米神 裕介 院長の独自取材記事
こめかみ内科・外科クリニック
(広島市西区/高須駅)
最終更新日:2025/05/14

高須駅から徒歩1分のクリニックビル2階に、2025年4月に開業の「こめかみ内科・外科クリニック」。近隣は閑静な住宅地で、スーパーやホームセンターが点在する、ファミリー層に人気の町だ。院長の米神裕介先生は広島学院高等学校出身で、このエリアには子どもの頃からなじみがあるという。クリニックではCTや骨密度測定器などの機器をそろえ、内科と外科を中心とした幅広い診療を行っている。米神院長は自治医科大学を卒業後、離島や山間部などのへき地医療に従事する中で、外科のみならず、内科、整形外科、血液透析など幅広い領域の診療に関わってきた。「地元の皆さんが気軽に何でも相談できるかかりつけ医として、自分の経験を役立てたい」という米神院長に、診療にかける思いなどを聞いた。
(取材日2025年3月24日)
へき地医療や外科の前線で得た経験を地域医療に還元
内科と外科を標榜されていますね。先生のご専門を教えてください。

もともと専門は外科ですが、自治医科大学出身ということもあり、総合診療の経験も豊富です。自治医科大学では卒業後に一定期間、出身都道府県に戻り、知事の指定するへき地医療に従事することが義務づけられています。神石高原町立病院では、外科手術はもちろん、血液透析、整形外科の処置まで、幅広く経験しました。離島での医療を題材にしたドラマの舞台となった与那国島にも赴任しました。十分な検査機器がない環境で、症状から脳梗塞と判断し、嵐の夜にヘリで患者さんを緊急搬送したこともあります。東京では、外科医として11年間ひたすら手術を担当。日本外科学会外科専門医の資格を取得した後、再び広島に戻って7年目になります。ですから、専門は強いて言うなら外科や消化器ですが、これまでの経験を振り返ると「なんでも屋」のイメージが近いかもしれませんね(笑)。
開業を決意されたきっかけは?
東京時代、消化器外科医としてがん患者さんの手術や化学療法を担当していました。しかし、がん患者さんの多くは最終的に再発し、治療を続けることが最善とは限らないケースもあります。病気を抱えながらどう生きるかは、医師が決めることではなく患者さんご自身が決めること。でも、医師が勧めることに意見をしづらいケースも多く、看護師さんにだけ本音を話していて、そこから初めて患者さんの生活の背景が見えてくることもありました。こうした経験から、「もっと患者さんの生活に近いところで、気持ちに寄り添いながら医療を提供する」という役割が重要だと感じるようになったんです。今後のキャリアとしても、病院の管理職になるより、現場で患者さんに寄り添い続けるほうが自分らしいのではないか。そんな思いが、開業への第一歩になりました。
ここは先生の地元だそうですが、地域の皆さんに向けてどんな診療をしていきたいですか?

実家は西区で、高校は広島学院高等学校に通いました。この辺りも友達とよく歩いていましたね。昔から閑静な住宅街だったので、近隣には高齢の方も多くお住まいかと思います。クリニックでは、基本的には一般内科や生活習慣病の管理、そしてけがの治療を柱にした外科診療を行っていくつもりです。生活習慣病は、高齢の方の脳卒中や心疾患のリスクを減らすために重要ですからね。さらに力を入れたいと考えているのは、骨粗しょう症の予防と治療です。骨密度は40代から低下し、特に女性は閉経後に急激に進行します。早めに対策を取ることで、将来的な骨折リスクを減らし、健康寿命の延伸につなげていきたいです。骨折して歩けなくなってしまうと、社会的に孤立してしまい、気持ちまで元気がなくなってしまうケースも多く見てきました。高齢になっても生活の質を落とさずに元気に過ごせるよう、地域の皆さんをサポートしていきたいですね。
積極的に検査を提案して、健康寿命の延伸を後押し
骨密度の検査ができる機械を導入されているそうですね。

