角友 佑豪 院長の独自取材記事
にじいろ心の診療所
(高松市/林道駅)
最終更新日:2025/08/06

飲食店や商業施設などが集中し、にぎわいを見せるレインボーロードエリアに生まれた「にじいろ心の診療所」は、精神科・心療内科を標榜するクリニック。香川大学医学部附属病院では特命助教を、高松市の市中病院では医局長をそれぞれ務めた角友佑豪(かどとも・ゆうごう)院長が、2025年に開業した。虹を背にハートを抱く馬のロゴイラストは、角友院長をイメージしたものだという。診療は完全予約制。スマートフォンから予約をした患者は、スマホや診察室内のレジで会計を済ませることができる。初診30分・再診15分と、患者の悩みを聞く時間をしっかり確保している点も、同院の大きな特長だ。「地域の皆さまが、虹のように輝く笑顔になってほしい」。はにかみながらそう話す、角友院長を取材した。
(取材日2025年6月26日)
地域住民の「虹のような笑顔」を願い開業
精神科の医師をめざした経緯をお聞かせください。

幼い頃から喘息の持病があり、小学校低学年までは1年の半分ほどしか学校に通えませんでした。つらい時期を多くの人に支えられた経験から、「自分も人助けがしたい」「自分と同じような境遇の人の力になることで、医療従事者の方々に恩返しがしたい」と、中学校3年生の時に医療の道を志したのです。医学部進学後も数年は小児科志望で、卒業する時もまだ、精神科と決めてはいませんでした。卒業後は症例数が多い都心部の病院で、先進の医療を学べたらと大阪へ。そこで研修医として配属されたのが、精神科です。精神科には、一見するとお元気そうな方もいれば重症の方もいる。病気の話もすれば、日常会話もする。そんな、他の科とはまったく異なる環境に惹かれ、帰郷後は母校の精神科神経科へ入局しました。2018年には特命助教、2020年には精神科病院の医局長に就任。多くの臨床に加え、後進の指導や他職種との橋渡し役なども担わせていただきました。
開業を決意された理由は?
病院に勤務していた頃から、「精神科のクリニックは初診予約が取りづらい」「予約が取れても、ゆっくりと話す時間がない」というお声を耳にしていました。再診の予約が多い精神科では、その状況も致し方ない部分がある。予約が取れない時は、病院にお越しいただけたら。そう思う一方で、「精神科医療で知られる病院は、軽度の症状で受診しづらい」という患者さまのお気持ちも理解できました。では、どうするべきなのか。お困りの方々のため、私自身が地域の受け皿となって診察時間を確保し、最後まで治療に携わる開業医になろうと決意しました。クリニックの名称は、開業以前から決めていたものです。地域の皆さまが、7色の虹のように輝く笑顔になってほしい。虹の先に広がる青い空のように、皆さまの心が澄み渡り、晴れ渡ってほしい。そんな願いを込めました。「虹の道」レインボーロードのそばで開業できたことは偶然ですが、非常に幸運だったと思います。
精神科の魅力を教えてください。

世の中にはつらい心のお悩みが原因で、家事も仕事も手につかず、周囲の声すら聞こえなくなってしまう方がいらっしゃいます。治療を通じて、そういう方々の社会復帰をサポートできることが精神科の魅力であり、私が精神科を選んだ最大の決め手でもあります。精神疾患を有する患者さまは、近年増える一方です。新型コロナウイルス感染症の流行によって、人とのコミュニケーションが一変した頃から、その数はさらに上昇しています。受診に至った患者さまには、必ず困っていることや助けてほしいことがあるはずですから、私はしっかりと確保した診察時間の中で、その問題をくみ取りたい、理解したいと思っています。
システム化された院内で、診察時間を確保
クリニックの診療体制について教えてください。

