秋田 玄武 院長の独自取材記事
仕事とこころのクリニック
(神戸市中央区/元町駅)
最終更新日:2025/05/28

元町駅から徒歩1分。買い物客でにぎわう元町・三宮の地に、2025年4月に開業した「仕事とこころのクリニック」。精神科と心療内科を標榜し、中でも働く人のメンタルヘルスに特化した診療を行っている。院長の秋田玄武(あきた・もとむ)先生は、一般企業に勤めた後に医師へと転身したという異色の経歴の持ち主。「会社員の経験があり、職場特有のストレスや悩みをリアルに理解できるからこそ、働く人に寄り添った診療に努めたいです」と、穏やかな口調で話す。診察は秋田院長が一貫して行い、患者一人ひとりと丁寧に向き合うことを大切にしているという。また、休職や復職のサポートもきめ細かに行い、働く人の「心の伴走者」であることをめざしている。そんな秋田院長に、開業までの歩みや診療に込めた思いについて話を聞いた。
(取材日2025年4月25日)
経験を生かし、働く人のメンタルヘルスを温かく支える
先生は一般企業に勤められた後に医師を志したそうですね。

私は東北大学薬学部に進学し、当時はがんの研究に情熱を注いでいました。研究そのものはやりがいがあり、修士課程まで進んだのですが、研究職は専門的である反面、どうしても狭い世界になると次第に感じるようになったんです。せっかくなら積み重ねてきた知識をもっと広い社会で生かしたという思いが芽生え、生命保険相互会社に総合職として就職しました。担当したのは保険金・給付金支払いを査定する仕事で、そこでは何人もの査定する医師たちが専門性を持って仕事に向き合っておられたんですね。私自身、一度は一般的な職業に就いたものの、医師たちの働き方を間近で見たことで、やはり私も専門性を生かした仕事がしたいという思いに駆られ、医学部の再受験を決めました。入社から3年目を迎える4月に退職の意向を伝え、翌年新たに医学生として再出発したんです。
数ある専門の中でも精神科に進まれたのはなぜですか?
当初、精神科は内科や小児科などと並ぶ選択肢の一つでしたが、医学部での臨床実習で精神科を経験した時、「自分のこれまでの歩みを生かせるのは、この分野なのでは」と感じたんです。というのも、病院で働く先生方は皆さん素晴らしい経歴と深い知識をお持ちでしたが、医療の世界にずっと身を置き、ある意味で順風満帆な人生を歩んでこられた方が多いので、一般の人々が抱える価値観や悩みとは少し距離があるように感じたんです。一方、私はさまざまに迷いながら、少し遠回りをして医師になった背景があり、会社員時代には心の健康を崩して苦しむ人たちも見てきましたし、自分自身も働く中で苦労を抱えた経験もあります。だからこそ、仕事と心の健康を両立させる難しさを、頭ではなく実感として理解しています。はじめから医療の世界で活動されてきた医師とはまた違った視点で、患者さんに向き合えるのではないかと思い、精神科医の道を選びました。
開業までの経緯やクリニック名に込めた思いについて教えてください。

研修医時代から将来的には働く人たちのメンタルヘルスに特化した医療を提供したいと考えていたので、一人ひとりの患者さんとじっくり向き合える環境として、自身のクリニックを持つことを一つの目標にしていました。そのため、大学卒業後は兵庫医科大学病院をはじめ、精神科単科病院や複数のメンタルクリニックで研鑽を積み、その間に日本専門医機構精神科専門医と精神保健指定医の資格を取得し、当院の開業に至りました。クリニック名に「仕事とこころの」と名づけたのも、今の時代は仕事の悩みをきっかけに精神的な不調を抱えている方が潜在的に多くいらっしゃるので、そうした方々にしっかりとアプローチしたいという思いからです。
初診から診療後のフォローまで秋田院長が一貫して対応
こちらにはどんな患者さんが来られていますか?

