種田 将 院長の独自取材記事
かぞくの杜クリニック烏山
(世田谷区/千歳烏山駅)
最終更新日:2025/08/08

千歳烏山駅から徒歩3分、商店街のにぎわいから一本入った静かな路地。そこに2025年5月に開業した「かぞくの杜クリニック烏山」がある。種田将院長が掲げるのは「家族全体をサポートする診療」。児童精神科から大人の精神科への移行で患者が抱く「見捨てられたような気持ち」を解消すべく、10歳頃から大人まで一貫した治療を提供する。北里大学卒業後、杏林大学医学部附属杉並病院、都立松沢病院、吉祥寺病院で急性期から慢性期まで幅広い精神医療に携わってきた経験を生かし、患者一人ひとりに合わせた柔軟な対応を心がけている。種田院長に、開業への思いや診療方針について聞いた。
(取材日2025年7月8日)
家族全体を支える一貫した精神医療
クリニック名に込めた思いを教えてください。

当院の雰囲気や大切にしている想いが自然に伝わるように、わかりやすい感じにしたいと思って「かぞくの杜」と名づけました。対象年齢は10歳頃からにしているんですが、お子さんからその家族まで、皆さんこちらで対応できるようにという思いで考えました。本来はお子さんがかかって、親御さんが何か困り事がある場合は別の大人専用の所に行かなければならないことが多いです。でも当院では、お子さんを診ながら、その親御さんの診察やカウンセリング、さらにはその親御さんのご両親の対応もできるようにしています。家族みんなが一つの場所で安心して治療を受けられる、そんなクリニックをめざしています。
開業に至った経緯について教えてください。
北里大学を卒業後、杏林大学医学部附属杉並病院、都立松沢病院、そして吉祥寺病院で研鑽を積みました。特に吉祥寺病院では約5年間、精神科救急・急性期病院として、急性期から慢性期まで幅広い年齢層の患者さんの治療にあたりました。統合失調症やうつ病などさまざまな疾患を診てきた中で、中学卒業と同時に児童精神科を卒業し、大人の精神科に移らなければならない患者さんが、環境の変化に戸惑い、継続的な治療が難しくなる場面を何度も目にしてきました。思春期は心も体も大きく揺れる時期です。そのような成長の過程を、できるだけ同じ環境で、関係性を保ちながら見守っていけたら、患者さんも安心して治療に向き合えるのではないかと考えるようになりました。そんな想いをかたちにできるタイミングが訪れたことで、開業を決意しました。
なぜ烏山で開院されたのですか?

この地域には昭和医科大学附属烏山病院があったりと、もともと発達障害などを診ている医療機関がある地域なんです。そういった地域性もあって、お子さんから大人まで診るクリニックを開く分には、地域の方々にも受け入れてもらいやすいのかなと考えました。また、私の前職の病院との連携も取りやすく、近くのフリースクールなどとも協力関係を築けています。そういった外部機関からの紹介も来ますし、逆に支援で困った場合はこちらから紹介することもできる。地域全体で患者さんをサポートできる環境があったことが、この場所を選んだ大きな理由です。
個性に合わせた柔軟な診療スタイル
患者さんとのコミュニケーションで心がけていることはありますか?

その方にとって無理のない関わり方を大切にしています。緊張されていたり、うまく言葉にできない方に対しては、初回から無理に聞き出そうとせず、まずは安心してもらえるような時間を意識しています。すぐに話せないことがあっても当然ですし、こちらから関係を急がないことで、少しずつ心を開いてもらえることも多いです。逆に、たくさんお話ししてくださる方には、こちらもリラックスした雰囲気でお話しするなど、自然な会話の流れを大事にしています。年齢や話し方、その方の雰囲気に応じて、言葉の選び方や距離感も工夫しています。お子さんなら興味を持ちそうな話題を少し挟んだり、物静かな方には必要以上に話しかけず、そっと見守るようなスタンスを取ることもあります。どんな方にとっても、「ここなら安心して話せる」と感じてもらえる関係性を築いていきたいと思っています。
どのような患者さんが多く来院されていますか?
児童の外来は、年齢層的には不登校のお子さんが中心ですね。10歳ぐらいから中学生くらいまでが多いです。お子さんだと八王子や川崎など少し遠い所から来る方もいます。最近は、お子さんの特性で困っているお母さんの診察やカウンセリングも増えてきています。また、社会人になってから自分の特性で苦労を感じている方も来院されます。家族相談として、本人は来ないけれど息子さんやお孫さんのことで困っているという相談も受けつけています。まさに家族全体をサポートするかたちになっています。
診療で特に工夫されている点はありますか?

「つらい」と感じたそのタイミングを大切にしたいという思いから、当日であっても空きがあればお越しいただけるようにしています。精神科は「予約が何ヵ月も先まで埋まっている」というイメージがあるかもしれませんが、受診しようと思って電話をかけてくださる時こそ、気持ちが不安定だったり、一番困っている瞬間だと思うんです。だからこそ、その気持ちを逃さないよう、できるだけ柔軟に対応するようにしています。また、お仕事や学校に通いながら治療を続けていけるよう、スケジュールの調整や必要な連携も大切にしています。会社とのやりとりのサポートをしたり、学校と連絡を取り合ったりと、患者さんの社会生活がなるべくスムーズに続けられるような形を一緒に考えていきます。再診の方にはオンライン診療も取り入れており、通院の負担を少しでも軽くできるようにしています。
多職種連携で実現する包括的サポート
他にどのような医師やスタッフが診療に携わっていますか?

当院には、私の他に発達障害や児童の心の問題を専門に診ている医師が在籍しています。長年、児童発達の分野で経験を積まれてきた先生で、発達に特性のあるお子さんや、不登校などで悩まれている方を中心に丁寧に対応してくださっています。また、臨床心理士や産業カウンセラーもおり、カウンセリングや心理検査なども行える体制を整えています。どのスタッフも「患者さんが今一番困っていることに向き合い、無理のない方法で一緒に考えていく」という姿勢を大切にしており、全員でその思いを共有しています。医師・心理士・カウンセラーが連携しながら、それぞれの専門性を生かしてサポートできるチーム体制を整えることで一人ひとりに合った、より丁寧で安心できる医療を提供できるよう心がけています。
今後の展望について教えてください。
基本的には今の方針を継続しながら、不登校や特性で困っているお子さんとそれに悩んで調子を崩されている家族、そして大人になってから自分の特性で苦労を感じている方々を、家族みんなでサポートできる体制をより一層充実させていきたいと思っています。クリニック内だけでなく、さまざまな支援機関との連携もより充実させていきたいですね。入院が必要な場合は紹介できる病院もありますし、逆に専門性がより必要な場合は近隣の専門クリニックに紹介することもできます。地域全体で患者さんを支えるネットワークの一員として、貢献していきたいと考えています。
読者へのメッセージをお願いします。

お子さんでもご家族の方でも、大人の方でも、「なんとなく気になる」「ちょっとモヤモヤする」といったことがあれば、どうぞ気軽にご相談ください。カウンセリングも行っていますので、通院を含めて不安なことをお話しいただくだけでも、少し気持ちが楽になることもあると思います。私たちは病院に来るというよりも「よりよく生きるためのサポートの一つ」として、気軽に頼っていただける場所でありたいと思っています。心理検査などにも対応していますし、ご本人がいらっしゃらなくてもご家族からのご相談も可能です。ちょっとしたことでも構いませんので、「こんなこと聞いてもいいのかな?」と思うようなこともどうぞ安心してお話しにいらしてください。