飯田 智哉 院長の独自取材記事
巡る診療所
(札幌市手稲区/星置駅)
最終更新日:2025/01/09

札幌市手稲区にある「巡る診療所」は、在宅医療専門のクリニックだ。内科、緩和ケア内科を標榜し、あらゆる症状を在宅で診てくれる。院長の飯田智哉先生は、勉強熱心で在宅医療に情熱を持つ先生だ。患者のニーズに応え、在宅医療が受けられなかった地域にも赴きたいとクリニックを開業。札幌市、石狩市、小樽市と3つの市を中心に、在宅の患者のケアを行う。小樽市で小児科医として開業している双子の弟と切磋琢磨しながら、自己研鑽を積んできた飯田院長。「在宅でも患者さんの希望をかなえられるはず」と、在宅医療の可能性を信じて診療にあたる。そんな飯田院長に、注力する緩和ケアについてや、在宅医療の意義についてじっくり聞いた。
(取材日2024年12月02日)
患者の希望をかなえる在宅医療を
クリニック名に込めた思いやコンセプトをお聞かせください。

当クリニックは在宅医療専門のクリニックです。「巡る診療所」という名前は、土地を巡り、人と巡り合い、その土地に愛される診療所になりたいという想いでつけました。在宅医療と聞くと、「できることに限りがあるのでは?」と思う方も多いかもしれません。ですが僕は在宅医療の可能性を信じています。24時間365日、困ったときはなんでも診てもらえる存在として、患者さんやご家族を支えていきたいです。
どんな症状でも訪問診療で診てもらえるのでしょうか。
ええ。僕自身がなんでも診られる内科医でいることが、患者さんにとって安心して在宅医療を受けられる条件だと思います。ほかの専門家につないだほうがいいケースは連携を取って進めますが、基本的にはすべての症状を診ますし診なければいけないという姿勢です。広く診られるということはそれだけたくさん勉強が必要ですが、それを大変だと思ったことはあまりないんですよね。いろんなことができるようになっていくことは僕にとっては喜びでした。
札幌市手稲区で開業を決めた理由はありますか?

第一に、在宅医療の担い手が足りない地域で開業することを考えました。僕は地元が小樽なので、小樽市にも行ける場所で、かつ石狩市と札幌市の3市にまたがって行けることがポイントです。在宅医療が浸透していない地域に行って、在宅医療の文化を広げていくことも僕たちの役割だと思います。
在宅医療ならではの難しさがあるのではないですか?
在宅医療は、患者さんに受け入れてもらうことがスタートになります。患者さんにとって意味がなければ、「次から来なくていいです」と言われてしまう厳しい世界です。だから、僕という人間を受け入れてもらい家に入れていただくということが在宅医療の第1歩なんです。もし駄目だったとしても、ほかの窓口で患者さんが医療を受けられるなら、それでもいいと思います。厳しい面もある在宅医療ですが、僕自身は本当に楽しく診療していますよ。病院に通うのは困難でも自宅なら医療を受けられる患者さんがいて、僕たちはそこに行って診療できる用意がある。看護師やケアマネジャーと連携しながら、地域としてそういった患者さんを見守っていく活動はとても意義があります。
医師は報酬以上の「ご褒美」をもらえる素晴らしい仕事
先生は緩和ケアにも力を入れているそうですね。

