山川 達也 理事長、榎本 孝也 院長の独自取材記事
みそら訪問クリニック茨木
(茨木市/南茨木駅)
最終更新日:2025/08/13

住み慣れた自宅での療養を願う患者やその家族に対して、在宅医療を提供している「みそら訪問クリニック茨木」。法人内の多数の医師が連携し、さまざまな疾患に対応する総合内科的アプローチや、在宅での輸血や腹水ろ過濃縮などの専門的な医療を提供。また地域医療との緊密な連携を重視し、患者とその家族に迅速かつ適切なサービスの提供をめざす。今回は理事長の山川達也先生と、院長である榎本孝也先生に、クリニック設立の背景や、診療方針、大切にしていることなどを聞いた。
(取材日2025年7月29日)
在宅医療を利用した経験から訪問診療の道へ
クリニック設立の背景について教えてください。

【山川理事長】きっかけは家族の病気です。私が医師2年目の時に、皮膚筋炎に伴う間質性肺炎を患い、発病後3年目には寝たきりの状態になってしまいました。私は4人きょうだいですが、すでにみんなバラバラの場所でそれぞれ仕事をしていたものですから、誰が介護するかという問題に直面したんです。医師としての道を諦めなきゃいけないのかなという思いもよぎりましたね。そんな中、サービスつき高齢者住宅でお世話になることが決まりました。その時に、在宅医療の先生や訪問看護、訪問介護のスタッフさんが、自分たちの代わりにすべてサポートしてくれました。家族はすでに亡くなりましたが、その経験からお世話になった先生や看護師への感謝が大きく、自然と訪問診療の道を選んでいましたね。
開業までの背景は?
【山川理事長】私は消化器外科の医師として約10年邁進してきました。若手のうちから多くの手術を経験できたことは、自分自身の財産になっています。しかし、オペをしても再発する人が多く、また外来では1人に3、4分程度の時間しかかけることができず、患者さん一人ひとりに寄り添うことができない状況に申し訳ないという気持ちがありました。そして今から3年前、両親のお墓参りに行った時、「独立しよう」と決めました。外科の先生にはいろいろとご迷惑をおかけしましたが中途退職してこちらに戻り、開業の準備を進めました。本当に一人からのスタートでしたね。
クリニックの理念を教えてください。
【山川理事長】「利他の精神を胸に、慈愛・安心・希望の医療を届け続ける」ことです。「届け続ける」というところがポイントで、一時的じゃなく永続可能なスタイルで、誰しもが不幸じゃない、疲弊を感じない、永続可能な体制をつくることを大事にしています。利他というのは、患者さん、ご家族、地域の急性期病院や患者さんを支える地域の関係者を含んでいて、「三方良し」となる状態を継続していきたいと思います。
榎本院長のご経歴と、訪問診療の道に進まれた理由を教えてください。

【榎本院長】私は東京出身で、子どもの頃に手術をした経験から医師を志すようになりました。信州大学を出た後、臨床研修を春日部市立医療センターで行い、その後日本大学病院の医局に所属。麻酔科の医師として経験を積んできました。麻酔科は、術中の全身管理というかなり繊細で専門的なことをやっている自負があります。やりがいを感じる一方で、訪問診療は未来がある分野だなと感じるように。特に、このクリニックは、訪問クリニックの中でも新しいことに挑戦している印象を受けました。訪問診療はこういうものという枠にとらわれず、患者さんのためにということを大前提に、「こんなことができるんじゃないか」という提案を否定せずに「やってみよう」という姿勢に共感し、ここで一緒に頑張っていきたいと考えたんです。
断らない姿勢で子どもから高齢者まで幅広い症例に対応
地域におけるこちらの役割はなんでしょうか?

