内田 直 理事長の独自取材記事
すなおクリニック宇都宮診療所
(宇都宮市/宇都宮駅)
最終更新日:2025/10/10
宇都宮駅から徒歩5分の「すなおクリニック宇都宮診療所」。大宮で2016年に開業されたクリニックの北関東における新たな拠点として、2025年7月に診療をスタートした。内田直理事長はカリフォルニア大学での睡眠研究、早稲田大学でのメンタルヘルスに関する教育経験を持ち、薬物療法だけでなく患者の生活全般を把握し、その人に必要な改善策をともに考える診療スタイルを貫く。「睡眠だけ診ていてはその人の問題は解決しない」と語る内田理事長は、睡眠障害の背景にある発達障害や生活習慣にまで踏み込んだ総合的アプローチで、働く世代を中心とした幅広い患者層を支えている。地域のニーズに合わせた柔軟な運営をめざす内田理事長に、分院開設の経緯や診療への思いを聞いた。
(取材日2025年9月17日)
睡眠医学とメンタルヘルスの総合ケアの新拠点として
宇都宮に開院された経緯について教えてください。

2016年に大宮で睡眠医学の専門性を打ち出したクリニックを開業したところ、睡眠障害の診療のニーズが年々強まるように感じました。大宮は東北新幹線と上越新幹線が合流する地点で、北関東には睡眠を専門とするクリニックがそれほど多くないこともあって、宇都宮や高崎の辺りの方も睡眠医療を求められているのではないかとも感じました。私自身、栃木県の自治医科大学の非常勤講師を務めていることもあり、栃木県にはより親和性を感じていました。また、自治医科大学で講師をされている岡田先生にも診療に参加していただける環境が整ったことで、大学との連携も考え、宇都宮への分院開設を決めました。
先生が睡眠医学を専門にされたきっかけは?
東京科学大学に入局した際、睡眠の研究グループに入ったことがきっかけです。その後カリフォルニア大学で客員研究員として睡眠研究を深め、帰国後も東京都精神医学総合研究所で研究を続けました。早稲田大学でスポーツ科学部が新設された際には、アスリートの精神的問題への取り組みや、うつ病・不眠症と運動の関係について研究を行いながら学生指導にも携わりました。医師として、教授として幅広い年齢層の人たちと関わる中で、精神科のさまざまな疾患を治療するには薬物療法はもちろん、その方の生活を見直し改善していくことが大切だと実感したんです。自分がめざす医療を多くの方に提供したいという思いで、60歳で早期退職して開業に踏み切りました。
すなおクリニックの診療の特徴を教えてください。

「スリープ・メンタルヘルス総合ケア」を掲げ、睡眠障害だけでなくうつ病、成人期の発達障害、認知症、不安障害など幅広い疾患や、アスリートのメンタルヘルスの相談に対応しています。当院の大きな特徴は、働く世代の患者さんが多いこと。診療では患者さんが24時間どのような生活をしているのか、どんな人たちと会っているのかまで含めて広く把握します。その上で、生活の中で改善できることがあればアプローチしていきます。仕事が原因の一つでも、さまざまな事情から変えられないケースも多い。だからこそ、仕事以外の部分で改善できることを患者さんと一緒に考えていきます。
睡眠障害の背景にある発達障害にも目を向ける
睡眠障害が発達障害に関連している場合もあるそうですね。

睡眠障害の背景には他の精神障害、特に注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症などの発達障害が潜んでいることがよくあります。本院で診療している際、睡眠を主訴として来る患者さんの中に、そういった発達障害の問題を持っている方の割合が非常に高かったんです。私は発達障害について専門的に学んだわけではありませんが、睡眠を診ていく中で、睡眠だけ診ていては問題が解決しないケースが多いことに気づきました。その後発達障害について勉強し、その背景にある発達障害の問題や、そこから生まれる人間関係の問題なども総合的に見ていくようになりました。その中で、安心して毎日の生活が送れるよう生活の改善をめざし、結果として睡眠の改善が期待できる。発達障害の治療をすることで日中の眠気の改善が見込めるケースも多いと考えています。
認知症診療や地域連携についてはどのような体制で行われていますか?
認知症の初診では長谷川式知能評価スケールやMMSEなどの認知機能検査を行い、必要に応じて外注でMRIを撮影してもらって診断します。ただ薬物療法を行うだけでなく、これから先の経過を見据えた支援が重要です。地域包括支援センターとの連携、ケアマネジャーとの協力、介護保険の申請などをサポートしています。一般的には、家族が物忘れに気づいて一緒に医療機関にかかることが多いですが、どうしていいかわからず途方に暮れている方も多い。国の制度を利用しながら仕事も続けられることを説明し、家族の生活も含めて考えていきます。
学生へのサポートについてはいかがですか?

