小島 英雄 院長の独自取材記事
HEROsファミリークリニック
(富士見市/鶴瀬駅)
最終更新日:2025/08/13

埼玉医科大学総合医療センターの小児集中治療室(PICU)で小児救急を中心に活躍する一方、体操教室の先生としても子どもたちとふれあってきた小島英雄院長。優しい笑顔と朗らかな人柄で、医師というより「お兄ちゃん」のような親しみのある印象を受ける。柔道をしていた経験や体操の先生になりたいという夢もあり、小児科に体操教室を併設した「HEROsファミリークリニック」を開業。「子どもと家族のもうひとつの居場所を作りたい」という理念のもと、運動をベースにした小児リハビリテーションなどの取り組みを展開している。その取り組みの詳細や同院で受けられる診療、患者に対する思いなどについて、存分に語ってもらった。
(取材日2025年6月25日)
体操指導の経験も生かして開業した独自のクリニック
先生のご経歴や、開業に至った経緯を教えてください。

開業前は、新生児集中治療室(NICU)、小児集中治療室(PICU)、小児循環器科、小児麻酔科など小児科全般で研鑽を積んできました。ですが実は、もともと体操教室を作りたいという思いがあったんです。柔道をずっとやっていて体操が好きだったので、体操の先生になろうかと考えていました。好きが高じて、勤務医として働いていた頃に、ふじみ野市の地域複合型スポーツクラブで土日を使って2年間体操教室の先生をやっていたこともあるんですよ。その後、せっかくなら小児科クリニックと体操教室を両方やってしまおう、と。加えて、体操の延長でリハビリも大事だと思い、困っている子たちが利用できる場所を作ろうと考えました。結果的に小児科クリニック、小児リハビリ、体操教室という組み合わせで開業することにしたんです。当院は小さな子はもちろん大学生くらいまでは診療していますし、付き添いの保護者を一緒に診ることも可能ですよ。
理念について詳しく聞かせてください。
「子どもと家族のもうひとつの居場所を作りたい」というのが、クリニックを作る上での理念です。最近は家だけで解決できないことが多く、近所の人やおじいちゃんおばあちゃんとの関わりも昔ほどありません。そんな中で「雨宿りできる場所」のような感覚で、困っていたら来られる場所を作りたかったんです。体操教室を併設したのも、病気の子や障害がある人だけでなく、誰でも来られる場所にしたかったからです。障害がある子もない子も、温かい社会を想像できる人になってほしい。作り上げる創造と、イメージする想像、両方の意味を込めています。熱がある、風邪をひいているなど病気でなくても、いつでも「遊びに来たよ」と気軽に来られる場所にしたいんです。
「HEROs」という名前にはどんな思いが込められていますか?

最初は、子どもたちが将来、運動でも人助けでも社会的に活躍するヒーローになってほしいという思いでHEROsにしました。ただ、もともとは体操教室だけをやるつもりでいたところに小児科も開業することにして、その準備を進める中でだんだん「ヒーロー」のイメージが変わってきて。例えば、ハンデがあってもこの社会で生きていくんだと頑張っている人や、そうした頑張る人に当たり前に寄り添える人だってヒーローだな、と。特に病院にはそうしたヒーローがたくさんいます。よくあるイメージではなく、今頑張っている子たちもヒーローの卵なんだと思ったんです。こうした気持ちの変化もあって、ヒーローたちの土台を作る場所にしたいという思いをクリニック名に込めています。
運動を土台にした小児リハビリ
小児リハビリはどのような方が対象になりますか?

