渡邊 俊貴 院長、喜来 慎平 さんの独自取材記事
ひがしなり万葉在宅診療所
(大阪市東成区/緑橋駅)
最終更新日:2025/07/11

緑橋駅から徒歩15分、東成郵便局の北に位置するビルの2階に「ひがしなり万葉在宅診療所」がある。2025年6月に開業したばかりの同院には、優しい色合いの木材を用いた内装、開放感のある天井など、至る所に渡邊俊貴(としたか)院長のこだわりが光る。心臓血管外科医の豊富な経験を生かしながら、訪問診療医として活躍する渡邊院長。「家で暮らしたい患者さんを支えたい」という思いが強く、同院にはそんな思いに賛同した専門性豊かなスタッフが集う。看護師の喜来慎平さんもその一人で、院長の理念である「患者さんの想いを大切にし、心に寄り添う医療」に日々貢献している。外科の知見を生かした訪問診療へのこだわりや同院がめざす「専門的な在宅医療」などについて、渡邊院長と喜来さんに話を聞いた。
(取材日2025年6月18日)
外科の知見を生かした訪問診療で多くの患者を支えたい
まずは、これまでの経緯と開業した背景を教えてください。

【渡邊院長】もともと心臓血管外科医として10年ほど従事していましたが、お世話になった先生からの紹介を機に訪問診療の世界に入りました。訪問診療は外科とはまったく勝手が違うので、最初はかなり戸惑いましたね。しかし、施設での訪問診療を行う「クローバークリニック」で働くうちに、内科医とは異なる空気感で患者さんに医療を提供できることに気づきました。そこで初めて「外科目線の訪問診療の必要性」を強く感じるようになったんです。外科の知見を生かした訪問診療は数が少ないからこそ、患者さんのためになるし、やる意味がある。そう思い、「中村クリニック」で1年間緩和ケアを学びました。開業するためには緩和ケアや終末期医療の経験が必要だと考えたからです。
開業場所を選んだ理由について教えてください。
【渡邊院長】北海道出身の私が関西で働くようになったのは、大阪出身である妻の帰郷がきっかけです。実は私の祖母も関西に住んでいて、小さい頃から大阪にはよく遊びに来ていたため、縁を感じますね。訪問診療での急な呼び出しに対応できるかを考慮しながら場所を探し、ご縁があってこの場所を知りました。何よりビルのオーナーさんが開院にとても協力的な方で、「ここしかない」と即決しました。クリニックの周りには小学校や介護施設など暮らしを支える環境が充実し、地域の皆さんもとても親切です。人口自体が多いため訪問診療の需要もある。「ひがしなり万葉在宅診療所」が地域に必要とされるはずだと感じたことも、大きな決め手になりました。
渡邊院長との出会いや今回ともに働くことになったきっかけを教えてください。

【喜来さん】「明石医療センター」という急性期病院で渡邊院長と出会いました。その頃の渡邊院長は外科医でしたが、看護師の私の質問に対しても手術の合間を縫って真摯に対応していただき、「なんてすてきな先生なんだろう」と非常に印象的でした。だからこそ、今回渡邊院長が開業すると知って、「ぜひ一緒に働かせてください」とお話をしました。もともと患者さんと関わる機会の多い病棟勤務が好きだったこともあり、とても良い機会だと感じたんです。訪問診療に携わるために精神科訪問看護に1年間従事し、訪問看護の経験も積みました。当院では渡邊院長をサポートしながら、看護師としてのさまざまな経験を患者さんのために生かしたいと考えています。
医師と看護師が力を合わせて患者を支える
内装にもとてもこだわったそうですね。

