安藤 和美 院長の独自取材記事
ちとふなペインクリニック
(世田谷区/千歳船橋駅)
最終更新日:2025/03/24

2025年1月に開院したばかりの「ちとふなペインクリニック」。小田急線千歳船橋駅北口を出てすぐの駅前ビル3階にあり、全身の痛みを専門的に治療する「疼痛の外来」を中心とした内科クリニックだ。院長は麻酔科の医師として25年以上の経験を持ち、その中でペインクリニックに20年以上携わってきた安藤和美先生。救急医療や終末期の医療などでも研鑽を重ねてきた。患者によって異なるさまざまな “痛み”の本質に迫り、その人に合わせた治療を行っている。長年にわたって診ている患者や遠方から訪れる患者もいるという。痛みの治療に加え、内科の診療も行っており、西洋薬に漢方薬も併用した診療も特徴だ。痛みを取り除くための治療とはどういったものなのか、安藤院長に詳しく聞いた。
(取材日2025年2月21日)
自身の身に起きた病気をきっかけに痛み・ペインの道へ
麻酔科の医師になろうと思ったのはなぜでしょうか。

私は北里大学医学部を卒業したのですが、当初はどの科に進もうか決めあぐねていました。そんな時に、大学のサークルで泌尿器科の教授に相談する機会があり、「そんなに悩んでいるんだったら、とりあえず麻酔科に行ったほうがいい」という言葉をいただいたのです。麻酔科は心臓の循環系を扱うので、どの医師も研修で回りますし、さまざまな手術にも立ち会うので、実は重要な科です。さらに、医師は開業する際、外科や内科、皮膚科といった診療科を掲げられますが、麻酔科は誰でも標榜できるわけではなく、当時は3年間専門的に学び試験に合格しないと「麻酔科標榜医」を名乗れませんでした。それだけ専門性が高いということで、とりあえずまずは標榜医になれるまで3年間頑張ってみようと思い、母校を出て東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科へ入局しました。
経験を積む中で麻酔科への意識は変わりましたか。
麻酔科医は、心電図や脈拍、サチュレーションという動脈血中の酸素飽和度などをモニターを通して見ることで、患者さんの血管の薄さや心臓の力の強さ、ひいては全身状態がわかるものです。それが、数学的というか理に適っているように思い、面白さを感じるようになりました。ただ当時は、今と違って麻酔科の医師が本当に少なくて激務の日々。1年目から毎週のように心臓外科での手術に立ち会っていました。それも生まれたばかりの赤ちゃんの先天性心疾患の手術なども多かったんです。大人よりはるかに小さな子どもに麻酔をかけるわけですから、毎日のように緊張にさらされていました。そのストレスからめまいや耳鳴り、吐き気などの発作が起こるメニエール病を発症してしまい、神経ブロック注射をしてもらっていました。
その経験が今につながっているのですか。

そうですね。体を壊してしまい、疲労もピークに達していたので、夜間の当直はやめさせてほしいとお願いしたんです。それで、痛みを専門的に診るペインの外来があったので、3年目からはそこへ行くことになりました。自分の病気をペインの分野で診てもらったことがきっかけで、診療に携わるようになったということですね。ところが2006年まで担当していたのですが、病院の体制が変わったことがきっかけで、ペインの外来が廃止されることになりました。そうなると、今まで診てきた患者さんが困るのではと考えて、新橋でペインクリニックを開業したのです。そこは新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに閉めましたが、12年ほど続けていました。その後、数年間は他の病院の救急などで勤務していましたが、やっぱりペインをやりたいなと思い、改めて地元である千歳船橋で開業しました。
心身にも影響を及ぼす痛みにアプローチする治療を
改めて「ペインクリニック」とはどんな科か教えてください。

