森 章 院長、吉田 航 さんの独自取材記事
西船ゆうなぎ診療所
(船橋市/西船橋駅)
最終更新日:2025/05/07

西船橋駅からほど近い場所にある「西船ゆうなぎ診療所」。ゆったりと落ち着きのある内装が特徴の同院には、近隣住民もビジネスパーソンも多く通院している。精神科・心療内科の医師である森章院長と、事務長兼副院長で公認心理師の吉田航さんが出会ったのは、大規模災害などで被災した患者の治療や支援を専門に担うDPAT(災害派遣精神医療チーム)。病院とは異なる環境で得た経験は、現在二人三脚で行っている診療にも生かされているそうだ。開業後の目標は、長期入院している人を社会復帰に導くことと、苦労しながら日常生活を送る人の支えになること。そのために地域に必要とされる医療を提供したいと意気込む二人に、これまでの経歴や精神科医療に対する思い、心がけていることなどについて聞いた。
(取材日2025年4月10日)
DPATで出会った2人が立ち上げた精神科クリニック
クリニックの特徴や院内のこだわりを教えてください。

【森院長】当院は西船橋駅から徒歩2分という通院しやすい場所にあります。人の流れが多い乗換駅の近くということで仕事帰りに立ち寄りやすい一方、住宅街にあるクリニックでもあるため近隣住民の方にもお越しいただきやすく、さまざまなニーズにお応えできると思いこの地に開業しました。内装に関しては、リラックスできる空間をめざし、半間接照明を使って光のトーンを落としています。クリニックらしくない雰囲気を出せるよう、待合室にはカウンターテーブルを置いてカフェのような空間にしたのもこだわりです。
【吉田さん】待合室の椅子は、患者さん同士の視線が交わらないような配置になっています。日頃からお疲れの方に配慮した、刺激の少ない環境だと思いますね。
開業するまでの森先生のご経歴を伺います。
【森院長】東京医科歯科大学を卒業後、複数の病院で統合失調症や双極性障害などの精神疾患の治療を数多く経験しました。患者さんの社会復帰を支援する部門や救急部門を担当していた時期も長く、その時は急性期の方を可能な限り早く退院させ、地域に送り出すことを目標としていましたね。救急部門では何でも診る力が求められます。これは災害医療にも通じる話なのですが、少ない情報・資源の中で対応しなければならない環境はかけがえのない経験となり、現在の診療にも大いに生きています。また勤務医時代には、DPAT(災害派遣精神医療チーム)の一員として被災地にも出向きました。そこで先にDPATのメンバーとなっていた吉田さんと出会い、知識や技術を教えてもらったんです。
吉田さんのご経歴もお聞かせください。

【吉田さん】私の場合は、岡山大学大学院に在学中、岡山県精神科医療センターで働いたのが精神科医療に従事する始まりです。主にデイケア部門において、長期間治療を受けながら通院によって地域生活を維持している方を就労につなげるサポートを行っていました。精神科医療のいろははすべてここで学んだといっても過言ではないですね。そして、DPATを立ち上げる話を聞いたのが常勤2年目の時。もともと災害支援への関心があったのはもちろん、過去に東日本大震災が起こり、岡山から災害チームが多く派遣された時に関与できず歯がゆい思いをしたこともあって、迷わず手を挙げました。
求める人に必要なものを。開業し社会復帰の支援に注力
DPATでどのような学びや気づきを得られましたか?

