永井 斐子 院長の独自取材記事
かつしか心身総合クリニック
(葛飾区/金町駅)
最終更新日:2025/12/11
1994年に立石で開業し、2018年に金町駅から徒歩2分の場所へ移転した「かつしか心身総合クリニック」。身近なクリニック、何でも相談ができるクリニックとして、約30年多くの患者に寄り添い続けてきた。そんな地域に根差した同院で、2023年より院長を務めているのが永井斐子先生。日本精神神経学会精神科専門医で、うつ・不安障害などの心療内科、精神科のほか、高齢者の物忘れといった日常の悩みにも対応。自身も子育て中で、妊娠や出産など女性特有のライフステージの変化に寄り添った診療を提供している。スタッフからの信頼も厚く、「院長には何でも相談できるんですよ」とほほ笑む人も。今回は、「皆の助けになりたい」という思いが人一倍強いという永井院長に、話を聞いた。
(取材日2025年6月13日)
対話を通して、目の前の人の力になりたい
まず、精神科専門医をめざされたきっかけを教えていただけますか?

医師を志したのは、誰かの役に立ちたいという気持ちからです。学生の頃は研究職をめざし、薬の開発に携わりたいという思いが強くありました。しかし、実際に臨床の現場に出て、患者さんと直接向き合う経験を重ねるうちに、人と対話しながら治療していく臨床医に心惹かれていきまして。精神科は、血圧や心疾患のように明確な診断や治療指針がある内科とは異なり、一人ひとりの背景や状態に応じて治療のアプローチ法が大きく変わる分野です。まだまだわからないことも多く、未知の領域に挑むやりがいを感じました。また、患者さんと対話を重ねる中で、その人に合った最適な治療を見つけていく過程が精神科ならではの魅力だと実感して。型にはまらず、その方自身を深く知り、理解しようとする姿勢が、今の私の診療の根幹になっています。
人と向き合うことに、やりがいを感じられたのですね。
そうですね。土台となったのは、大学卒業後に臨床研修を受けた地域の病院での経験です。順天堂大学医学部を卒業後、内科医をめざして一度大学病院を離れ、地域に密着した環境で多様な患者さんと接する中で、「もっと人と関わり、臨床の現場で役に立ちたい」という思いが一層強くなりました。この期間が、私の医師としての原点になっていると感じます。その後、専門を決める段階で精神科の道を選び、より深く学ぶために大学病院の医局に戻りました。
診察の際、大切にされていることを教えてください。

患者さんとの信頼関係を築くことですね。心療内科を訪れる方の中には、本音を話せない方も少なくありません。そのため、焦って解決を急ぐのではなく、まずは世間話のようなやりとりを重ねながら、徐々に心の距離を縮めることを意識していますね。患者さんの気持ちを少しずつ和らげ、自分の言葉で話せるように導いていく……そんな変化がもし見られれば、そうした一つ一つが、私たちにとって大きな喜びです。私が願うのは、このクリニックが患者さんにとっての一つの居場所になること。泣きながら受付に来られたとしても笑顔で帰ることができるような、孤独感を抱えている人にとって「ここに来れば大丈夫」と思える場所があることは、支えになるはずだからです。
クリニックが「居場所」になってほしい
どのようなお悩みの患者さんが多いのでしょうか?