大学生のサポートでは、障害学生支援室や学生課と連携し、診断書を書きながら学生生活を支援しています。大学教員の経験があるので、大学の仕組みを理解した上で適切なサポートができるのも当クリニックの強みです。
薬物療法だけに頼らない治療方針について、もう少し詳しく教えていただけますか。
その人が望むこれからの人生の目標はどこにあるのか、そこに行くために何ができるのか。それを初診時にじっくり話し合い、達成できる道筋を共有しながら一つ一つ実行していきます。不安があれば抗不安薬、眠れなければ睡眠薬を出すだけでは薬は増えていくばかりです。まずはどういう環境で生活しているのかを把握する。不安が少しでも取れるようめざし、薬を減らしていく。必要な薬は続けますが、種類や量は減らして、生活のどこを改善できるかを話し合いながら実行していくのが私たちの治療方針です。他院から紹介される患者さんの中には、すでにかなりの薬を飲んでいて、それを減らしたいという相談で来る方も多くいます。その場合も、生活の改善も含めて少しずつ減らしていくようにしています。
睡眠の問題や精神的な症状を気軽に相談できる場所に
新型コロナウイルス流行後、働き方も変化しています。それがメンタルヘルスに及ぼす影響はありますか?

ありますね。オンラインで仕事をすると人間関係の接触が少なくなり、それで気分が安定する人たちが結構いるんです。大学生活で、途中まではオンライン授業だったのに、だんだんと対面授業が増えたことで授業に出席できなくなってしまったという報告もあります。一方、新型コロナウイルスの流行が落ち着いて出社を求める会社が増えています。リモートワークでは良かったけれど、混んだ電車が嫌だったり、職場で常に周りに人がいることでイライラしてしまったりして具合が悪くなる人も増えています。仕事が続かなくなって来院される方が多いですが、仕事を変えることは難しい。だからこそ、仕事以外の部分で改善できることを一緒に考え、快適な生活を実現できるようサポートしていくことが大切なんです。
睡眠障害はクリニックを受診すべきかの見極めが難しい場合もあるのではないかと思います。
日中の過度の眠気はEDSと呼ばれる睡眠学的な症状の一つです。これが病気だと思っていない人も多いんです。会社から「他の人に比べて居眠りが多い」「作業効率が悪い」と指摘されて医療機関の受診を勧められる方もいます。自分の努力が足りないんじゃないかと思っている人の方が多いかもしれません。そういう人の中には睡眠時無呼吸症候群の方もいます。病気とは思わず我慢している、あるいは自覚症状がないケースも多い。EDSという症状があることを知ってもらうことも重要だと考えています。仕事場のハラスメントなどで不眠になっている方も、なんとか我慢して仕事に行き続け、結局仕事に行けなくなってから来院されることが多いですね。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

大宮でやっている睡眠障害等に関連した専門性を持ったクリニックの分院として宇都宮でスタートしましたが、地域の特徴や患者さんのニーズは大宮と宇都宮では異なる場合もあると思います。人口構成や地域の特異性もありますから、地域のニーズに合わせた柔軟な対応をしながら、必ずしも大宮とまったく同じではなく、この地域に合ったクリニックとして運営していきたいと思っています。宇都宮では睡眠障害のほか、認知症や一般的な心療内科分野も多く診ていきたいです。睡眠の問題や精神的な症状でお困りの方は気軽にご相談いただければと思います。一人ひとりの生活に寄り添いながら、この地域の皆さまの健康を支えていきたいと考えています。

