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大岡 美奈子 院長の独自取材記事

といろのこころクリニック

(大田区/矢口渡駅)

最終更新日:2025/08/20

大岡美奈子院長 といろのこころクリニック main

矢口渡駅から徒歩3分、壁画と手書き文字が温かく迎える「といろのこころクリニック」。大岡美奈子院長は武蔵野美術大学出身という異色の経歴を持つ。小説家の著書の表紙デザインを手がけた後、ある臨床心理士との出会いをきっかけに心理学、そして医学の道へ。「隠れている子を主役にしたい」との思いから、顔のないキャラクター「といろくん」をロゴに採用し、言葉にできない子どもたちの心に寄り添う診療を実践している。社会問題にもなりつつある子どもの心の問題に取り組む、大岡院長に話を聞いた。

(取材日2025年7月14日)

アートから医学の道へ。「隠れている子を主役に」

武蔵野美術大学から医学部へという異色の経歴をお持ちですが、どのような経緯だったのでしょうか?

大岡美奈子院長 といろのこころクリニック1

大学4年生の時に、ある小説家の方の著書の表紙を描かせていただいたんです。たまたまアルバイトをしていた書店で担当になり、その小説家の方が私のデザインを見てくださって単行本も任されることに。その時の本が、その小説家の方がある臨床心理士の方と対談する内容で、その時初めて臨床心理士という道があることや心理療法の存在に衝撃を受けました。そこからアートと心理療法を合わせたアプローチを学ぼうとニューヨークへ。でも病院で働くには医療知識が必要だと痛感し、日本でその土壌を作るには医学部が近道かもしれないと考えました。実は父が青森で内科医をしており、病棟の一室が私の部屋だったような環境で育ったので、医療は身近な存在でもありました。

「といろのこころクリニック」という名前やロゴに込められた思いを教えてください。

「十人十色の未来を彩るクリニック」という意味を込めました。ロゴの「といろくん」は私が作ったキャラクターで、北欧の有名小説の中に出てくるキャラクターをヒントに考えました。そのキャラクターはおばさんにいじめられて姿が見えなくなり、仲間と過ごすうちに少しずつ姿が見えるようになるんです。私は「隠れている子を主役にしたい」と思っているので、あえて顔のないワンピース姿にしました。ニコニコ笑顔のマークだと、困っている子が来るのに違和感があったので、そうはしたくなかったんです。でもネガティブにならないよう、プロペラをつけて飛んでいけるようにし、10色のカラーバリエーションで多様性を表現しています。

院内の内装にもこだわりが感じられますが、どのような工夫をされていますか?

大岡美奈子院長 といろのこころクリニック2

手作り感と温かさを大切にしました。クリニック名の文字は、武蔵野美術大学の先輩に書いていただき、診察室の表示もすべて手書きです。壁画は古い友人が直接描いてくれた、それぞれが冒険に出そうな十人十色の子どもたち。といろくんのぬいぐるみやアトリエの飾りは、ニットアーティストの方が制作してくださいました。床はカーペット敷きで裸足や靴下で歩ける仕様にし、おうちのような感覚で過ごせるようにしています。患者さんからも「スリッパを履かなくていいのが楽」と好評です。多くの人の力を借りて、子どもたちが安心できる空間を作りました。

児童精神科の社会問題と独自のアプローチ

児童精神科を取り巻く現状について、どのような課題を感じていらっしゃいますか?

大岡美奈子院長 といろのこころクリニック3

7月7日に久しぶりに初診予約を開放したところ、10時5分でなんと50人もの応募がありました。30分で閉じざるを得ない状況で、これは私だけでなく児童精神科全体の問題だと考えています。初診が空いたといううわさが立つとワッとそこに集まる。つまりそれだけ不登校や家で暴れてしまう子、発達障害かどうかの診断を求める親御さんなど、困っている方が本当に多いということです。学校では過剰適応でいい子なのに、家では物を投げたり悪態をついたりする子も多いんです。これはもう個人のクリニックだけで対応できる数ではなく、社会全体で考えなければならない問題だと痛感しています。

多職種連携による診療体制の特徴を教えてください。

当院では精神科医の私と小児科医の雨宮先生による2人体制で、子どもの心の専門医師として診療にあたっています。小児科と精神科の垣根が低いのは大きな特徴ですね。さらに公認心理師・臨床心理士や看護師とチームで支えています。心理発達検査も多種にわたって対応でき、通常3ヵ月から1年待ちが多い中、比較的早く受けられるよう体制を整えました。何より大切にしているのは、その家族の置かれている状況をリアルに把握すること。どこの小学校に通い、どんな地域に住んでいるのか、生活背景を知った上で診療することを心がけています。

アートを活用した診療アプローチについて詳しく聞かせてください。

大岡美奈子院長 といろのこころクリニック4

言葉でうまく表現できない子どもたちにこそ、絵やアートを介した関わりが生きると考えています。私のアートのバックグラウンドと心理学を合わせることで、言葉を使わない診療方法が可能になりました。絵画やゲームを使ったアプローチなど、その子に合った方法を選択します。箱庭療法も活用していますが、これも非言語的な表現方法の一つ。子どもたちは言葉にできない思いを、砂や人形を使って表現してくれます。大人になってから精神科に通う必要がないよう、子どものうちにアプローチできることが児童精神科の強みです。トラウマを抱えたまま大人になると、なかなか治療が難しくなりますから。

地域とともに作る新しい児童精神医療

診療において最も大切にされていることは何でしょうか?

大岡美奈子院長 といろのこころクリニック5

最終的には忘れてほしいんです。医療がいらないと思ってもらえるといいなと思っています。安心材料にはなりたいけれど、医療に頼りきってほしくはない。それは最終的には自立してほしいからです。初診時は連れられてきて、しぶしぶだったり緊張していたりする子も、最後には本人が自主性を持って通ってくれるように心がけています。10分という短い診療時間を通して、親御さんたちができるだけ普段の子育てに安心できるような時間にしたいですね。うそはつきたくないし、表面的な薄っぺらい表現で説明したくもない。心を扱う専門家として、言葉選びには細心の注意を払い、その子と家族にとって本当に必要なサポートを考えています。

社会問題となっている児童精神科の需要に対し、どのような解決策を考えていますか?

「同じような立場の人によるサポート」である「ピアサポート」こそが解決の鍵だと考えています。初診に殺到する皆さんは、実は同じ思いを共有できる仲間なんです。大田区で参加したペアレント・トレーニングで、親御さんが「内容より、同じ思いをしている人たちと話せたことで救われた」とおっしゃっていました。みんな大変なんだとわかることで、孤立感が和らぐ。だからアトリエをピアサポートの場として活用し、親の会やペアレント・トレーニングを開催したい。われ先にと競争するのではなく、患者さん同士が情報共有し、支え合える場を医療が提供する。そういう仕組みがクリニックの経営と循環するような形を作りたいんです。

今後の展望についてお聞かせください。

大岡美奈子院長 といろのこころクリニック6

アトリエを活用したピアサポートの仕組みを本格的に作っていきます。さらに地域の教育機関、学校、療育施設など、顔の見える関係を築いて連携を強化したい。時には学校へ出向いて先生と話すこともありますが、医療だけでなく地域全体で協力し合える体制が必要です。親御さんがこんなに児童精神科を探し回らなければならない世の中を、せめて大田区だけでも、私の手の届く範囲だけでも変えていきたい。安心して子育てができ、必要な時に必要なタイミングで医療を使っていただける。地域のコミュニティー全体で子どもたちを支える、そんな環境を実現させたいと思っています。

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