北林 和夫 院長の独自取材記事
LTハートクリニック
(荒川区/三河島駅)
最終更新日:2025/08/22

2025年7月に開業した「LTハートクリニック」は、JR常磐線・三河島駅から徒歩2分の所に位置する。院長の北林和夫先生は、国立や民間などさまざまな医療機関で、40年近くにわたり精神科医師を務めてきたメンタル治療のスペシャリスト。精神科や心療内科のほかに、児童精神科分野にも注力し、大人から子どもまで幅広い悩みに応えてきた。「気の利いた喫茶店に立ち寄る感じで気楽に来てほしい」と優しくほほ笑む北林院長に、クリニックの特徴などについて詳しく聞いた。
(取材日2025年7月24日)
癒やしの空間で、幅広い精神疾患に対応
こちらのクリニックは、この7月に開業したそうですね。

近くに自宅があるのですが、このビルの3階に就労継続支援事業所があり、以前から興味を持っていました。その下の1階に当院の開業が決まり、精神科医を募集していたので、応募して今日に至ります。上階にある就労継続支援事業所は、当院と同じ法人が母体なので交流もあります。ハートが2つ合わさったクリニックのロゴマークは、当院の看護師がデザインしました。「医療と患者さん、医療と福祉などの連携でできたクリニック」という意味が込められています。私は1986年の信州大学卒業以来、ずっと当院のある荒川区在住なので、地元の役に立てることがとてもうれしいです。
院内のこだわりを教えてください。
患者さんができるだけ落ち着けて、来るだけで癒やされる空間をめざしました。待合室には絵画を飾り、お子さんのために低めのソファーを設置しました。気の利いた喫茶店のような場所になるのが目標です。診察室のガラス扉は、閉塞感が苦手な患者さんの診察時には開け、扉が閉まっているほうが落ち着く場合は閉じています。診察デスクの上にちょっとしたおもちゃを置いているのは、お子さんの緊張をほぐすためです。診察室の飾り棚には絵本やボードゲームを飾っています。また、うつ傾向の人が前向きな気持ちになれるように、不眠症の方が落ち着けるように、と絵本なども置いていて、患者さんと一緒に読んだりします。お子さんの場合は、急に会話が通じるようになるわけではないので、一緒にボードゲームなどをして気持ちがほぐれるきっかけをつくります。
クリニックの特徴をお聞かせください。

当院はうつ病や適応障害、発達障害、統合失調症、パニック障害などのほか、精神科や心療内科全般の疾患に対応しています。診療科目は精神科、心療内科、児童精神科で、訪問看護やオンライン診療も行っています。また、血液検査や心電図検査、心理検査も可能です。血液検査は、甲状腺に疾患があるバセドウ病や貧血など、うつ病の原因が内科系疾患という場合があることと、薬剤による肝機能や腎機能障害の確認のために行います。心電図検査は、動悸がしてパニック障害を疑ったら、薬の副作用による不整脈だったというケースがあるからです。心理検査は、うつ病の程度を見るものや、患者さんに実のある木を1本描いてもらって、その方の性格や悩み、心の傷の有無などを調べるバウムテストを行います。
児童精神疾患は早期発見と療育で症状の軽減を図る
訪問看護とオンライン診療について教えてください。