はい。転んで尻もちをついたときに骨折しやすい腰椎と大腿骨について、骨に含まれるカルシウムやリンなどミネラルの量を測定する機械です。7割ぐらいの方が骨密度の検査を受けたことがなく、転んで骨折して初めて、自分が骨粗しょう症になっていることに気づくんです。骨密度に問題がなければ、尻もちをついた程度では骨折はしません。それがすぐに折れてしまうわけです。一度折れてしまうと、手術で治しても、また折れやすくなってしまいます。そうなる前に、きちんと検査をすることを皆さんに啓発していきたいですね。骨密度が低下している場合は経過観察をして、必要に応じて治療を行います。
骨粗しょう症にも「治療」があるんですね。
はい、まずは食事の管理が基本になります。必要に応じて、骨の形成に重要なビタミンDの薬を処方することもあります。さらに深刻な場合には、骨粗しょう症の治療薬を使用します。骨粗しょう症とは、簡単に言うと、骨の量と質が低下する病気です。骨は常に新しい細胞と入れ替わりながら作られ、骨を溶かす細胞と作る細胞のバランスによって維持されているんです。しかし、このバランスが崩れると骨が減少してしまいます。その進行を防ぐための薬や、骨の形成を助ける薬も登場しています。でも、こうした治療が必要になる前に、まずは骨粗しょう症の検査を積極的に受けていただきたいですね。特に女性の方には早めの検査をお勧めします。骨粗しょう症が疑われる場合は保険診療となりますし、自治体の検診などもありますので、気になる方はぜひご相談ください。
先ほどお話にあった、骨折によって社会的に孤立するリスクについて詳しくお聞かせください。

骨折は、脳の疾患やがんなどに次いで、日常生活の質を落としてしまう原因となっているといわれています。手術して一時的に歩けるようになっても、骨折を繰り返したりすれば外出も困難になります。家に引きこもりがちになって、最終的に亡くなってしまうというケースも多いのです。郊外や山間部では、生活をサポートしてくれる家族がいらっしゃることが多いのですが、広島のように都会に近いところは、家族が遠くに住んでいて一人暮らしをしている高齢者が多いんです。家に帰してあげたいけれど、生活は一人では難しいかな、とか、定期的な通院も負担になるだろうな、という方は非常に多いですね。そういった方には、将来的には訪問医療でサポートできればと考えています。
なんでも気軽に相談できる地域のかかりつけ医をめざす
先生が診療で大事にしていることを教えてください。

ありきたりかもしれませんが、「よく話を聞くこと」です。もともと外科医として手術に関わることが多かったのですが、手術は医師にとっては日常のことでも、患者さんにとっては一生に一度の大きな決断です。だからこそ、「こちらが説明したか」ではなく、「患者さんが理解できたか」が重要だと思っています。勤務医時代も、術前から徹底してわかりやすく話すことを心がけていました。もし理解できていなかったら、それは医師側の責任。単に「説明しました」ではなく、「ちゃんと伝わったか」を確認することが大切です。患者さんが言いたいことを言えなさそうなら、こちらからわかりやすく丁寧に話すようにしています。簡単なことではないですが、一人ひとりにしっかり向き合う診療を続けていきたいですね。
今後の展望などはありますか?
開業を決意したきっかけとしてもお話ししましたが、やはり患者さんと近い距離で、一人ひとりの生活に寄り添いながら、自分自身の経験を生かした治療を提供していけたらいいなと思っています。医師としてのキャリアを考えたときに、手術がうまくなりたい、という思いはありましたが、大きな病院のような組織で上をめざすのは自分に向いていないと考えていました。それよりも、患者さんとしっかりお話しして、その方の生活や価値観などを理解しながら寄り添える医師でありたいと思っています。へき地医療で「なんでも屋」として積んできた経験を生かして、なんでも気軽に相談できる地域のかかりつけ医になれるよう、まずは一人ひとりの患者さんを大事にしていきたいですね。
読者へのメッセージをお願いします。

体調不良からけがまで幅広く診療し、これまで培ってきた経験を地元の皆さんの健康のために生かしていけたらと思っています。なぜこの検査や治療をするのか、何を目標に治療するのか、わかりやすく丁寧にお話しして、同じ方向を向いて治療を進めていきます。「いくつも病院に行くのは大変だから、全部相談に乗ってほしい」「何科を受診したらいいのかわからない」という方は、ぜひお気軽にご来院ください。