前川 二郎 院長の独自取材記事
目黒本町MJクリニック
(目黒区/西小山駅)
最終更新日:2025/07/02

目黒本町の住宅街にある「目黒本町MJクリニック」。2025年5月に開業した同院の院長は、前川二郎(まえがわ・じろう)先生。前川院長は11年間横浜市立大学形成外科学主任教授を務め、2022年に同大学を定年退職。在任中の功績が認められ同大学より名誉教授の称号を授与されたという輝かしい経歴の持ち主でありながら、前川院長自身は自然体で、取材にも丁寧に対応してくれた。前川院長の専門は形成外科で、中でもリンパ浮腫の治療法であるリンパ管静脈吻合術では豊富な経験を持つ。しかし、形成外科は一般の人にはまだなじみが薄い。形成外科とはどういった診療科か、どんなときに頼ればいいのか。形成外科界に長年貢献をしてきた前川院長に、形成外科でできること、同院で受けられる治療について詳しく聞いた。
(取材日2025年6月6日)
機能だけでなく生活の質を左右する見た目にもこだわる
開業されるときのお気持ちをお聞かせください。

自分の専門性がどのくらい地域の役に立てるか、チャレンジしてみたかったというところでしょうか。私は2022年に、横浜市立大学を定年退職しました。大学では教育・研究・診療とさまざまなことに携わり、国家プロジェクトにも関わった経験があります。主任教授として医学に邁進してきたのですが、65歳でこのまま医師として専門領域だけで終わるのはもったいないように思いました。そんな時、藤沢市保健医療センターで勤務する機会をいただき、3年ほど診療経験を積ませていただきました。形成外科以外の分野で、医療の基本のような経験ができたことが、開業という選択につながったと思います。また、この近辺に形成外科を専門的に診られる医院が少なかったことも開業理由の一つです。
一見お宅のような外観ですが、こちらの場所を選ばれた理由を教えてください。
実はこの場所は、私の両親が生活していた家なんです。実家といっても、私が家を出てから両親が引っ越してきた場所なので、私自身はここで生活したことはありません。98歳になる父が施設に移ったので、空き家となったここをクリニックに改装することにしました。当院は基本的に私と常勤、非常勤の看護師さんの3人体制ですが、少人数でもしっかりパフォーマンスを発揮できるよう、院内はコンパクトで機能的な造りになっています。例えば、診療チェアはそのままリクライニングして診療ベッドになり、手術を行うこともできますし、会計も可能な限りデジタル化できる機器を整えました。また、患者さんをお待たせしないためにも、診療は予約制にし、オンライン診療にも対応しています。スタッフと息を合わせないと円滑に回らないので、そうした動線も考えてクリニックづくりを行いました。
そもそもですが、形成外科とはどういった科で、どんなときにかかるべきか教えてください。

形成外科の役割は広範囲に及びますが、わかりやすいところでいうと、傷をなるべくきれいに治療したり、生活の質を改善するということです。例えばやけどや外傷による傷、顔面神経麻痺の後遺症の治療などがあります。外見というのは、患者さんの生活の質を左右する大切なもの。ですので、皮膚の腫瘍は皮膚科で、まぶたの治療は眼科でも可能なところを、より傷を目立ちにくくするため、あるいは見た目をきれいにするために皮膚科や眼科の先生からご紹介を受けることもあります。機能的に回復すればそれでいいじゃないかと言われればそれまでですが、外見にもこだわるのが、私たち形成外科医の役目だと思っています。近隣には保育園や幼稚園、小中学校もあるので、そういったお子さんのけがなども診ていきたいですね。
顕微鏡下によるリンパ浮腫・眼瞼下垂の日帰り手術も可
クリニックではどういった治療が受けられますか?