患者さんとご家族が望むかたちで最期を迎えることや、その過程をどうやって支えていくかが課題です。患者さんのご自宅でも、きちんとした医療が提供できると考えています。何より、ご家族の丁寧なケアはどんな医療にも勝ります。患者さんが家にいたいと望むなら、それが一人暮らしの方であっても僕たちはサポートして希望をかなえるだけですね。緩和ケアは生と死や看取りと切り離せない重いテーマですが、看取りの場面でつらいと思うことはあまりないんです。サポートできる自信がありますし、患者さんが望む医療を提供できるように日々スキルアップに努めているので、安心してご自宅で過ごしてもらえたらと思います。
診療で気をつけていることは何でしょうか。
こちらの意見を押しつけないで、相手のニーズに応えることです。ニーズは3種類あって、1つ目が在宅医療を受ける誰もが持っている「家にいたい」とか「痛いのや苦しいのが嫌」というニーズ。その中にもう少し個別の「ペットや家族と過ごしたい」や「庭を見たい」というようなニーズがあります。さらに、本人も気づいていないような3つ目のニーズもあります。それを見抜いてかなえることができれば、患者さんは「そんなことまでしてもらえるの」と感動してくれるでしょうし、「それができるならこんなこともできる?」という新たなニーズが生まれてくることもあるでしょう。僕たちは病院から出て患者さんの生活圏に入っていけるので、こういう深いニーズをかなえることができます。初診で40~60分程度かけて患者さんのニーズをじっくり確認します。それをかなえることが、僕たちが次回訪問する理由になるのです。
医師になって良かったと思う瞬間はどんなときでしょうか。

患者さんから「ありがとう」という言葉をもらったり、時には涙を流して喜んでもらえたり、そういった診療報酬とは別の「ご褒美」をもらえるのが医師のすてきなところだと思います。そういうご褒美が明日につながっていきます。それから、病院の先生から「飯田先生がいるから自信をもって患者さんを家に帰せる」と言っていただくこともありうれしいです。これまで在宅医療を受けられなかった地域の患者さんに在宅医療を届けることも僕たちの存在意義になっています。
なんでも診る内科医として真摯に患者や家族と向き合う
医師をめざしたきっかけをお伺いします。

僕と弟は一卵性の双子で、小学生の時に2人そろって病院に通っていました。その時の主治医の先生が素晴らしい方で、僕も弟もその先生が大好きで憧れていました。中学に上がると弟が医師をめざすと言い始めたので、弟と競うように僕も自然と同じ道へ。通院先の先生が僕たちの最初の目標だったので、弟はその先生と同じく小児科の医師になり地元の小樽で開業しました。僕はその先生の専門が内科だったので、全身のどんな症状でも診られることが医師の条件だと考え内科医を志しました。今も弟からは刺激をもらっていて、切磋琢磨し合える貴重な関係です。
開業前のご経歴をお伺いします。
大学1年生の頃から憧れて入った札幌医科大学の当時の第1内科では、消化器内科、血液内科、膠原病内科といろいろな経験を積みました。さらに、函館の端にある南茅部(みなみかやべ)という医療過疎地域で1年間勤務しました。誰も代わってくれる人がいない場所で、勉強することがそのまま患者さんに還元できるような環境の中で医師としての責任感が芽生えました。何よりも広く症状を診ながら経験値を積んだことが今の在宅医療につながっていると思います。
どうして在宅医療に進んだのでしょうか。

在宅医療に出会ったのは、在宅医療を行うクリニックに見学に行った時でした。その頃、僕は大学院でマウスを使った基礎研究に明け暮れていました。自分の子どもに「パパは何のお医者さん?」と聞かれた時に、診療もしていないので「おなかのお医者さんだよ」と自信を持って答えられなかったんです。そんな時に、自分よりも若い医師たちが在宅医療で患者さんや家族に必死に向き合っているのを見ました。彼らの真摯な姿勢が本当に新鮮で、医師としての成長を求めた僕は在宅医療の道へ進むことを決めました。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
病院で「この状況だと家には帰れないです」と言われることがあります。でも、大切なのは患者さんとご家族の気持ちです。ぜひ帰っていただいて、あとは僕たちでサポートしますから安心してお任せください。緩和ケア病棟がない地域では、がん患者の方が最期を迎える環境がまだまだ少ないです。まずはクリニックの存在を皆さんに知ってもらって、自宅で過ごしたい方の所に僕たちが伺いたいです。僕たち在宅医療の医師には、技術を磨きながら患者さんの希望をかなえる責任があると思っています。多職種とともに、患者さんの望むことを実現していきたいです。