市川 滉介 院長の独自取材記事
旗の台あまねクリニック
(品川区/旗の台駅)
最終更新日:2025/12/29
東急大井町線・池上線の旗の台駅から徒歩1分の「旗の台あまねクリニック」。市川滉介院長は医学生時代に地域医療講義で総合診療に携わる医師の話を聞き、感銘を受けたという。腎臓内科での勤務で培った対話重視の診療スタイルと、訪問診療でメンタルの問題を抱える患者と向き合った経験を生かし、24時間対応の訪問診療と夜間の外来の二刀流で地域医療に挑む。「困っている人を専門外だからと言わずに診たいんです」と語る市川院長は、ほぼ休診日なしの診療体制も「苦ではありません」と言いきる。患者への熱い思いとクリニック名でもある「あまねく=すべての人」への医療の実現に向けた取り組みについて話を聞いた。
(取材日2025年11月6日)
地域医療への揺るぎない信念を胸に開業
医師をめざしたきっかけを教えてください。

親族に産婦人科の医師が多く、医師という職業は身近でした。実は産婦人科をめざして医学部に入ったんです。転機は1年生の地域医療講義でした。「島や地域のなんでも屋さん」のような総合診療を行っている開業医の先生の話にとても感銘を受けたのです。紛争や災害が起こっている国への支援を行う医師団体の話をする先生もおり、地域医療に興味を持つようになって。そこから内科へと方向転換しました。来院する人を専門外だからと言わずに、いったんは自分で診る医師でありたい。その思いは、あの講義から今まで変わっていません。
腎臓内科での経験は、現在の診療スタイルにどう生かされていますか?
腎臓内科を選んだのは、内科の中でも比較的「なんでも屋」に近いところがあったからです。透析に至る原因は生活習慣病から遺伝的な病気までさまざま。患者さんの家族背景や生活習慣を一緒に見つめる時間を多く過ごしました。外来でも患者さんとの対話に多くの時間をかけていて、病気そのものというよりその方自身と向き合うことを意識していましたね。患者さんの中には、運悪く病気になった方もいるし、生活習慣に問題がある方もおられます。どちらの場合も、患者さんを理解しようと努めていました。この対話重視の姿勢は、今の診療の根幹にもなっています。
訪問診療に携わるようになったきっかけを教えてください。

大学の腎臓内科に3年半いた後、在宅クリニックの先生と縁があって知り合いました。その先生の熱い後押しもあって訪問診療を始めたんです。訪問診療を受けられる患者さんには、がん末期の方だけでなく、20代のうつ病の方や30代の統合失調症の方など、心の問題で家から出られない若い方々が予想以上に多く驚きました。家から出られない方の中には、足腰が悪いだけではなく、心の問題もあるんだと気づかされました。同時に、医学の知識だけでなく、本人や家族と一緒に向き合う時間の大切さをあらためて実感したことを覚えています。この経験が開業への大きな転機となりました。
訪問診療と夜間診療の二刀流でめざす「あまねく医療」
旗の台での開業理由と、診療体制について教えてください。

前職で訪問診療に携わっていた頃に、訪問看護師さんや地域の方から、旗の台は心療内科のクリニックが少ないという話を聞いていたのも大きな理由です。自宅からも比較的近いため、夜間往診に行きやすい立地というのも決め手でした。また、外に出られない方のための訪問診療だけでなく、仕事で通院が難しい方のためにできることはないかと考えました。大学病院で夜間の外来を担当していた時に、かなり多くの方が来院していたんです。そこで、日中の訪問診療と夜間の外来を両立し、平日は17時から20時まで、土日の午前中も診療しています。休みがないのは大変ではないかと言われることもありますが、やはり困っている人がいたら診てあげたいという思いがありますし、苦ではないですね。
夜間の外来にはどのような患者さんが来られますか?
共働きが増えて夜にしか受診できない方が多いですね。塾帰りの子ども、仕事帰りの皆さんなど、日中の受診が難しい方たちです。標榜しているのは内科・小児科・心療内科ですが、当院は「すべての人を見る=あまねく医療」を実践することをめざすクリニックですから、「どんな方でもまずは診ます」という気持ちでいます。子どもはいつ熱が出るかわからないのに受診先がないという親御さんも多いですよね。眠れないという方も夜中に来ることがあります。夜間だからこそ出てくる不調もあるでしょう。そういう時に頼れる存在でありたいですね。
訪問診療ではどのような患者さんを診ているのでしょうか。

勤務医として訪問診療に携わっていた時と同じく、がん末期の方をはじめ、精神的な不調のために家から出られない若い世代の方も受けつけています。外来では、どうしてもほかの患者さんをお待たせしないよう、お一人にかける診療時間には限りがありますが、訪問診療は患者さんとじっくり話せるので、病気のことだけでなくいろいろな話をしています。「うちの猫がね」といった他愛もない話もできます。僕自身がやりたかった医療ができているという実感もあります。メンタルに問題を抱えている患者さんの診療では、本人だけでなくご家族も含めて、みんなで一緒に向き合っていく。そういう伴走型の医療を心がけています。
チームだからこそできる一人ひとりに向き合う医療を
診療で最も大切にしていることは何ですか?

先ほどお話ししたこととも重なりますが、とにかくよく患者さんと話すことです。訪問診療の醍醐味は、外来では不可能な深い対話ができること。患者さんだけでなくご家族とも話ができますし、生活の様子も見られます。患者さんの状況によっては、あまり話をしたくないのかなという場面もありますが、そういうときは僕ではなく、同行する看護師と話をしてもらってもいいと思っています。相性もありますから、チームで患者さんと向き合います。また、開業時には、院内の環境にもこだわりました。僕自身、蛍光灯の白々しい明かりが苦手なので、暖色系ライトを設置してやわらかい雰囲気を出しました。オフホワイトの壁紙と木目調の内装にしているので、ぬくもりが感じられる空間で、リラックスしてお話を聞かせてもらえたらと思っています。
スタッフさんはどのような方がいらっしゃるのでしょうか。
現在、看護師と事務含めて7人の非常勤スタッフがいます。全員がほかのクリニックでも働いているメンバーで、これが当院の強みでもありますね。みんなが「こういうやり方があります」「これは導入したほうがいい」「これはいらないですね」といったアドバイスをしてくれるんです。なので、情報量がとにかく多い。よく、開業すると自分のやり方にこだわりがちになるとも言われますが、スタッフたちのおかげで、常に考え方をアップデートできています。ノウハウを集結することで、患者さんにとってより良い医療を提供できる環境になっているのではないかと思います。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

当院では、家から出られない方には訪問診療、日中の受診が難しい方には夜間の外来で対応しています。発熱や頭痛など体に不調を感じたときはもちろん、なかなか寝つきが悪い、寝ても夜中に目覚めてしまうなど、どんなに小さなことでも構いません。何か心配なことがあれば、まずはお気軽にご相談ください。一緒に解決策を見つけていきましょう。これからも、クリニック名に込めたように「あまねく」一人ひとりの患者さんに向き合いながら、地域に貢献できるクリニックをめざします。