勤務開始当初は高齢の患者さんが中心で、認知症や加齢に伴う不安などが主なご相談内容でした。しかし近年は、地域の再開発や人口構成の変化に伴い、来院される方の層も変化しています。マンションの建設や大学の開校などでファミリー世帯や学生が増え、心療内科を訪れる方の年齢層も広がっていったんですよ。育児と仕事の両立に悩む子育て世代の女性、働き盛りの会社員の方々、さらには発達障害に関するご相談も増加しています。育児を一人で抱え込んでしまうケースも多く見受けられますね。こうした地域の変化とともに、当院も進化しなければいけません。私自身も日々、患者さんから学び、自分にできることを増やしていきたいと感じています。そして、患者さんの気持ちに寄り添える医師でありたいと思っています。
近年、以前よりも心療内科・精神科が身近になったように感じますが、いかがでしょう?
心療内科への受診ハードルは、下がってきていると感じます。ただ、それでも「自分なんかが行ってはいけない」と思い詰めてしまう方は、今も一定数いらっしゃるのも事実です。明らかに無理をしていても「皆、頑張っているから」と自分を追い込んでしまう。そうしたケースを見るたび、もっと早く誰かが声をかけられたらと、もどかしさを感じるんですよね。心の不調に気づき、誰かに相談するという一歩を踏み出せる場が、もっと身近に広がってほしいと思っています。当院では、スタッフ一人ひとりが患者さんを家族のように思い、丁寧に寄り添う診療を心がけています。笑顔で明るく迎えたり、些細な不安にも耳を傾け、医師と連携する姿勢は、来院された方の安心感につながっています。細かいところまで率先して行う真摯な姿勢や、チームとしての結束力は当院の大きな強みです。私自身もこのチームの一員として、今できることを誠実に積み重ねてまいります。
予約や待ち時間について教えてください。

当院は時間帯予約のため、場合によってはお待たせしてしまうこともございます。患者さんに少しでも安心していただくためには、どうしても時間がかかってしまうこともあるのです。そこで、待ち時間は問診票にその日話したいことや聞きたいことを書き出せるようにしています。少し言いにくいことでも書いてみることで話しやすくなる方もいらっしゃるのです。お待たせしてしまうことやお時間が限られてしまうこともございますが、患者さんに少しでも安心していただけるようにスタッフと一緒に努めてまいります。
焦らず、無理せず、じっくりと
先生も一人の母親として、産前・産後ケアには注力されていると聞きました。

産後うつの方には、まずご自身が「十分に頑張っている」ということに気づいてもらうことが大切だと考えています。出産後は、ホルモンバランスの変化や生活環境の急激な変化によって、どうしても冷静な判断がしづらくなり、自分を追い詰め、自己否定に陥ってしまう方が多くいらっしゃるんです。そういった方に対して心がけているのは「休んでも良い」「頼っても良い」といったメッセージを繰り返し伝えることで、少しずつ外の風を送ること。時には、電話の後ろで赤ちゃんの泣き声が聞こえる中「病気なのかもわからない」とおっしゃる方もいて。そういった方が一歩を踏み出せるよう、近隣病院や行政との連携も大切にしています。健診や家庭訪問の場面で「一度行ってみたら」と声をかけてもらうことで、心療内科受診につながることもあるからです。孤立しがちな産後の時期だからこそ、外からのきっかけや後押しが必要なのだと日々実感していますね。
「もっと何かしたい」という先生の思いが伝わってきます。今後の展望をお聞かせください。
心療内科の治療は外来だけでできることに限界があり、特に認知症の方などは、日常生活の指導や対人関係の改善、自信の回復といった薬以外の支援が重要になります。私はこうした部分を重視し、患者さん一人ひとりに具体的なアドバイスを心がけていますが、外来の場だけで終わってしまうのは非常にもったいないと感じていて……。理想は、孤独感の強い方が安心して集い、人との関わりを少しずつ練習できる居場所をつくることです。大きな病院で行われている患者会のように、同じ境遇の方が集まって交流する場が地域にもあれば、より日常的な精神療法が実現できるのではないかと思いますね。考え方の修正は一朝一夕でできるものではありません。日々の体験や活動の中で少しずつ気持ちや行動を変えていくことが大切です。日常的な支援の場や患者同士の交流がもっと広がれば、治療の質もさらに高まるのではないかと考えています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

日々の診療の中で感じるのは「弱みは出しても良い」ということです。患者さんにもよく「もっと頼って良いんですよ」とお伝えしますが、それは自分が実感していることでもあって。私も機械に弱かったり、抜けてしまったりすることもありますが(笑)、それをスタッフに隠さずにいることで、逆に信頼関係が深まることもあるんですね。これはやはり信頼が土台にあってこそ。焦らず、無理せず、まずは一歩踏み出してみてほしいと思います。電話をかけてみるだけでも良い、世間話から始まっても良い。ゆるやかな関わりの中で皆さんが少しずつ本音を出せるように、われわれが尽力します。

