福井 英人 院長の独自取材記事
かりゆし在宅クリニック
(広島市安佐南区/伴駅)
最終更新日:2025/12/24
安佐南区にある「かりゆし在宅クリニック」は、2025年8月に福井英人院長が開業した訪問診療専門のクリニック。院内には、患者や家族と相談するための談話スペースがあり、福井院長と訪問診療専従の看護師が待機。同院から車で30分以内の範囲で、訪問診療を行っている。福井院長は兵庫医科大学医学部を卒業後、千里救命救急センターや浦添総合病院救命救急センターで救急科の専門医師として尽力。13年間救急科医を勤め、地元広島県に戻り、広島市民病院、広島共立病院で救急科医を続けつつ、患者に寄り添った医療を模索し、訪問診療を始めたという。訪問診療では救命救急での経験を生かし、人工呼吸管理や胸水・腹水穿刺、輸血などの処置も行う。頼りがいのある人柄が魅力の福井院長に、開業までの経緯や、訪問診療の様子などを詳しく聞いた。
(取材日2025年10月29日)
救急科医の経験を生かし、在宅医療の道へ
在宅医療を専門に開業した経緯を教えてください。

私は救急科の専門医師として、長年病院の前線で命を救うために患者さんと関わってきました。とてもやりがいのある仕事でしたが、時がたつにつれ、救命した患者さんがその後どこでどんなふうに生きていくのか、そういったところまで医療で十分に支えられていないのではと、考えるようになったんです。病院での治療を終えた後も、安心してご自宅で過ごせるような、つなぎの医療をしたいという思いから在宅医療の道を選びました。
救急医療で経験したことで、今生かされていることはありますか。
いっぱいありますね。救急医療では、医師だけではなく救急隊など他職種と連携する特殊な状況にあります。在宅医療も同様で、病院の退院支援室や地域包括支援センターや訪問看護ステーションなどと交渉や連携を行います。連携は救急科で勤めていた経験から得意とするところですので、今までの経験を生かせていると思いますね。また、救急といっても集中治療にも関わっていましたので、在宅医療の現場で、人工呼吸管理や腹水穿刺、胸水穿刺などの処置ができることは、私の強みだと思います。ドクターヘリに乗っていた頃は、フライトナースと二人でエコーを片手に、何の情報もなしに現場へ向かうことが日常でした。フィールドの違いはありますが、在宅医療でも看護師とエコーや心電図を持って向かうところが似ていると思いますね。
院名「かりゆし」の由来について教えてください。

「かりゆし」は、沖縄の言葉で「縁起が良い」、「幸せ」などといった意味があります。私自身、沖縄で約10年医療に関わる中で、人と人との温かいつながりを大切にする沖縄の文化に深く感銘を受けました。在宅医療を通して、患者さんやご家族に「かりゆし」を届けたいという思いを込めて、この言葉を院名に加えました。また、「かりゆし」の語源は「水に沈まない軽石」が由来しているとも言われていて「船が沈まないように」という意味も込められているそうです。患者さんのご自宅での生活という船が沈まないように、溺れないように、後づけではありますがそんな意味も込めています。ご自宅に伺う際は、私たちが白衣では患者さんが緊張すると思いますので、雰囲気が和らぐ「かりゆしウェア」を着て行くようにしていますね。患者さんとの会話のきっかけにもなっているんですよ。
在宅医療で、家での生活を支える医療を提供したい
安佐南で開業されたのはどうしてですか。

私の生まれがこの辺りなのですが、安佐南は自然が多く、人と人とのつながりがある温かい地域なんです。前職場の福井内科も安佐南にあるのですが、実は父が院長を務めるクリニックなんです。当時から高齢の患者さんから家まで来てほしいという要望がありましたので、普通の内科を診療しているところに訪問診療部というのを立ち上げ、地盤を築くことができました。在宅医療では、病院での対応が難しい日常の困り事や、生活の質の低下などに寄り添っていきたいと考えています。私は、なじみ深い安佐南に在宅医療をしっかり根づかせていきたいという思いで始めました。救急科時代に、もっと早く在宅療養で関われていたら、生活は違ったかもしれないなと思うことが何度もあったんです。病院では救命という医療をやってきて、家では生活を支える医療というのをやっていくのが、私の第二の使命であると思っています。
どのような患者さんが訪問医療を希望されていますか。
病院からですと末期がんの方が多いですが、地域包括支援センターからは独居の認知症の方などの相談が多いですね。割合で見ると、末期がんと認知症の方が多く、次いで循環器疾患、脳疾患、整形外科の方が利用されています。整形外科は骨折をきっかけに歩けなくなったり、動けなくなったりして通院が難しい方ですね。認知症の方の場合は、歩けるのですが病院に行こうという気にならないので、訪問医療が必要になります。精神科や小児科、皮膚科、神経難病の方の場合もありますね。
診療の際に心がけていることについてお聞かせください。

まずは、患者さんの普段の生活での様子を見るように心がけています。例えば毎日ビール3本飲んでいる方が、1本しか飲めなかった場合には、何か原因があると考えるんです。いつも笑顔で過ごしている方が、今日はちょっと暗い顔をしているとか。何かあるかもと調べてみたら、実際に盲腸が見つかったというケースがあったり、毎年庭木を切っている方に今年は切れていないねと訊ねると、「腰が痛くてね」という話を引き出すことができたこともありましたね。また、その人の生活の中に医療を合わせるというのを大切にしています。病院でしたら病気の経過やデータを分析することが主体になるかと思いますが、どういう時間を過ごしたいかや家族とどんな会話をしているのかなど、何げないことを大切にして聞き取るようにしています。
患者が自分らしく生きるために医療で支える
その他に、患者さんとのエピソードがありましたら教えてください。

当院では、集中治療室で使うようなハイフローセラピー(高流量鼻カニュラ酸素療法)にも対応しています。通常の酸素療法を受けられていた方が動けなくなったら病院に行くと決めていたとしても、容体が悪くなった時点でハイフローセラピー(高流量鼻力ニュラ酸素療法)を行うことで、最後まで在宅療養をすることも可能です。また、病院では暗い顔をしていた患者さんが、在宅医療に切り替えてから表情が明るくなるといったケースもあります。「在宅ではもちろん病気のことを見てくれているんだけれど、生活を見てくれているのがとてもうれしい」といったお話を聞くことができれば、在宅医療の医師としてとても励みになると思います。
今後、どのようなクリニックにしていきたいと考えていますか。
地域の誰もが、いざという時に頼れると思えるような存在になりたいなと思っています。もちろん、地区全体の在宅医療のレベルを底上げして、他のクリニックや事業所とも連携し、地域全体で患者さんを支えるような仕組みをつくっていきたいと考えています。在宅医療の質を上げることで、家でもちゃんとした医療が受けられるという安心感を広げていきたいですね。在宅医療が気になられた際には、気軽にお電話ください。
通院が難しくて不安を感じている方やご家族に向けて、メッセージをお願いいたします。

私は「在宅医療は諦めの医療ではない」という言葉が好きですね。在宅医療は治療ができないから選ぶのではなくて、自分らしく生きるために選ぶ医療だと思うんです。病院では難しい、自宅だからこそかなえられる、その人らしい時間を過ごすことができるんじゃないかなと思っています。私たちは病気を治すことだけではなく、患者さんの生き方を支えるような医療を届けたいと思っています。不安や迷いがあっても大丈夫ですし、私たちができる限り支えますので、ご相談ください。

