竹内 泉 先生の独自取材記事
アマナメンタルクリニック藤沢
(藤沢市/藤沢駅)
最終更新日:2025/05/15

「アマナメンタルクリニック藤沢」は2024年12月、藤沢駅から徒歩約10分の場所に開業。宮地文也院長と共同で同院を立ち上げたのが竹内泉先生。聖マリアンナ医科大学卒業後、慶應義塾大学病院で精神科医療を学び、自らも心を病んだ経験から、医師と患者両方の思いを知り、あくまでも患者の思いに寄り添う診療を提供する。「できる限りお薬に頼らず、患者さんの感情を大切にした診療を心がけています」と竹内先生。フランクで話しやすく、まるで世間話のように自己開示も厭わない。藤沢地域に数少ないとされる女性の精神科医であり、「話しやすい性格」を自負する。さまざまな悩みに対応しているため気軽に来院してほしいと語る竹内先生に、精神科医療への思いを聞いた。
(取材日2025年4月11日)
「人の心を癒やすのは人の心である」という思いを胸に
診察の特徴を教えてください。

私たちは「さまざまなメンタル不調や体の不調の大きな原因は、感情の抑圧にある」と考えています。この考えに基づき、患者さんの感情の抑圧の原因を見つけ出してその方のペースで向き合っていただく、という診察をしています。患者さん自身がそうした抑圧を意識し、「それは過去のことである」と実感し、きちんと言葉にし、他者に語る。そうして治療者の共感を得たりしながら感情を感じ直すことで、きちんと昇華していくように促すんです。診察だけでは時間が短いので、当院では民間のカウンセリングルームとも提携し、カウンセリングのご提案もしています。現在の精神科医療では、症状に応じたお薬の処方が中心ですが、お薬は最小限にとどめ、あくまでも患者さんの感情を重視した診察と治療を大切にしています。
「感情の抑圧」の原因とは?
幼少期の親との関係が原因になっていることが非常に多いです。親に虐待されたり否定や支配されて育った方、親からの過干渉で自分の思いを言えずレールを敷かれて育った方、良い子でいることを頑張りすぎた方、ネグレクトされてきた方。いろいろなパターンがありますが、感情の抑圧や麻痺が見られる方は、そういった親子関係が影響しているケースがほとんどです。あとは学校生活でのいじめや傷ついた体験、社会に出てからのパワーハラスメントやパートナーシップ、さまざまな局面での経験から感情を抑圧していることもありますね。生まれ育ちや家庭環境を縦糸とすると、学校や社会生活で出会う人・出来事が横糸となり、縦糸と横糸が重なり合う中でその患者さんにゆがみが生じたところやトラウマが、これまでの人生を語っていただく中で見えてきます。診察を重ねるうちに点と点がつながり、いまつらく感じていることの大本の原因が見えてくるのです。
患者さんと向き合う際に大切にされていることは何ですか?

私の恩師から教えていただいた「人の心を癒やすのは人の心である」という思いです。現代の精神科医療においては、「診察の際には素の自分ではなく診察モードに入ること」がほとんどです。医師は自分のことを話さず患者さんとの間に一線を引いて診察を行う、というのが一般的なんです。医師が自己開示をすることも、そうそうありません。そんな中で、当院が行っていることは真逆です。もちろん“医師と患者”という関係ではありますが、“人と人”の出会いだと私は考えています。ですから、自然体で話を聞き、関係性ができてきた時には、私自身の話もします。決して長くない診察で、私だけが話すのは良くないので控えることも多いですが、何も包み隠さず向き合うことが、患者さんにとっても話しやすさにつながると思っています。
医師であり患者であったからこそたどり着いた本質
先生はなぜ精神科医をめざされたのですか?

