亀島 啓太 院長の独自取材記事
かめしま在宅クリニック
(刈谷市/刈谷駅)
最終更新日:2025/06/24

2025年4月、刈谷駅からほど近いテナントビル内に開業した「かめしま在宅クリニック」は、拠点とする刈谷市をはじめ、隣接する市町を対象に訪問診療と緊急の往診を行っている。院長の亀島啓太先生は、内科と循環器内科を専門に扱う中で在宅医療の必要性を感じ、開業前に在宅診療所で経験を積んだ。患者の本音をくみ取り、介護・福祉を含めた多角的な視点からの在宅医療の提供に努めている。幼い頃から祖父母のことを思い、現在は自身の子どもと過ごす時間を大切にしている、家族思いな一面も。患者の家族のことも気にかけ、優しさにあふれる亀島院長に、開業のきっかけや在宅医療の内容、診療への思いについて語ってもらった。
(取材日2025年5月7日)
それぞれの症状にスポットライトを当て、最善を尽くす
刈谷市で開業された理由を教えてください。

この地域で在宅医療を行う医師から、刈谷市は在宅医療に対応している医師が少なく、近隣の市から医師が応援に駆けつけていると聞いていました。そこで、自宅で最期を迎えたい方や通院が困難な方の役に立ちたいと思い、刈谷市で開業することにしたのです。拠点に選んだテナントビルの近くには刈谷豊田総合病院があり、連携が取りやすいので助かっています。現在は、看護師が2人、事務スタッフが1人在籍し、患者さんの情報を随時共有しながら、素早く対応するように心がけています。看護師の1人は私が勤務していた在宅診療所の仲間で、もう1人は看護師として子育てしながら勤めてくれている妻です。事務スタッフは開業に際し、同じ在宅診療所で2ヵ月間、講習を受けてくれました。開業したばかりですが、スタッフとの連携は抜群です。
どのような患者さんが在宅医療の対象になるのでしょうか?
患者さん1人での通院が困難な方や自宅療養されている方、自宅での看取りを希望されている高齢者をはじめ、末期がんの緩和ケアが必要な方、若年層ではパーキンソン病の方や医療的なケアが必要な小児も対象となります。特に相談が多いのは高齢の患者さんです。通院が必要でも、ご家族の付き添いが難しいケースがあるため、訪問診療を行ってご家族の負担軽減につなげます。当院では、定期的な訪問診療と緊急時の往診を行っています。腹痛や発熱などの急な体調変化には、24時間365日対応可能です。在宅医療のご依頼は、患者さんやご家族から直接ご相談いただくこともできますが、まずはかかりつけ医に相談していただき、かかりつけ医から当院に紹介状を出していただく、もしくはソーシャルワーカーや介護福祉士などを通じてご依頼をいただくケースが多いですね。当院にお電話をいただければ、直接ご自宅に伺い、無料で在宅医療について説明します。
幅広い症状や相談に対応されているのですね。在宅医療ではどんな検査や処置が行われるのでしょうか?

近年、在宅医療の医療機器が発達し、基本的に外来診療とほぼ同じ検査・治療・処置が可能になりました。当院では、訪問先にポータブルの超音波検査機や血液ガス検査機などの医療機器を持参しています。特にこだわったのが、心臓の超音波検査機です。精密検査が可能な機器により、心臓の動きや心臓への負担を判断しています。在宅医療では痛みなどの症状を緩和するための対処療法が中心となりますが、それぞれの症状にスポットライトを当てて、適切に診療することが重要です。医療機器を活用しながら、症状や患者さんの希望を見極めています。
共感と寄り添いで、患者と家族に「安心」の提供を
ご専門は、内科と循環器内科だそうですね。これまでのご経験をお聞かせください。

