「たかはし在宅クリニック 百合ヶ丘院」。高橋恒輔院長は、東京医科大学病院の消化器・小児外科、神奈川県立がんセンターでがん治療に携わってきた。転機はがんセンター所属時に訪問診療に関わり、自身が手術した患者を偶然診た時。病院と自宅での姿の違いに驚き、「患者さんの生活そのものに関わることも大事な医療」と気づいたという。調布の悠翠会うえまつクリニックで2年半学び、百合丘に24時間体制の訪問診療クリニックを開業。「患者さんには我慢をしないでほしい」「医師と患者ではなく最終的には人と人」と語る高橋院長。患者に希望を持って生きてもらうために、診療時に大切していることを聞いた。
(取材日2025年11月13日)
患者の生活を見ることの大切さに気づき24時間体制へ
勤務医時代のご経験から訪問診療に転じられた経緯を教えてください。

東京医科大学病院の消化器外科から神奈川県立がんセンターへ所属した際、訪問診療に関わったのがきっかけでした。ある時、自分が手術した患者さんを偶然緊急の訪問診療で診ることになったんです。病院ではいつも身だしなみを整えて来院される姿しか拝見していませんでしたが、ご自宅でのご様子を見て、愕然としたのを覚えています。病院での姿とご自宅での生活に大きな違いがあることを知り、患者さんの日々の暮らしに寄り添うことも、医療において大切な役割なのだと感じました。がんの治療だけでなく、その人がどう生活しているかを見ることの重要性を痛感し、訪問診療への道を本格的に考えるようになりました。
調布のクリニックで学ばれた後、この百合丘で開業されたそうですね。
調布の悠翠会うえまつクリニックで2年半、訪問診療の基礎を学びました。そこで24時間体制での在宅医療や、幅広い疾患への対応などを実践的に身につけることができました。そうして開業地を探すことになったのですが、立ち寄った百合丘周辺の坂の多さに気づきました。足腰が弱っているご高齢の方にとっては、外出が難しくなってしまう地形だと思いました。団塊の世代が高齢化する中、こうした地域にこそ訪問診療を必要とする患者さんが多いのではないかと思うようになりました。また、麻生区で病院を営む大学の先輩と話をする機会があり、この地域はまだまだ訪問診療が十分に浸透していないことを耳にしました。病院や通常のクリニックだけでは十分に支えることが難しい方々のために、2025年10月にこの地域で開業を決意しました。
24時間体制での訪問診療にこだわる理由をお聞かせください。

私が大切にしたいのは「普段診ている先生に困った時に診てもらえる」という安心感。患者さんとの信頼関係を築くことこそが、訪問診療の一番大事な意義だと考えています。外科医時代も緊急手術で呼ばれていましたから、24時間対応は私にとってそれほど大きな変化ではありません。クリニックのロゴマークの木には、地域への還元の思いを込めています。大地から水を吸い上げて光合成し、酸素を作り出す、つまり、今まで学んできた知識や経験を、地域の人たちに還し、皆さんのためになるという循環のイメージです。エックス線や超音波のポータブル機器を備えていますので、CT・MRI以外の検査にほぼ対応可能です。地域の皆さんに安心を届け続けたいと思っています。
自宅環境から患者を理解し、地域で支える在宅医療
消化器外科から訪問診療の医師へ転身され、診療の幅はどう変わりましたか?

私は消化器外科を専門として、手術や抗がん剤治療そして緩和治療を行っていましたが、訪問診療では認知症、がん、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病など本当に幅広い疾患に対応するようになりました。高血圧や糖尿病といった慢性疾患の管理も必要で、「家から出られなくなった人すべて」が診療の対象になります。ですから、あらゆる疾患の知識や技術を持ち、広く診られなければなりません。当クリニックでは、基本は月2回の定期訪問に加えて、緊急時の臨時往診も対応しています。転倒による骨折の診断から病院への入院手配まで、時には救急隊が患者さんとその家族に寄り添うなど患者さんの生活全体を支える役割を担っています。
訪問診療で患者さんのご自宅に伺う際、特に心がけていることは?
ご自宅の環境にじっくり目を向けることを大切にしています。というのも、本棚や壁に貼っているものなどからその方の人生や生活してきた歴史が見えてくるんです。もし釣りの道具があれば「どこで釣りをされるんですか」とお声がけすることもあります。趣味の話をさせていただくと緊張などがほぐれて、体調のことも話しやすくなるからです。医師と患者さんという立場ではありますが、最終的には人と人だと考えています。外来では時間的制限がありますが、訪問診療なら長い方だと1時間くらいお話をすることもあります。病気を診るだけでなく、どうしたらご自宅で過ごしやすくなるかを一緒に考える。初めてお会いする時から安心してお話ししていただけるよう、その方の生活を理解することから始めています。
ケアマネジャーさんや訪問看護師さんとの連携はどのように行っていますか?

訪問看護師、訪問薬剤師、ヘルパーなど、多職種でチームを組んでいます。患者さんを中心に円卓を囲むような横並びの対等な関係性です。共有ツールを使って情報連携し、24時間体制でサポートしています。ご家族のお悩みやご負担の軽減も重要な役割です。ケアマネジャーさんが中心となってサポートの体制を構築し、地域全体で患者さんの生活を支えていく。時として失われがちな「患者さん中心」という考え方を、在宅医療では一番体現できると思います。コミュニケーションをしっかり取ることが何より大事ですね。
どんな病気であっても希望を持って生きられる医療を
難病を抱える患者さんにはどのような医療を提供されていますか?

人が一番幸せなのは希望を持っている時だと思うんです。難病の方など、徐々に動けなくなっていく現実はありますが、その中でも「できること」を見つけて生きがいにつなげることが大切だと考えています。できないことばかりに目を向けるのではなく、小さな「できた」を積み重ねる。それが希望となり、笑顔に変わります。笑顔や前向きな気持ちは、体を治していく力があると信じています。手術や治療でのつらさに対しては多少の辛抱が必要ですが、在宅診療の場ではなるべく我慢をしなくてもいいように治療を進めたいと思っています。現状の維持と生活の質の向上を重視し、その方らしく過ごせることを第一に考えています。たとえ治療が難しい場合でも、「できた」を積み重ねて希望があれば充実した生活を送れるはずです。
現在のスタッフ体制と今後の展望についてお聞かせください。
現在は医師の私と診療助手1人、事務3人の体制です。平日の診療は助手と一緒に行いますが、土日祝日は私1人で対応しています。休みなしの生活ですが、患者さんのためと思えば苦になりません。悠翠会うえまつクリニックの理事長から教わった「愛と奉仕と感謝」の精神を大切にしています。愛を持って、奉仕の精神がないと誰かのためになることはできません。今後も24時間体制で地域医療に貢献していくつもりです。まだ開業したばかりですが、これからも地域に根差し、患者さんとそのご家族が希望を持って笑顔で過ごせる環境を提供していきたいと考えています。
最後に、患者さんやご家族へのメッセージをお願いします。

まず、我慢をしないでほしいです。自分の人生ですので、それを大事にしてほしいです。患者さんはご自身で医師を選べないことも多いからこそ、私たちが一人ひとりに寄り添った対応を心がけることが大切だと考えています。認知症や難病など、困難な病気を抱えた方がたくさんいます。でも、だからこそ自分中心でいてほしいんです。在宅医療では、今の生活をどう良くできるかが大切です。私たちは患者さんとご家族が笑顔で過ごせるよう、全力でサポートします。どんな状況でも希望を見出し、その方らしい人生を送っていただきたい。それが私の願いです。