うつ病や適応障害、不安障害など、メンタルヘルスの不調でお仕事に支障を来して来院される方が多いですね。診療の際は、職場特有のストレスや悩みを理解しながら、働く人の立場に寄り添った対応を心がけています。当院は小規模なクリニックのため、診察はすべて私が担当し、患者さん一人ひとりとしっかり向き合うことを大切にしています。もちろん、複数の医師やスタッフが連携してサポートする体制も有用ですが、診察のたびに担当医が変わることに不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。当院では私がすべてを把握した上で治療方針を立て、継続して診ていくので、コミュニケーションの行き違いが起こりにくく、患者さんの小さな変化にも気づきやすいという強みがあります。こうした丁寧な診療を通じて、安心して通っていただけるよう努めています。
お一人で、診察だけでなくすべてに対応されているのですか?
はい。受付から診療、薬の処方、会計まで、基本的に私が対応しています。患者さんの中には多くのスタッフと接すること自体が負担になる方も少なくありませんので、余計なストレスをかけないよう、受付は二次元コードを読み込んでいただくシステムにし、会計も私自身が行っています。診察に関しても完全予約制にして診察時間も十分に確保していますので、「待ち時間が長い」「診察が数分で終わってしまう」といったこともありません。限られた時間をできるだけ有意義に、その患者さんのためだけにしっかりと使いたいという思いで診療にあたっています。
患者さんに寄り添った診療を心がけていらっしゃるのですね。

患者さんとは日常生活での困り事や休職中の過ごし方など、さまざまなお話をすることを大切にしています。それもあってか、「もっと早く来れば良かった」と言われることも少なくありません。患者さんの中には「この程度で受診しても良いのだろうか」と、最初は受診をためらわれる方も多いので、一歩踏み出して来院してくださった方が来て良かったと安心できる場所でありたいと思っています。その上で、一人ひとりに合った治療を一緒に考えながら、継続して支えていける関係性を大切にしたいですね。
受診しやすさを重視し、働く人たちの頼れる存在に
働く方が利用しやすいよう、さまざまな工夫をされていると伺っています。

元町駅からも近く、三宮センター街という三宮の中心地にあるビル内というアクセス至便な場所を選んだのも、できるだけ気軽に来院していただきたいという思いからです。また、市内の精神科・心療内科クリニックでは珍しく、土曜日だけなく日曜日も診療を行っていますので、仕事帰りや休日にもご利用いただけます。さらに「今日、受診できたら良いな」と思われた場合もウェブ予約なら当日予約も可能ですし、初診に限りオンライン診療にも対応していますので、来院が難しい方でも利用しやすくなっています。体調に不調を抱えている方はもちろんですが、ちょっとした心配事がある程度でも、カフェに立ち寄るような感覚で訪れていただけるとうれしいですね。
休職や復職のフォローアップにも力を入れているそうですね。
実際に休職される方は「診断書をどういうふうに出せば良いのか」「休職中は何をしたら良いのだろう」と、わからないことだらけだと思うんですね。けれど、診察をして診断書を出したら終わりといった病院も案外多いんですよ。私は現在も大手メーカーの企業内診療所で休職や復職のフォローアップに関わる非常勤医師として勤務しているので、企業内の総務担当の方ともお話しする機会が多いんです。そこで、企業の考え方なども理解した上で、診断書の出し方や上司への説明など、休職までの流れをアドバイスし、復職へ向けてのフォローアップにも努めています。働く人と企業、医療者がなるべくうまく合意が取れるように治療を進めていきたいと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

患者さんの中には「やっと信頼できる先生に巡り会えた」と、言ってくださる方もいます。その言葉を本当にうれしく思うのとともに、今後も働く人たちの悩みや不安に親身になって寄り添えるドクターでありたいと思います。心がけているのは、医師の理想論を一方的に押しつけるのではなく、患者さんと一緒に考えて最善の診療を進めること。一般企業で働いていたという経験も生かしながら、患者さん一人ひとりの背景に合わせたアプローチをしていきたいと思っています。「気になる不調がある」「悩みを聞いてもらいたい」といったどんな些細なことでも構いませんので、気軽にご相談ください。