当院では顕微鏡を用いた精微な手術が可能です。主な疾患ではリンパ浮腫や眼瞼下垂などがあります。特にリンパ浮腫の治療は、大学で専門的に行ってきた分野の一つです。リンパ浮腫のリンパ管静脈吻合術という手術では、マイクロサージャリーと呼ばれる技術を用います。手元を顕微鏡によって数十倍に拡大し、0.3〜0.5ミリ以下の血管やリンパ管をつなぐものです。手術は局所麻酔で行うため、外来でも問題ありません。手術時間は1本のリンパ管をつなぐのに約1時間。単純につなぐ本数が多ければ多いほど、時間がかかります。患者さんの負担を考えると、1回にできる時間はせいぜい3時間ほどでしょう。傷口は2センチほどと小さく、あまり目立なくなっています。リンパ浮腫の外来手術に対応する所は多くないので、お困りの方はぜひご相談に来ていただきたいですね。
リンパ浮腫の治療を専門的に行うようになった理由はありますか?
もう30年以上前のことです。リンパ管静脈吻合術という手術で結果を出された上海の先生から手紙をもらい、勉強に行ったことがきっかけでした。その先生は、日本を訪れた際に私が行ったリンパ浮腫の動物実験のポスターを見て連絡をくださったそうです。当時リンパ管静脈吻合術はまだ日本では行われていなかった手術で、私はそれを学んで日本に持ち帰りました。上海に行く前からリンパ浮腫の治療には興味があり、難しい治療に対して自分なりの考察を持っていたので、それが一気に動いていったという感じです。現在もリンパ浮腫治療が専門の医療機関はわずかで、受診先に困っている患者さんも多くいらっしゃいます。当院では私の他、経験豊富な看護師もいますので、リンパ浮腫治療の中心となる保存療法も安心してお任せください。
眼瞼下垂の治療にも力を入れていらっしゃるそうですね。

はい。眼瞼下垂は、加齢によってまぶたの皮膚が下がり、視界が狭くなってしまう状態です。視界が狭くなって見えにくくなると、高齢者はつまずきやすくなり、転倒する危険性も高くなります。そこで、まぶたの皮膚を切り、上げやすくすることで機能回復をさせるのです。医学的には目の機能が回復すれば問題ないのですが、形成外科の医師としては見た目も重視しています。例えば、まぶたの二重の幅が1ミリでも違うととても違和感があるんです。そこを機能的な面との関係を見ながら慎重に手術を行うようにしています。
これまで培ってきた専門技術を患者に還元していきたい
先生は診療においてどういったことを大切にされていますか?

一番は患者さんの生活の質(QOL)を良くするということを念頭に置いています。それが形成外科の主眼とするところでもあるからです。最もわかりやすいのがリンパ浮腫でしょう。リンパ浮腫の患者さんはどこの病院にかかればいいかわからなかったり、治療が難しくて症状が改善しなかったりで、困っている方は結構多いのではないでしょうか。そうした患者さんに私が大学で培ってきた経験を還元できれば幸いです。他には、患者さんと接するときには自然体でいることを心がけていますね。私が医師として育った横浜市立大学附属病院はとても自由な風土で、医師だから教授だからといった立場を意識しないフラットな所でした。ですので、これからも医師としてというよりも、1人の人として患者さんに接していきたいと思っています。
これまでで、やりがいを感じたことを教えてください。
40年以上医師をしていますので、やりがいを感じたことは数えきれないほどあります。その中でも、再建手術を行った患者さんのことは忘れられないですね。形成外科では、乳がんで乳房を失った方の乳房再建手術や、咽頭がんなどで顔の一部が失われた方の頭頸部再建などを行います。また、小耳症といって、生まれつき耳が小さいお子さんの耳の再建も行いました。そうした患者さんがその後の人生を楽しまれている姿を見るのは、形成外科医の醍醐味でしょう。クリニックではそうした大きい再建手術はできませんが、術後の傷の経過を診るなどして、私の知見を生かせればと思います。
先生の今後の夢は何でしょうか?

まずはこのクリニックを10年続けることです。3年勤務した藤沢市保健医療センターで、健康でいるために必要なことをあらためて学んだので、その知識を実践し、健康を維持しながら診療していきたいです。実は食事に気をつけたことで、10キロ痩せたんですよ。こうしたことを自分がある種のモデルケースとなって、患者さんにも還元できればうれしいですね。それにしても、68歳からの開業なんて、聞いたことないですよね? まさにオールドルーキーです。私がどこまでできるか、周りも注目していると思うので、頑張って続けていきたいと思います。