谷 もも 院長の独自取材記事
たに内科・脳神経内科クリニック 本千葉
(千葉市中央区/本千葉駅)
最終更新日:2025/11/06
本千葉駅から徒歩4分の住宅街に立つ「たに内科・脳神経内科クリニック 本千葉」。谷もも院長は順天堂大学附属順天堂医院でパーキンソン病を専門に研鑽を積み、その後療養型病院で認知症診療にも携わってきた脳神経内科の専門家だ。父親を病気で亡くした際に、早期発見できなかったことを後悔し、その経験が「もっと早い段階で病気を発見したい」という開業への原動力となったという。白とダークブラウンを基調とした落ち着いた院内。そこには患者への細かな配慮が隅々まで行き届いている。「どんな患者も幅広く診ていきたい」と語る谷院長に、開業への思いや診療にかける情熱について聞いた。
(取材日2025年10月6日)
父の死が教えてくれた早期発見の大切さ
開業に至った経緯を教えてください。

実は、2023年の1月に父を病気で亡くしました。父は病院が嫌いで、検査もしたがらない人でした。遠方に住んでいた父の食欲が減ったと聞いて、自分の勤務先の病院でCTを撮影したところすでに手遅れの状態でした。亡くなったのは、病気に気づいてからわずか3ヵ月後。もっと早く向き合ってあげれば良かった、もっとちゃんと話を聞けば良かったと後悔ばかりが押し寄せました。それまで療養型病院で働いていて、毎日お看取りをしているような環境にあったのですが、父の死後はお看取りができなくなってしまって……。父の死を目の当たりにして、もっと病気を早い段階で診ていかなければいけない、病気を早期に発見してあげたい。そんな思いが芽生えて、急ではありましたがクリニックの開業を決意しました。大学病院や大きな病院だとどうしても敷居が高くなりがちなので、もっと気軽に相談できて、そして専門的に診察できる場所を作りたいと思ったのです。
脳神経内科を専門にされたきっかけは?
出身校の順天堂大学はパーキンソン病研究で知られているのですが、学生時代にパーキンソン病の大家である水野美邦教授の講義を受けて衝撃を受けたんです。その講義から、脳神経内科は脳をシステマティックに分析する科だと感じ、すごく惹かれました。実は医学部に入る時は精神科志望だったのですが、脳神経内科の存在を知って方向転換。大学院にも進み、そこではパーキンソン病を専門にしていました。その後、子育てとの両立ができるよう療養型病院に移った際、物忘れの外来を任せてもらい認知症診療も始めました。ちょうど世間的にも、パーキンソン病と認知症が合併した「レビー小体型認知症」が知られ始めた時期で、非常に興味を持って取り組むことができましたね。
クリニックの設計にこだわりがあるそうですね。

そうなんです。隅から隅までこだわっているんですよ。院内は白とダークブラウンを基調に落ち着いた雰囲気にし、受付の天井は高くして広々とした印象をつくりました。そして特にこだわったのは動線です。認知症の診察では、患者さん本人の前では認知症の症状について言いづらいこともあるので、患者さんとご家族を分けて話を聞く場合があります。ご家族とお話しする際は、患者さんには後ろの扉から身長と体重測定に行ける動線にして、自然な流れでご家族だけと話せる環境をつくりました。前の職場で「こうできたらいいな」と思っていたことを、ここで実現させています。
専門性を生かした幅広い診療の実践
特に力を入れている診療について教えてください。

パーキンソン病と認知症の二つが診療の大きな軸です。ただ、開業してみると片頭痛の患者さんが予想以上に多いことに気づきました。特に女性の片頭痛で、私と同世代の方が本当に多く来られています。実は私自身も頭痛持ちなので、そのつらさがよくわかるんです。開業前には後輩のクリニックで1年間経験を積み、そこでも頭痛の患者さんを多く診てきました。当院では、CGRP抗体製剤という片頭痛の発作頻度の抑制を図るための注射も積極的に取り入れています。
こちらでは、フットケアも行っているそうですね。
はい。フットケアを導入したきっかけは、これまでの病院勤務の中で気づきがあったからなんです。神経疾患で歩けない方をよく見てみると、爪に問題がある方が意外に多くて。肥厚爪といって爪が分厚くなっていたり、巻き爪だったり、爪の障害が原因で歩けなくなっていることに気づきました。高齢になると目が見えづらく、自分で爪切りも難しいことがあります。ただ、爪が分厚くなっているとご家族も怖くて切れなかったり、爪切りで挟めないほど硬くなったりすることもあります。以前の病院でフットケアを専門に学んできた看護師に出会い、その方から重要性を教わりました。今はその看護師が一緒に働いてくれています。グラインダーを使用して丁寧に爪を薄く整えていきます。そうすることで、歩行の改善も期待できます。開業したら絶対にやろうと決めていました。
診療にあたって大切にしていることは何ですか?

患者さんと同じ目線に立つこと、目を見てお話を聞くことです。クリニックに来られるのは、つらい思いを抱えて来院される方ばかりなので、その思いを受け止めて、何を求めているのかをしっかり聞きます。出身校の順天堂大学には「名医たらずとも良医たれ」という言葉があります。学生時代から患者さんと向き合い、話を聞くことの大切さを教わってきました。脳神経内科は目に見えない症状が多い。だからこそ、お話を聞いて何に困っているのか理解することが重要なんです。そして「困った時が来院のタイミング」だと思っています。ただ、逆に気にしすぎも良くありません。不安が病気をつくり出すこともありますから、普段は心配しすぎないことも大事ですね。
認知症患者と家族に寄り添う診療
認知症患者さんのご家族へのアドバイスなどはありますか?

どうか優しく接していただきたいです。認知症の方は同じ話を繰り返してしまいますが、そんな時に「もう言ったじゃない!」とイライラして言ってしまうと、認知症の人には「怒られた」という負の感情だけが残ってしまいます。内容は忘れても、表情や感情は記憶に残るんです。ニコニコと優しく接する、それだけで落ち着きます。そうすると、鏡のように相手も穏やかな表情になりますよ。強く言うと攻撃されていると感じてしまうので、内容より口調や言い方に注意をしていただけると良いなと思います。でも、それが難しい時もあると思いますので、日常的に困ったらぜひ抱え込まずに来てくださいね。ご本人が抵抗する場合は「健康診断に行こう」という感じで連れ出してあげてください。
今後の展望について教えてください。
まだ開業したばかりなので、まずは、今ある思いを実現させるために安定した診療を続けることが目標です。知らない土地での開業でしたが、早速近所の方々がたくさん来てくださっていて感謝しています。これから徐々に、やりたいことが出てくるかもしれません。でも焦らず、一歩ずつ階段を上っていこうと思っています。認知症の患者さんは今後も増えていくでしょう。介護されているご家族の大変さもよくわかります。介護をする側のサポートも必要なので、ケアマネジャーさんとも連携して、社会的資源を利用するアドバイスもしていきます。何かお困り事があればぜひ頼ってください。ここに当院があって良かったと言っていただけるように、これからこの地域を大切にしていきたいと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

脳神経内科はマイナーで聞き慣れない科かもしれません。でも実は日常生活で困る症状を多く扱う科なんです。しびれ、震え、めまい。そんな時に脳神経内科があることを思い出してほしい。脳外科や精神科と間違えられることも多いんですが、何でも相談できる科でもあります。ぜひ気軽に来てください。もし別の分野なら適切な医療機関をご紹介します。私は、ちょっとのことでも解決できたらうれしいですし、些細なことでも力になりたいと思っていますので、困った時は遠慮なく来てくださいね。