初診、再診ともに完全予約制です。待合室は無人ですので、受付台のQRコードからチェックインをしてお待ちいただきます。患者さまがリラックスできるよう、院内は「病院らしくない」雰囲気を重視しました。音楽をかけて観葉植物を飾り、椅子も目を合わせにくい向きで配置しています。診察室は防音設計です。患者さまの緊張を防ぐため、私も白衣は着用しません。予約・受付・会計はスマートフォンで完結でき、診察室内にも自動精算機を設置しているので、他の方との接触を抑えながら会計を終えることが可能です。なお、当院には心理職やソーシャルワーカーの職員が在籍していません。そのため心理検査や社会制度説明などは実施できず、必要な場合は近隣の医療機関にお願いすることになります。できないことは多いですが、患者さまお一人お一人と向き合う時間を優先させました。受付から会計までで、初診は30分。再診でも15分の枠を確保しています。
どんな患者さんが多いのでしょうか?
病院時代から来られている患者さまの数を上回るほど、新患の方にお越しいただいています。20〜40代を中心に、やや女性が多い印象です。主訴は不眠や気分の落ち込みなどで、発達障害を疑って受診される方も目立ちます。「仕事や人間関係に支障を感じた」「周囲の勧めがあった」など、受診のきっかけはさまざまです。ファミリー層が多いという地域柄なのでしょうか、不登校や気分の落ち込み、対人恐怖、受験のプレッシャーなどで悩む10代のお子さまもよくおみえですね。病院での患者さまはほとんどが高齢の方でしたから、年齢層の違いに驚いています。実は、開業後しばらくは時間に余裕があるだろうと思っていたのですが、実際は初日から予約が埋まってしまうという想像以上の忙しさで、精神科・心療内科のニーズを痛感しました。
診療にあたって、心がけていることはありますか?

研修医時代にお世話になった先生の2つの教えが、今の自分の柱となっています。1つ目は、無事の来院を褒めて差し上げることです。精神科の患者さまは、受診するだけでも大変な思いをしますから。2つ目は、体の病気を念頭に置きながら診察することです。認知症とお聞きしていたら脳腫瘍だったり、統合失調症かと思えば脳炎や脳症を起こしていたりと、身体疾患が心の不調を引き起こしているケースは少なくありません。糖尿病や心臓病などの持病を抱える方が、うつ病や認知症を合併して来られるケースもありますから、精神科であっても、ある程度はすべての科の知識が必要だということです。研修医時代の診療科横断的な勉強の大切さは、後になってよく理解できました。私は医師としてぶれることなく恩師の教えを守りながら、今でも精神疾患、そして身体疾患の勉強を欠かさずに続けています。
些細なことでも、悩みがあれば相談を
休日はどのように過ごされていますか?

休日は家事と育児でほとんど終わってしまいますが、子どもが寝た後は本を読んだり、友人とお酒を飲みに行ったりして気分転換をしています。健康のために意識していることは、十分な睡眠時間の確保です。疲れている時や体調が悪い時は子どもと一緒に寝て、朝まで眠ることもありますね。不眠でお悩みの方は、夕方以降はカフェインを摂取しない、就寝の1〜2時間前はスマホを触らないといった工夫を心がけてみてください。
今後の展望を教えてください。
現在の患者さまの年齢や疾患に則した知識を蓄えるため、今後はこれまで縁のなかった児童精神科の勉強にも取り組みたいと考えています。将来的には院内での心理検査やオンライン診療、あとはこの場所がエレベーターのない2階ということで、高齢の患者さまのための往診なども検討していく必要があるでしょう。オペレーションにおける目下の課題は、電話対応です。他に職員がいないため、現状は留守電電話での対応がほとんどです。予約のメッセージを残していただいた場合は、診療後などで電話をかけ直している状況ですので、より効率的なシステムを検討中です。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

眠れない、ごはんが食べられない、好きなことを楽しめない、それはすべて不調のサインかもしれません。気分の落ち込みが長引くと、体にも不調が出やすくなります。「眠れないくらいで来てもいいんですか」「こんなことくらいで」と気にされる方もいらっしゃいますが、ご自身が悩まれている場合や、周囲に相談しても解決できない場合は気軽にご相談ください。精神疾患ではなかったとしても、受診によって「病気でない」とわかれば、患者さまは安心することができるはずです。予約日が近づいたら、何から相談するかを考えて、当日はどんな些細なお悩みでもお聞かせください。当院がめざすのは、この地域の皆さまの心のよりどころ。末永く愛される、心のプロムナードです。