【山川理事長】まずは「インフラ」の一つになることです。例えば、認知症を患っている方が大きなケガをした場合、ご家族は救急搬送を断られるかもしれないと不安になるでしょう。そんなときも、私たちが力になりたい。あとは私たちの役割としては「地域医療」があります。そもそも在宅医療とは、障害がある、疾病がある、患者さんがどんな状態であれ、住み慣れた場所で過ごせるように支えること。多職種で連携して支えることになるため、訪問看護ステーション、薬局、ヘルパーステーション、歯科医院など、さまざまな職種が関係してきます。患者さんを中心に連携の輪をつくるわけですが、われわれが職種間の空白を埋められる存在になれたらうれしいなと思います。
クリニックの方針や診療の特徴を教えてください。
【山川理事長】当たり前のことを当たり前に患者さんのために続けていくこと。それに加えて、われわれは在宅クリニックの中では結構いろんなことをやっていることも特徴かなと思っています。輸血も、赤血球、血小板の両方に対応していますし、腹水穿刺、腹水ろ過濃縮再静注法(CART)も在宅で対応しています。それはひとえに患者さんとご家族の通院の負担を減らしたい思いから取り組んできたものでして、在宅だからこれはできないと考えず、何かチャレンジできるんじゃないかなというのを常に追い求めているクリニックです。
【榎本院長】麻酔に関しては、基本的に手術室の中でやることと思われていますが、がんの疼痛のための硬膜外麻酔など、必要に応じて専門的な措置を行うことも可能です。
訪問診療を支える先生方について教えてください。

【山川理事長】時間や症状を理由にお断りすることは基本的にはありません。どんな困難な症例でも、しっかりと向き合えば解決すると信じています。輸血症例や人工呼吸器の管理が必要、また重度の障害があるなど、受け入れ先が見つからない場合や重症度の高い方にも対応しています。現在常勤の医師と、多数の非常勤の先生たちで訪問診療を行い、24時間365日、いつでも患者さんのもとへ駆けつけられるように体制を整えています。
患者や家族の気持ちを理解し寄り添ったサポートを行う
先生が患者さんやご家族と接する中で心がけていることは?
【山川理事長】患者さんやご家族に対して寄り添うことを心がけています。在宅移行する患者さんはもともと状態があまり良くないこともあり、それを自宅で24時間介護するご家族は大きな不安を抱えていらっしゃいます。そのために一件一件の時間は長めに取っています。患者さんやご家族の話を否定せずまずは受け入れること。受け入れてももちろん問題を解決できない時もあるんです。しかし寄り添うだけでも苦しみを減らせることがありますし、またご家族が疲れてきたら介護というものは成り立たないので、ご家族の様子も見て、気づける集団になっていきたいなと思っています。
【榎本院長】患者さんファーストです。患者さん本人やご家族の思いや希望にしっかりと耳を傾けること。私たちの意見ももちろん提案はしますが、自分たちの意見を押しつけないように診療の方針を決めていくことを心がけています。
今後の展望をお聞かせください。

【山川理事長】1つめは介護つき有料老人ホームの設立です。ご家族による介護が限界で、ご自宅では過ごせないという方々に対して、受け入れ先をつくりたいと思っています。2つめは、当クリニックの分院展開を進めていき、より多くの方々に在宅医療を提供していくこと。3つめは、当クリニックの社会的存在意義を継続していくことです。例えば私が引退しても、患者さんのために「みそら」が存続して、100年以上続いていくようなクリニックになっていくのが私の夢です。加えて、2040年問題を見据え、在宅医療を通じて社会保障費の抑制を担うこともわれわれの役割の一つ。望まない入院を減らし、患者さんを在宅で診療することで、現役世代や未来の労働の生産者たちの負担を減らすことにつながると考えます。
読者へのメッセージをお願いします。

【山川理事長】家族の介護をしなくてはいけない現実に直面した時、夢を諦める人は出てほしくないなと思っています。当クリニックが医療と介護を肩代わりすることをやっていきたいですね。
【榎本院長】患者さんに安心してもらうためには、どうしてもフットワークは軽くなくてはいけないと思っています。困ったときにすぐ駆けつけることが、安心感につながると考えます。当クリニックができるのは、まず第一にそういった安心感を届けられること。何かを一人で抱え込むのではなく、一緒に話し合えるドクターがそろっていますので、ぜひご相談していただけたらと思います。