診断と治療を通じて、心身に影響を及ぼすような体のあらゆる痛みを取り除くことをめざす診療科です。痛みは、時には他の症状や精神状態にまで影響します。全身の健康状態の改善を図るために、痛みの治療を行う場合も少なくありません。例えば、歩行に支障をきたしていたり、周囲に当たり散らすような性格だったり、といった悩みが、痛みの負担が軽くなることに伴って良くなることもあるでしょう。痛みを取り除くための治療でありつつ、他の症状にもアプローチできるというのは、ペインならではの意義だと思います。当院では、注射による神経ブロックを主として、他に投薬などによる治療も行っています。
心身に影響を及ぼす痛みとはどのようなものがありますか。
主に「侵害受容性疼痛」「神経因性疼痛」「心因性疼痛」の3つに分類されます。まず「侵害受容性疼痛」とは、いわゆる傷の痛みです。例えば、骨折や捻挫、打撲、やけど、腫れて熱を持った痛み、術後の痛みなどですね。その場合は消炎鎮痛剤を処方することが多いです。次の「神経因性疼痛」は神経の痛みです。坐骨神経痛や帯状疱疹などが該当し、こちらは消炎鎮痛剤ではなく、神経ブロックなどによる治療が必要になります。そして、「心因性疼痛」はメンタルからくる痛みのことです。行動に心理学でいう「乖離」と呼ばれる症状が見られるのが特徴で、例えば雑誌が持てないぐらい手に痛みがあると訴えてくるのに、大好きなゴルフのクラブは持てるといった症状が見られます。心因性疼痛の場合は、向精神薬を出すことが多いですね。このように、痛みの種類によって治療法が変わります。
痛みの治療は心の領域にまで関わることがあるんですね。

そうですね。痛みとメンタルと体の状態というのは三位一体のようなところがあります。メンタルが弱って体に不調や痛みを引き起こすこともあるし、痛みがメンタルに悪い影響を及ぼすこともあります。例えば、腰痛はストレスから引き起こされることも多いといわれていますし、帯状疱疹などもそうですね。今まで元気だったけれど、交通事故にあった、親兄弟が亡くなってしまったといったことがきっかけで痛みが出ることもあります。いずれにせよ、体だけではなく心もケアをしないといけません。ときには話を聞いてあげるだけで治療の一環となる場合もありますので、精神科のような側面もあるかもしれません。
痛み以外の治療にも対応する地域のかかりつけ医に
めまいや耳鳴りといった症状にも対応していると伺いました。

先ほどお話ししたメニエール病は、めまいや耳鳴り、難聴が症状としてあります。メニエール病はストレスが原因の一つで、交感神経をブロックすることで症状の改善をめざします。特に耳鳴りや難聴は、発症後すぐに治療に取りかかることが重要です。他には、顔面神経まひや帯状疱疹なども早期治療が鍵になります。帯状疱疹による痛みについて、当院では近赤外線を照射する光線治療や神経ブロックで対応をしています。光線治療は発疹の痕の治療法としても有用です。いずれにせよ、発症を自覚したらすぐ来ていただきたいですね。
プライベートについても伺いたいのですが、趣味などはありますか。
最近は英会話の勉強をやり直しています。日常でも英語のニュースや動画を観て勉強していますし、英会話のレッスンも受けています。きっかけは好きなアメリカのミュージシャンの存在で、英語でコミュニケーションができたらいいなと思って始めたんです。昨年はサンフランシスコまでライブを観に行きましたし、今年は来日するので楽しみにしています。実は当院では、英語でのコミュニケーションも可としているんです。今後は英検も挑戦しようと思っていて、まずは準1級をめざしています。
最後に地域の方へのメッセージをお願いします。

痛みに強いかどうかの個人差はありますが、目安として夜中に目覚めてしまうぐらいの痛みがあるときは、ぜひ早めに来ていただきたいです。もちろん、それほどでなくても痛みで不安を感じているようでしたら、来院していただいて構いません。ペイン以外では、内科の症状についても対応していますので、体調に異常を感じたら遠慮なく来ていただきたいですね。内科の特徴としては、私が漢方に興味があることもあり、西洋医学に東洋医学の考えや薬も取り入れ、双方の長所を生かすような診療をしています。ありがたいことに、新橋にクリニックがあった時の患者さんが来てくださることもあり、中には20年以上来てくださっている患者さんもいます。この地に根を張るつもりで、細く長く続けていきたいと思っていますので、地域の駆け込み寺のような存在になれるように頑張りたいと思います。