神経発達症(発達障害)の子がメインですが、脳性麻痺、先天性の筋疾患、ダウン症などの子も来ています。ただ、重く考えずに何か困り事があれば、それをいい方向に持っていくためのリハビリをする、という内容です。発達性協調運動症(発達性協調運動障害)で動きが不器用になっている子、手先が不器用でお箸が持てない子、読み書きや数字が苦手な子、コミュニケーションで困っている子など、幅広く対応しています。小児リハビリの経験が豊富なスタッフが担当していて、困っている子が社会で生きやすくするためにはどうしたらいいか、一緒に考えていくような感覚ですね。
小児リハビリの特徴を教えてください。
強みはやはり運動面です。運動は必ずやりましょう、運動が土台になりますよといつも話しています。例えば発達障害の子は、ボールを投げる時に全身が固まって腕だけになったり、走る時に手と足がぎこちなくなったりと、2つの滑らかな動きができない子が多いです。そこで、協調運動や感覚統合を重視し、バランスを取りながらボールを投げるなど、何かをしながら別のことをやる練習をします。例えばリハビリ室にあるボルダリングも、足でバランスを取りながら目で見て手を伸ばすという複雑な動きで、遊び感覚でやっていても医療的な意味がちゃんとあるんです。あとは、ビジョントレーニングといって、例えば赤いボールなら避けるなど、目で見たものを瞬時に理解し体でアウトプットするトレーニング方法を取り入れることもあります。
「できないをやりたいに変える」というコンセプトについてお聞かせください。

小児リハビリのコンセプトは「できないをやりたいに変える」です。「子どもができないからやらない」のではなく、「できないけどやってみる」「できるようになったからもっとやりたい」という気持ちにしたい。全部を完璧にできるようにするのではなくて、少しでもチャレンジしてやりたいなと思ってもらえるような空間をめざしています。当院にはリハビリ室に入った瞬間にボルダリングがあって、遊具のような感覚統合器具、ボールプールや鉄棒なんかもあります。広い空間で子どもが遊んでいるかのように取り組む様子が見えて、保護者の大人にも理解してもらいやすいでしょう。付き添いの保護者にも家でできることを伝えたり、スタッフが親子の接し方もアドバイスしたりもしています。子ども専門だからこそ、楽しい場所にしようと思っています。
多方面から子どもと家族をサポート
運動は子どもの発達にも大切ですよね。

そうですね。運動が土台になると言いましたが、そもそも集団行動が苦手な子たちは、一般の体操教室に行けないことも少なくありません。はじかれてしまったり、親が気を使ってやめてしまったり……。でも例えば一般の体操教室で10回やってできなかったことも、当院の小児リハビリであれば根気よく診てあげられるでしょう。2階に体操教室を併設しているのも、当院をそういった悩みがある子でも来やすくて、「ちょっとチャレンジする」くらいの感覚で、集団生活や社会性を身につける場所にできたらという思いもあります。当院の小児リハビリに通う子が体操教室も利用する場合は、リハビリの延長として体操教室にも情報を共有し、連携を図ることでその子の運動能力や情緒面の特徴を把握しながらサポートしています。「運動が苦手な子こそ集まれ!」と伝えたいですね。
今後の展望を教えてください。
現在、体操教室を中心に実施している施設で今後は実験やお絵かき、創作、教育、食育など、多方面から子どもと家族の発想力が広がるような場所をつくれるよう準備を進めています。例えば白い服を着て手形をつけたり、巨大スライムを作ったり、家でやっちゃ駄目なことができたら、ご家族みんなが楽しめるのではないかと思っています。医療だけでなく子どもたちが遊び感覚で当院に来てもらえるような楽しい空間をめざしています。
地域の方々へメッセージをお願いします。

とにかく子どもとその家族がいつでも来られるような場所にしたいです。熱や風邪でなくても、いつでも「遊びに来ました」と来られる場所に。クリニックや医師だからと身構えずに、気軽に来やすい場所にしたいんです。もちろん、医師としては責任持って治療しますし、小児救急の医師として、何かあったときの急変対応は自信を持って行います。子どもも一人の人として扱い、子どもに直接話しかけることを心がけています。「ちょっとでも困り事があったらすぐ来てね」と最後に必ず言うようにし、親御さんが迷わないよう気軽に来られる「子どもと家族のもうひとつの居場所」でありたいと思っています。