鈴木 宏和 院長の独自取材記事
朝日町すずき耳鼻咽喉科
(豊田市/豊田市駅)
最終更新日:2025/07/04

豊田市朝日町の住宅地にある「朝日町すずき耳鼻咽喉科」は、2025年に開業した新しいクリニックだ。院長の鈴木宏和先生は、国立長寿医療研究センターで嗅覚障害や高齢者の補聴器診療に携わってきたその道のスペシャリスト。地域に嗅覚障害を扱う医療機関が少ない中で、同院ではその専門性を発揮するべく検査設備を整え、嗅覚味覚の外来や補聴器フィッティングの外来を設けた。近年は嗅覚障害と認知症の関わりも指摘されており、「地域の受け皿として、病気の早期発見にもつなげられたら」と意気込みを語る鈴木先生。丁寧に言葉を選ぶ姿からは実直な人柄がうかがえるが、その一方で、データを重視したロジカルな診療スタイルも印象的。そんな先生に、開業のきっかけや同院ならでは取り組みについて話を聞いた。
(取材日2025年6月13日)
嗅覚障害の専門家としての経験を地元に還元したい
まずはこの地域に開業された経緯をお聞かせください。

実家が近くにあり、なじみ深い場所だったことが一番の理由です。そろそろ地元に戻ろうと考えていたこともあり、開業にあたって朝日町に決めました。もともと国立長寿医療研究センターで主に高齢者の耳鼻咽喉科診療に携わっていたのですが、大きなやりがいを感じる一方で、さらに幅広い年代の方々も診たいという思いが強くなりました。そこでこれまで培った経験を、地元に還元できたらと考えました。この辺りは近くに大きな公園もあってファミリー層も多いので、かかりつけ医として地域に暮らす皆さんのお役に立てたらと思っています。
開業前はどのような経験を積まれてきたのでしょうか?
大学卒業後は一般的な耳鼻咽喉科疾患の臨床経験を積んだ後に、10年近く国立長寿医療研究センターで補聴器を扱った診療と嗅覚・味覚に関する診療に取り組んできました。特に嗅覚障害に関しては外来の立ち上げから関わらせてもらい、検査や治療体制を整えました。嗅覚障害を専門に扱う医療機関が中部圏に少ないこともあり、地域のニーズは高かったです。嗅覚障害があると傷んだ食べ物に気がつかなかったり、風味がわからなくて食事自体を楽しめなくなったりと、生活に支障を及ぼす可能性が高まります。にもかかわらず、嗅覚は五感の中で最も低下に気づきにくい感覚なので、見逃されやすいのも事実。だからこそ、当院ではこれまでの経験を生かして嗅覚障害の検査・治療に力を入れていきたいと考えています。
クリニックで専門的な診療を行うために、設備面で工夫したことを教えてください。

嗅覚・味覚検査室と聴覚検査室に十分なスペースを取りました。特に、嗅覚検査室は脱臭装置と換気扇を二重で設置し、においが残らないよう配慮しています。これらの検査は昼休みの時間帯に一般の外来とは別に完全予約制で行っています。また、内視鏡やCTなどの機器もそろえていますので、院内で一通りの検査が可能です。例えば、においの相談でいらした方には、まず内視鏡やCTなどで副鼻腔炎などの問題がないかをしっかりと確認した上で、嗅覚味覚検査につなげることで、よりスムーズに適切な診断を行えるようにしています。
嗅覚検査を認知症の早期発見のきっかけにも
一番の特徴である嗅覚の外来にはどういった相談が多いですか?