【森院長】当たり前のことですが、寒くて震えている人に、真っ先に行うべきは毛布の支給です。もし手元に毛布がないのなら、どこに行けばもらえるのかを調べて案内しなければなりません。このように、災害現場では支援が必要な方のニーズを見極め、求めているものにつなげてあげるのが最も重要だと痛感しましたね。社会的な支援も含め、薬を出すだけでは解決できない問題に対していかに手助けするかを考えさせられました。
【吉田さん】DPATが設立されて10年がたちましたが、災害現場における精神科医療の大切さを周囲から理解してもらえるようになってきたと感じています。けがをした人への治療のスピードと比べると、精神的なダメージを受けて入院・通院している方への支援が遅く患者さんが取り残されてしまうケースもありましたので、この変化はうれしいですね。DMAT(災害派遣医療チーム)などとの連携も以前よりスムーズになりました。
開業の理由をお聞かせください。
【森院長】患者さんの社会復帰を病院で行うことに限界を感じたのが主な理由です。近年の国の政策も、長期入院されている方が日常生活に戻れるようサポートする方針を示していますので、自分も地域の中で患者さんを診て、支える側に回りたいと思ったんです。開業時にお声がけした際、ついてきてくれた吉田さんには感謝していますね。公認心理師の吉田さんがいてくださるメリットは大きく、発達障害の疑いがある方に素早く心理検査を行えるのが強みの一つです。カウンセリングに関しても、私だけでは一人ひとりの患者さんに十分な時間をかけられないところをカバーしてくれるので非常に助かります。さらに、吉田さんは前職で事務長も経験されていたので、当院でも事務長と兼任する形で副院長に任命し、クリニック全体を見ていただいています。
こちらでできる心理検査について教えてください。

【吉田さん】当院では知能検査や人格検査といった一通りの検査が可能です。特に発達障害の傾向がある患者さんに対し、複数の検査を組み合わせて実施した上で「生活の作戦」を立てています。よく行っているのは、情報処理の得意・不得意を調べるウェクスラー式知能検査。検査で示された数値のばらつきを見て、職場でいかに適応するか、家庭内でどう工夫しながら暮らすのが良いかなどを考えていきます。患者さん自身の対応の仕方だけでなく、周囲にどう助けてもらうか、どのように指示をもらうかといった具体的な方法までご提示します。
ニーズがあるならばどんなことにも応えたい
患者さんと接する際に心がけていることは何ですか?

【森院長】患者さんが困ったとき、すぐに手を差し伸べられる精神科医師でありたいという気持ちで診療にあたっています。あとは多剤にならないよう、薬の処方は最小限にしていますね。例えば、職場でうまくいかず適応障害になってしまった場合は休養が大切ですので、薬を出さずに休んでいただくようお伝えすることも選択肢となります。統合失調症の治療や眠れない、食事が取れないなどの生理的な症状には基本的に薬が必要ですが、その場合もなるべく少ない量・種類にとどめており、他院から多く処方されているケースでもできるだけ薬を整理するのが当院の方針です。
【吉田さん】専門職であるという意識が働くと上下関係が生まれやすいので、患者さんが気兼ねなくお話しできるよう心がけています。年齢に関係なく「対等である」という姿勢で接し、患者さんを一人の人間として尊重しています。
この地でどんな医療を提供したいとお考えでしょうか?
【森院長】一番は、地域生活を送っている方をそのまま入院させずにサポートしたいと考えています。そのためにいずれは外来診療だけでなく訪問診療も開始し、ニーズのあるところに手を届かせていきたいです。
【吉田さん】患者さん本人やご家族、関係施設の方からのご連絡があれば、基本的には何にでも取り組んでいきたいと思っています。岡山では地域で何とか生活できている方を多くサポートしていましたので、この地でも退院して地域で暮らし始める方を病院からバトンタッチしたり、病態の重い方の生活を支援したりとできることをやりたいですね。こうした取り組みは、病床を持たないクリニックの使命でもあると考えています。
読者へのメッセージをお願いします。

【森院長】患者さんの生活が第一ですので、お困り事があれば遠慮せずにご相談ください。皆さんの助けになれるよう精一杯対応させていただきます。また、当院は完全予約制で診療しておりますが、時間に空きがあれば当日に新患の診療が可能です。あまり余裕のない方が来てくださり「今日来てくれて良かった」と思う日もありますので、今後も可能な限り現在の体制を維持してまいります。
【吉田さん】精神科の診療は、予約してから数ヵ月待つケースも珍しくありません。しかしそれでは病態が変化したり手遅れになってしまったりする恐れがあるため、なるべくご予約から時間を置かずに対応できるよう仕組みづくりやマネジメントに取り組みたいと考えています。ぜひ、当院を地域の保健室だと思って気軽にお越しください。