【渡邊院長】はい。働くスタッフ、訪れる患者さんみんなが気持ち良く過ごせる空間になるようこだわりました。当院では「患者さんの想いを大切にし、心に寄り添う医療」を大切にしているので、親しみやすく温かい雰囲気にするために優しい色合いを選んでいます。また、当院のロゴにもこだわりが詰まっています。手が包んでいるハートの色は、葉っぱの一生を表現しており、「若い人からお年寄りまで、さまざまな方にご利用いただきたい」という願いを込めました。MとYでクリニック名である「万葉」を表現する遊び心も加えたことで、より親しみやすくなり、とても気に入っていますね。ちなみに、このロゴのハートを手にしている人物は私なんですよ。このモチーフのように安心感を与えられる存在になりたいと思っています。
診療において大切にされている考えは何でしょうか。
【渡邊院長】当院の理念は「家で暮らしたい患者さんを支えたい」ということ。ただし「何が何でも在宅医療を行う」という考えではなく、「医学的客観性」を持って診療にあたることが重要だと考えています。例えば、訪問在宅診療では医療資源が限られており、「検査が難しいため判断材料に欠ける」という声をよく聞きます。しかし、設備さえ整えれば自宅でも必要な検査ができますので、必要性を考えて適正な検査を行い、医学的客観性を持って診療することは難しいことではありません。その中で患者さんに必要だと判断すれば、当院が連携している大きな病院を紹介することもあります。それが結果的に、家で暮らしたいと願う患者さんを支えることにつながるからです。
看護師として、どのような点を大切にしていますか。

【喜来さん】実は、渡邊院長のポリシーでもある当院の理念が私のやりたいことなんです。家で暮らしたい患者さんを支えられるように、看護師としてできることはすべてやりたいと思っています。気づいたことは積極的に行って、患者さんの不安や痛みをできる限り和らげてあげたい。快適に医療を受けてもらえるようにするのが、私の使命だと考えています。訪問看護での勤務経験もありますが、訪問診療には医師がいることが大きな強みです。医師と看護師が一体となって患者さんを支えることで、患者さんの心に寄り添う医療を実現したいですね。
「共感」は目的ではなく、患者の心を開くためのツール
クリニックの特徴についてお聞きします。

【渡邊院長】当院は在宅医療における専門性を高め、より高度な医療を自宅でも提供できるようにしたいと考えています。訪問在宅診療での検査に限らず、専門的かつ多角的な診療を実現させるために、さまざまな工夫を行っています。例えば、当院には専門性を持ったスタッフが多く在籍しています。私は腹膜透析について専門的な知識があり、栄養指導を行う管理栄養士も在籍しています。また、訪問診療では眼科にもニーズがあるため、妻が眼科の医師ということもあり当院のスタッフとして参加してもらいました。小児在宅医療にも対応可能で、将来的には歯科医師と連携し、訪問歯科診療にも手を広げたいと考えています。さらに、喜来さんは精神科訪問看護の経験もありますので、患者さんだけではなく、患者さんのご家族のケアにもつながる体制を整えているのが当院の特徴の一つです。
患者さんとのコミュニケーションで大事にしていることは何ですか?
【渡邊院長】何よりも「よく聞く」ことですね。よく聞くことには共感も含まれていますが、私は共感をツールだと思っているんですよ。対話の中で聞きたいことは、患者さんの本音です。共感することで患者さんが心を開いてくれるので、本音や本当に困っていることを聞き出せるようになる。価値観や考え方を知ることは、患者さんが望む生活を支援するには必要不可欠なことだと考えています。
【喜来さん】渡邊院長は患者さんの話をさえぎらず、最後までしっかり聞いた上で自分の考えを話してくださるんですよ。訪問診療という限られた時間の中でも、患者さんの心に寄り添う姿勢をいつも尊敬しています。その姿勢は私のようなスタッフに対しても変わりません。私も渡邊院長のようでありたいと思い、患者さんの話を「よく聞く」ことを徹底していますね。
今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。

【渡邊院長】訪問診療の課題として「各方面との連携不足」が挙げられますが、私たちは横のつながりを大事にしたいと考えています。それぞれの訪問診療施設がうまく連携できるようになれば、より多くの患者さんの在宅医療を支えることができます。今後は各方面との連携を強化するなど、在宅医療を地域全体で充実させていきたいですね。医療に関して真摯に誠実に取り組んでいきますので、困ったことがあれば何でもお気軽にご相談ください。
【喜来さん】地域一丸となって患者さんを支えていきたい思いは私も同じです。渡邊院長の理想のクリニックにできるように、看護師として一意専心サポートします。患者さんに心を開いてもらえるような関係を築けるとうれしいです。私の長所である優しさを武器に精いっぱい頑張りますので、当院をよろしくお願いします。