大分大学医学部を卒業後、初期研修で救急医療に携わり、その後、岡崎市民病院と半田市立半田病院(現・知多半島総合医療センター)で内科と循環器内科の経験を積みました。勤務医時代は、1人の医師が年間1000人もの患者を担当する、まさに医療の前線を目の当たりにしました。その環境も良いなと思いましたが、もともと開業したいという思いがあったので、幅広い疾患を診る内科を選択し、その後、循環器内科も専門的に学んだのです。在宅医療では、内科全般と心不全や心筋梗塞などの心疾患の管理にも対応できますので、症状を問わず気軽にご相談いただければと思います。
在宅医療を始められたきっかけを教えてください。
循環器内科では治療をしても息苦しさのために入退院を繰り返す高齢の患者さんが多数いらっしゃいました。「入院したくない」「早く退院したい」という声を何度も聞いているうちに、再入院予防をする必要があると気づいたのです。在宅医療を取り入れれば、通院の負担を軽減しながら再入院を予防できるのではないかと考えました。心不全などの循環器の疾患は症状が流動的で、次に受診したときには一気に悪化していることも少なくありません。定期的な訪問診療で健康状態の把握と適切な対処をし、安定した状態を保って再入院の予防につなげたいと考えています。私の祖母も入退院を繰り返していましたので、「祖母の希望に沿った治療をしてあげたかった」との思いも、在宅医療の道に進んだきっかけの一つです。岡崎市にある在宅診療所で経験を積み、開業しました。
患者さんや患者さんのご家族と接する際に、大切にしていることは何でしょうか?

患者さんと患者さんのご家族の話を時間をかけて聞き、本音をくみ取った上で診療を行うことです。患者さんは自宅で過ごすことを希望されていても、ご家族は「入院してほしい」と考えていることもありますし、家族に迷惑をかけたくないとの思いから、患者さんが本音を言えないケースもあります。何回も話を聞く時間をつくり、「なぜそう思うのか」というところまで深堀りし、真意を見抜くようにしています。患者さんとご家族の本当の気持ちをくみ取り、希望する診療を提供するために必要なことを、医療・福祉・介護などさまざまな面から考える。それも在宅医療を行う医師の仕事です。通院の送迎が負担になっていないか、自宅での介護に疲弊していないかなど、患者さんのご家族のことも気にかけています。
医療・介護・福祉と患者を結ぶ、橋渡しの役割を担う
他の医療機関や介護・福祉の専門家との連携も欠かせないのですね。

実際に患者さんやご家族と接する機会が多いのは、訪問介護士や訪問看護師、社会福祉士など、介護・福祉の専門家です。医療だけでは、希望に沿った在宅医療は実現できません。例えば、自宅の中でも「どうしてもこの部屋で過ごしたい」という患者さんからの要望があれば、なぜその部屋が良いのかを聞いた上で、訪問介護士やケアマネジャーらと相談してベッドを動かしてもらったり、訪問介護のスタッフが対応できないときは、訪問看護師に来てもらえるようにお願いしたりしています。もちろん、介護・福祉の専門家から提案を受けて話し合いをすることもあります。医療・介護・福祉と患者さん、ご家族をつなぐ橋渡しをするのも、在宅医療を提供する上で必要なのです。
どのような時に在宅医療のやりがいを感じますか?
やはり感謝の言葉をいただいたときでしょうか。岡崎市の在宅診療所に勤務していた際、患者さんに開業を機に退職することを伝えたら、感謝の言葉をいただきましたが、同時に残念そうでした。「刈谷なら岡崎まで来られるよね。先生の都合が合う日だけでも良いから来て」とお願いされるほど、私のことを信頼してくださっていたのです。患者さんだけではなく、ご家族からも「ありがとう」の言葉をいただく機会が多く、やりがいにつながっています。私自身、祖父母が病気療養する姿を近くで見てきましたので、その当時の気持ちを思い出しながら患者さんやご家族の気持ちに共感し、寄り添えているのかなと感じています。
ご自身の経験を生かしながら診療されているのですね。最後に今後の展望と読者へメッセージをお願いします。

まずは、一件一件、一人ひとりに丁寧に対応していくこと。そこに尽きると思います。患者さんのかかりつけ医やそのほかの医療機関、さらに介護・福祉と連携しながら、患者さんとご家族にフィットした在宅医療とケアを提供していきたいと考えています。現在は、患者さんのかかりつけ医やソーシャルワーカーを通じて依頼されることがほとんどですが、患者さんやご家族から当院に直接相談していただいても構いません。内科と循環器内科での経験を生かし、幅広い症状に対応します。私の願いは、患者さんとご家族に「安心」して暮らしていただくこと。そのための方法を一緒に考え、各専門機関と連携して実現するのが、私がめざす在宅医療です。