私は長野県出身で自然に囲まれて育ちました。私の最初の記憶が3歳頃の「人って死んだらどうなるんだろう?」でした。考え込んで怖くなったことを今も覚えているんです。実家は医師ではなく、スキーホテルを経営していましたが、小さい時から生きることや死ぬことについて考えるような子どもでした。高校時代にはメンタルの不調もあり、不登校にこそならないものの「もう学校やめる!」と言い出して調子が悪い時期に、神谷美恵子先生の本に出会ったんです。岡山県のハンセン病療養施設に勤務されていた精神科医の先生で、極限状況の患者さんが生きるための希望について描かれていました。この本に衝撃を受けて、精神科医の道をはっきり意識するようになりましたね。
現在は独特の考え方で精神科医療に取り組んでいらっしゃると思います。何かきっかけがあったのでしょうか?
やはり、私自身が過去にメンタル不調を繰り返していたことですね。医学生になってからも親とのことや思春期の悩みが重なり不安定になってしまい、3年ほど精神科に通院したんです。大学で授業をされていた精神科の先生に信頼感を覚えて、「助けてください」と突然医局に押しかけたところから、その先生の外来に通い始めました。私は、医学生として学びながら患者の立場としても精神科医療に関わるようになりました。先生は大学講師でお忙しい中親身になってくださり、薬の処方もありました。医療を学ぶ者としては当然の対処として理解できますし、ありがたく感じていましたが、患者としては「薬の“粒”を飲んでも、今の自分の苦しみが根本的に解決することはないんだ」と実感したんです。その経験や想いが、私の診療方針の根本にありますね。
とてもフランクにご自身のことをお話しいただけるのですね。

いつもの診察もこんな感じなんですよ。29歳の時に症状が悪化し、3ヵ月ほど精神病院で入院生活を送り、何人かの精神科医の先生に診ていただく中で、現代の精神科医療では“届かない領域”があることを、患者として身をもって痛感しました。そんな私の救いになったのが、「自分自身と向き合い、感情の抑圧に気づき表現して昇華していく」ということでした。現在の精神科医療では、医師は自分自身の問題は一旦脇に置いて患者さんを診るのがスタンダードです。そうではなく「治療者が自分の問題に向き合って初めて、患者さんの人生に向き合うことができる」と教えてもらいました。恩師のもとで学ぶ中で、私の場合は、幼い頃から褒められることでしか自分の価値や居場所を見出せなくなり、頑張りすぎて何度も潰れていたことがわかりました。今でも自分の課題はたくさんあるので、向き合う努力を続けています。
どんな日常の困り事も気軽に話せるクリニックに
こちらには先生がお二人いらっしゃいますが、「竹内先生ならでは」なのはどんな点でしょうか。

私は何度か休職して社会からドロップアウトしたこともあり、患者さんの気持ちを理解できることが特徴かと思います。経験したからこそ、復職の支援を必要とする患者さんに寄り添ったサポートが可能です。それと、恋愛や結婚による仕事への影響、出産など、女性特有のライフステージの変化に伴う問題に関してはお話しいただきやすいのかなとも思います。「自分の子どもがかわいいと思えない」「子育てが苦しい」「夫との関係や、しゅうとめとの関係に悩んでいる」など、私自身も仕事をしながら結婚して子育てしているので、1人の女性として経験してきたことを踏まえてお話ができると考えています。
お忙しいと思いますが、ストレスはどのように解消されていますか?
診察をストレスに感じることがあまりないのかもしれません。毎日私の部屋に知り合いが話をしに来るような感覚です。目の前でご夫婦がけんかをされたり、過去のトラウマを打ち明けて涙されたり、毎日いろいろなことがありますが、相手を友人のように思い、話を聞き、言葉をかけています。それと、当院ではカウンセラー養成にも関わっています。私自身がいろんな人に助けられ生きてきて今それを還元している感覚ですが、カウンセリングを受けてきた患者さんが、ご自身の経験を踏まえてカウンセラーをめざしたり学びへの意欲を持っていただけると、すごくうれしく感じて応援していますね。そういう人の輪が広がっていくのも喜びです。
読者へのメッセージをお願いします。

どんな些細なことでもお話ししに来てください。恋愛、女性のキャリア形成、子育て、親との同居、生理前のイライラなど女性ならではのお悩みもお話しいただきやすいと思います。もちろん男性の患者さんでもご相談ください。メンタルクリニックは何も特別な場所ではありません。「こんなことで受診してもいいのですか?」と仰る方が時々いますが、全然大丈夫ですよ。皆さんの生活の中でのお困り事を気軽にお話しいただける場所でありたいと思っています。