塩出 宣雄 院長の独自取材記事
しおで循環器内科クリニック
(広島市中区/銀山町駅)
最終更新日:2025/11/07
2025年9月、広島市中心部の主要バスや電車が集まるエリアに「しおで循環器内科クリニック」がオープンした。塩出宣雄院長は、広島市民病院での10年の勤務をはじめ、地域の基幹病院で研鑽を重ねてきた循環器のエキスパート。「緊急手術にすぐ入れるよう、白衣を着ない癖が抜けなくて」という、穏やかで丁寧な物言いからは、日々の診察での様子がうかがえた。急性期治療の前線に立ち続けた経験を踏まえ、慌ただしい現場ではかなわなかった診療を患者に提供するために開業を決意したという。変わらない誠実さと適切な診断で、患者一人ひとりに長年寄り添ってきた塩出院長に、開業までの経緯や循環器内科診療への思いを詳しく語ってもらった。
(取材日2025年10月10日)
急性期の経験を生かし「生涯寄り添う地域医療」へ
ご経歴と開業までの経緯をお聞かせください。

循環器の医療は緊急性が高く、ちょっとした判断の間違いで命に関わることもあります。適切な判断が必要な医療なので、とてもやりがいを感じています。一方で、基幹病院に勤めていた頃は、一人ひとりの患者さんに関われる時間が限られており、予防や再発防止への取り組みは十分にできていませんでした。だからこそ、ゆったりした時間の中で、患者さんの予後をしっかり診させていただきたいという想いがありました。循環器疾患では、主治医を変えたくないという患者さんが多くいらっしゃいます。そこで、長く診察してきた広島市立広島市民病院と土谷総合病院、両方で関わった患者さんが通院しやすいこの場所で開業しました。
市街地の一角ですが、どんな患者さんが多いですか?
循環器疾患の患者さんはもちろん、高血圧や高コレステロールといった生活習慣病の相談で来られる方も多くいらっしゃいます。市民病院時代から10年以上診てきた患者さんが、開業に合わせてこちらに来てくださったケースもありますね。そういった方のデータは、紹介状を通じて引き継いでいます。新規の患者さんでは、風邪などの内科的な症状で来られる方も多いですね。立地が市街地ということもあり、職場が近い若い世代の方や、電車やバスで県北部から時間をかけて来院されるご高齢の方など、幅広い年齢層の方にご来院いただいています。最寄りのバス停は八丁堀なので、公共交通機関で通いやすい点も特徴です。同じビル内には調剤薬局だけでなくさまざまな診療科のクリニックも入っており、他院での検査の数値が気になった方が、検査結果を持って直接こちらに来院されるケースもあります。
急性期を担う基幹病院と、クリニックとの役割はどのように違うのでしょうか?

狭心症や不整脈、弁膜症の患者さんは、薬で経過を観察させていただくんですが、手術が必要と判断する場合は基幹病院を紹介しています。長年培ってきた豊富な人脈がありますので、ご家族がお見舞いに行きやすい場所を考えながら、最終的には症状に合った医師を紹介しています。また、基幹病院では十分元気になってから退院する余裕はありません。術後は薬のコントロールや追加治療が必要になりますし、定期的に心電図検査や心臓のチェックも必要です。そこで、術後の回復期は当院で診させていただくようにしています。基幹病院と比べると通いやすく、待ち時間も短いですからね。再発する可能性はゼロではありませんから、しっかり通院していただいて、長く安心して生活できるようにサポートしています。
病気だけでなく患者の生活を診るクリニックとして
循環器疾患を予防するために、日常生活で気をつけるべきことがあれば教えてください。

生活習慣病は「ちょっと数値が高いだけ」と放置されがちですが、実は心臓病や脳梗塞の引き金になります。予防や再発防止には生活習慣病の治療が大事なんです。メタボリックシンドロームや不規則な生活、睡眠不足、運動不足といった生活習慣は、若いうちに改善につなげることが非常に大事です。高コレステロールに関しては下がれば下がるほど、再発率が低いことがわかっています。生活習慣病の治療ができているか、できていないかは、短期間ではそんなに差は出ません。しかし、50歳を過ぎると、やっぱり差が出てきます。気づいた時から生活習慣を見直し、循環器疾患のリスクを下げていただきたいですね。
循環器の病気は「怖い」「重い」というイメージがありますが、説明の際に、大切にしていることは何ですか?
循環器の病気は基本的に良性の疾患です。元の生活に戻るには早めに正しくケアをする必要がありますが、逆に、痛みや違和感を我慢して放置してしまうと、心臓にダメージが残り、機能の回復が難しくなります。診察では「正しく向き合えば回復につなげられる病気です」ということを、まずお伝えしています。血管の模型やイラストを描きながら説明することもありますね。また、病気だけでなく、ご家族の状況やストレスの背景まで時間をかけてお話を伺うようにしています。勤務医の頃は十分に寄り添えないもどかしさがあったのですが、開業してからはそういったお話を伺えるようになり、本当に良いことだと思っています。
検査機器はどのようなものを備えていらっしゃいますか?

循環器疾患に必要な心電図検査と心臓超音波検査を中心に、狭心症・心筋梗塞・不整脈といった心疾患の診断に対応できる検査体制を整えています。さらに、末端の細い血管の狭窄や詰まりを調べるABI検査にも対応しています。歩くと足が痛む場合、整形外科に行かれることが多いですよね。実は、整形外科で異常が見つからない場合でも、ABI検査で血管の異常が確認されるケースがあるんです。当院では、血圧の変動をこまめに確認できる測定機器も備えており、心臓・血管周りの状態を総合的に診ることができます。
循環器疾患は治療できるからこそ早期受診で安心を
日々の知識や治療のアップデートは、どのようにされていますか?

勉強会や専門の医師たちとの情報交換は定期的に行っています。また、新たな情報やガイドラインがまとめられた専門サイトもあるため、新薬や治療のトレンドを随時キャッチアップしています。最近では、コレステロール値を大きく下げるための注射剤が登場しています。ただし、非常に高価な薬なので、導入には丁寧に検討する必要があります。患者さんによって「短期間で治療を終わらせたい」「できるだけ費用を抑えたい」など、ご希望はさまざまです。メリット・費用・通院頻度などを含めてご説明した上で、一人ひとりに合わせた治療方針を決めています。
今後どのようなクリニックにしていきたいですか?
循環器は精密で迅速な診断が求められる領域です。今までの経験を生かして「早く相談して良かった」と思っていただける存在になりたいですね。当院では、受付の問診は細かく書く方式ではなく、私が直接お話を伺うスタイルにしています。症状の背景や生活状況など、言葉にされない違和感まで含めて、適切に情報を受け取ることが重要だからです。今後も、診断の精密さと安心して話せる場の両方を大事にしながら、地域の方に長く信頼いただけるクリニックをめざしてまいります。
読者にメッセージをお願いします。

循環器疾患は、元の生活に戻るには早く診断し、早く治療することが重要です。「少しおかしい」と感じたら、ためらわず専門の医師を受診していただきたいです。目安としては、息切れする・胸が痛む・違和感があるといった症状があります。心筋梗塞では、高齢の女性に重症化するケースが非常に多いんです。胸が痛くても「もう少し様子を見よう」と我慢してしまい、心臓の機能が大きく損なわれてから来院されるケースが少なくありません。「もっと早く来てくださっていれば、ここまで重くならなかったのに」と思う場面を何度も経験してきました。症状が出たときは自己判断せず、必ず専門の医師を受診してください。早期に治療を始めて、できるだけ早く元の生活に戻れるよう尽力します。