訪問看護は当院で受診された方が対象です。病気や障害で通院が困難な方のご自宅や施設に看護師が定期的に通う仕組みで、年齢を問わず利用できます。オンライン診療は、身体的・精神的な側面から来院が困難な方を対象としています。対面治療だと緊張して話せない方でも、オンライン診療だと話しやすいということもあると思います。ただ、オンラインですと全身を診ることができません。診断は顔の表情だけではなく、体の動かし方なども見て総合的に判断するものです。向精神薬も処方しますので、患者さんに対する情報量が少ないままに診断することは危険です。そのため、1回は来院いただき、患者さんの様子をこちらが把握してからオンライン診療に切り替えてもらうようにしています。また、普段は来院されている方が、忙しくて来られないときにオンライン診療にする、というケースも受けつけています。
児童精神科では、どのような診療を行っていますか?
児童精神科は、1~16歳くらいのお子さんが対象です。幼児でも自閉症や神経疾患はわかりますし、障害が重くならないためにも早期に治療を始めることをお勧めします。学校に行きづらい、ゲームする時間が長いなど、お子さんの様子を見て、親御さんが相談してくるケースが多いですね。状況によっては親子一緒に診たり、分けて診たりします。昔に比べ、コミュニケーションが取りにくい、衝動的になるなどの症状が見られる発達障害や、自閉スペクトラム症、ADHD(注意欠如・多動症)のお子さんが増えてきました。疾患が見つかったら、ここで一緒に遊びながら診療を行い、回復をめざしていきます。親御さんにも疾患の説明をし、その子に合わせた育て方を一緒に模索します。知的障害や発達障害、神経系疾患の場合、このことはとても重要なんです。
時代による疾患の変化はありますか?

子どもの疾患についてですが、私が医師になった40年前は、シンナーや麻薬の乱用、校内暴力などで、子どもたちは荒れていました。私が学校医を務めていた学校では、廊下をバイクで走る生徒もいました。精神的な疾患が行動という形で出てきていました。しかし、1990年代の半ば頃から一転して、引きこもりやゲーム依存へと、症状の表れ方が変化してきました。昔に比べ、より繊細になり、不安神経症の傾向が強くなってきた印象です。しかし疾患の表れ方は揺れ動くものなので、再び行動化の時代が来るかもしれません。
大人から子どもまで、誰でも気軽に立ち寄れる場所に
患者さんと接する際に心がけていることは何ですか?

できるだけ患者さんの話を切らないように傾聴することです。「人に話せた」という事実は自信にもつながりやすいため、患者さんに話してもらうことはとても大切です。説明する際は専門用語をなるべく使わず、できるだけ患者さんにわかる言葉で話すように心がけています。お子さんには年齢に合わせた言葉を使います。話すことが難しい場合は診療は一旦せず、先ほどお話ししたボードゲームで私と対戦してもらいます。私と互角になったり、お子さんが勝ったりするととても喜びますね。笑顔を引き出すとその後の反応が違ってくるだけでなく、医師とのつながりができ、「次もまたやろうね」という関係へと変化していくのです。
医師を志し、精神科を専門にされた理由をお聞かせください。
もともと生物が好きで動物の研究をしたかったのですが、信州大学医学部に合格したため医師の道を選びました。卒業後、東京大学医学部の小児科で半年間学びました。入院している子どもたちは意識のない重度の患者さんばかりで、3交代制の寝ずの番で、床に模造紙を敷いて寝たりしましたね。その時の経験が、今の診療に生きています。立川相互病院の小児科・内科にいたときに東京大学医学部附属病院の精神科の先生に声をかけられ、同院に入局し、精神科医として歩むことになりました。それ以降は国立病院や民間病院の精神科で診療を続け、今日に至っています。
今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。

当院はお子さんからお年寄りまで、どなたでも気軽に立ち寄れる駅前のクリニックという存在でありたいと思っています。誰かと話がしたいから、という理由で来ていただいても大丈夫です。精神科、心療内科というと入るのに勇気がいるかと思いますが、そのハードルを下げていきたいですね。弱っていると感じたら、自分で何とかしようとせずに、他人の力を借りてほしいです。患者さんのことは、スタッフと連携し、クリニック全体でしっかりと受け止めます。また、当院の下である地階には、子どもが放課後に集えるようにクラブを開設予定です。当院とクラブ、3階の就労継続支援事業所と併せ、このビル全体ですべての年代の人を診られる場所にしていきます。小さなことでも不安があれば、気軽に立ち寄ってくださいね。