新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症にかかった後ににおいが戻らないという相談もありますが、一番多いのは高齢者の加齢による嗅覚低下です。嗅覚は加齢により徐々に低下していくので、中には長期間嗅覚低下の自覚がなく、生活に支障が出て初めて気づくというケースもあります。中でも認知機能低下を伴う方に嗅覚障害が見られることがあり、特にアルツハイマー型認知症などでは、早い段階から嗅覚が低下するといわれています。つまり、嗅覚障害は認知症のバイオマーカーになり得るわけです。早めに認知機能低下が見つかれば、認知症の治療をより早くから行うことが期待できますので、嗅覚検査の結果次第では認知症の専門家を紹介するなど、当院が早期発見・治療に向けた橋渡し役を担えたらと思っています。
もう一つの柱である補聴器の外来についてはいかがでしょうか?
補聴器は店で購入するものと思われている方もいますが、勤務医時代の経験から、医師や言語聴覚士が継続的にフィッティングに関わることの必要性を実感していました。そこで、当院でも補聴器の外来を設け、補聴器選びからメンテナンスまでトータルでサポートしています。補聴器は次の買い替えまで約5年使いますが、購入して終わりではなく、聴力の変化に合わせたこまめな調整が重要になります。そのため、言語聴覚士が行う補聴器適合検査をもとに診療を行っています。3~6ヵ月ごとに聴力検査や補聴器の効果判定を行い、きちんと音が入っているか、聞き取りができているかを評価します。患者さんにとってベストの状態を維持するには、こうしたこまやかな関わりが欠かせません。
診療する上で先生が心がけていることがあれば教えてください。

検査結果をデータ化してわかりやすく伝えることです。画像はもちろん、嗅覚や聴力など目には見えない結果も数値化し、前回と比較することで症状の変化を捉えやすいのではと思います。そのためにも、検査を正確に行えるよう多角的な視点を大事にしています。例えば、嗅覚は基準嗅力検査という濃度の異なるにおいを嗅ぐ客観的な方法と、日常のにおいアンケートで自覚症状を答える主観的な方法の両軸で評価します。味覚も、電気味覚検査と試薬を用いたテーストディスクの2つを行います。それらの結果を踏まえて治療を行いますが、嗅覚障害であればにおいのトレーニングを中心に、必要に応じて漢方薬を処方することも。においのトレーニングではご飯やみそ汁の湯気をしっかり嗅ぐなど、日常の中でできる訓練を勧めています。まずはにおいに関心を持つことが第一。その上で経過を追ってデータで示すことが、患者さんのモチベーションにもつながると考えています。
生活の質に直結するからこそ早めの受診を
スタッフの皆さんについて教えてください。

開業して間もないですが、看護師やクラークには助けられることばかりです。例えば、当院にはお子さんも多く来られるのですが、以前は高齢の方を中心に診てきたので、お子さんを診察する機会があまりありませんでした。試行錯誤していた時に頼りになったのがスタッフたち。お子さんが泣いても診療が止まらないよう優しくあやしてくれたり、診察室の壁に子どもたちが喜びそうな装飾をしてくれたりと、子どもたちが安心できるような工夫を考えてくれました。自分には思いつかないことを率先して行ってくれて、ありがたいですね。新しいクリニックですから、引き続き、皆で当院らしさをつくっていきたいと思っているところです。
今後どのような診療を展開していきたいとお考えですか?
なるべく幅広い年代の方に嗅覚検査を受けていただけるようにしたいです。聴覚・嗅覚味覚の障害を早めに発見し、機能を低下させないようにサポートしながら、認知症の早期発見につなげることで、地域の受け皿になれたらと考えています。もし、料理をしていて焦がしたり、使用後のトイレが臭く感じないといった日常での違和感があれば、嗅覚障害の可能性がありますのでご相談ください。とはいえ、ご自身では気づきにくいので、ご家族が意識を向けることも大切です。香水のにおいがきつくなった、傷んだ食べ物に気がつかないといった変化があればそれも受診のきっかけになります。近隣の方はもちろん、専門的な治療を希望する方が遠方からも来られるよう、こうした啓発にも取り組んでいきたいと思います。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

耳鼻咽喉科は聴覚、嗅覚、味覚、平衡覚という人間の重要な感覚機能を担う分野で、生活の質にも直結します。お伝えしたように高齢者の認知機能もその一つですが、お子さんについても同様で、鼻詰まりを放っておくと副鼻腔炎や中耳炎の原因になりますし、聞こえの問題は成長にも影響しかねません。ぜひ、早めに受診して治療を受けていただけたらと思います。嗅覚・味覚障害、補聴器といった専門性の高い診療が強みですが、中耳炎、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎など一般的な疾患にも幅広く対応していますので、少しでも気になることがあれば、気軽にご相談いただけたらと思います。