田中 顕正 院長の独自取材記事
あべのこころの診療所
(大阪市阿倍野区/阿倍野駅)
最終更新日:2024/11/12
阿倍野駅から徒歩5分。「あべのこころの診療所」は、院長の田中顕正先生が2024年に開業した、心療内科・精神科を標榜する診療所だ。さまざまな場所で幅広い心の悩みに寄り添ってきた田中院長は、患者と長く関わりを持てる場所をつくりたいという思いで開業。「年齢で区切るのではなく、子どもの方から大人の方まで診察させていただき、心のサポートをしていきたい」と語る田中院長の横顔は穏やかで、言葉には確かな患者への想いがにじんでいる。そんな田中院長に、開業の経緯や診療方針、今後の展望について聞いた。
(取材日2024年10月10日)
患者に長く関わっていきたいという思いで開業
開業の経緯について教えてください。
大学を卒業して以来、複数の医療機関に所属して、心療内科・精神科全般に加えて認知症や発達障害、児童発達支援、緩和ケアなど、幅広い領域で研鑽を積んできました。開業を決めたのは、ちょうど周囲の開業が続いていて、今後の進路を考えるタイミングだと感じたからです。病院で働いていると異動もありますので、患者さんと細く長く関わっていくことが難しい部分があるんです。でも、自分のクリニックだったら患者さんとずっと関わりを持つことができて、診療が一段落した後に困った時にも力になれるのではと考えるようになりました。困っている方、悩んでいる方を子どもや大人で区切るのではなく、幅広くサポートできるクリニックをめざして、開業しました。阿倍野に開業したのはご縁があってのことですが、駅に近いながらも1本路地に入ったところにありますので、初めて来院される方にとっても入りやすい立地だと思っています。
開業されて1ヵ月ほどですが、患者層はいかがですか?
当院では、子どもから大人まで、幅広い世代の方にお越しいただいています。以前勤めていた病院では、子どもの方は小学生以降が多かったのですが、開業してからは幼稚園の年中~年長の患者さんも多いですね。大人の方の年齢もさまざまで、60~80代の方もいらっしゃいます。中には、ご家族で通ってくださっている患者さんもいますね。現在は、この周辺にお住まいの方と、少し遠い場所からお越しになる方が半々くらいですね。当院は最寄駅が谷町線なので、八尾や富田林とか、大阪府内からお越しくださる方も多いです。遠い方だと、大阪を縦断してくださる方や、兵庫の伊丹から通ってくださる患者さんもいます。主訴として多いのは、大人の場合はうつ病や適応障害、子どもの場合は発達障害やASD(自閉スペクトラム症)のご相談ですね。
先生が医師をめざしたきっかけについて教えてください。
親が歯科医師だったので、学生の頃は漠然と自分もそうなるのかなと考えていました。たまたま医学部に受かったので、医師になるかという感覚で(笑)。最初はいろんな患者さんを診ることができて長く続けていける診療科が良いと思っていたのですが、研修中に精神科の患者さんと接するうちに、考えが変わってきたんです。夜中にリストカットやオーバードーズで運ばれてくる方は、確かに生きづらさを抱えているのに、体の治療をする診療科ではそこを診てもらえていない部分があるのではないかと疑問を抱きました。困っている方がいるなら少しでも助けになりたいという思いで、精神科に進みました。精神科に進んでから、精神科の領域内でも認知症や子どもの診療については手が足りていないと感じ、働きながら経験を積んでいった次第です。
心の悩みを打ち明ける最初の窓口でありたい
先生の診療方針について教えてください。
僕の診療方針は、当院ででき得る限り患者さんお一人お一人に丁寧に対応することです。クリニックだとどうしても限界はありますが、せっかく勇気を出して来てくださった患者さんに「これは診られません」「あれも診られません」とは言いたくないという気持ちがあるんです。専門に特化すると多くの患者さんを断ることにつながってしまう。僕は、困っている方が目の前にいるなら力を尽くしたいと考えているんです。そのためにも、これまで幅広い症状を学んできました。当院は、心の悩みを抱えている方が最初に頼れる窓口でありたいという想いを持っています。もちろん、当院では対応しきれない場合は他の医療機関と連携したり、より良い治療につなげるサポートを行いますので、ご安心ください。
心療内科や精神科に行きづらいと悩んでいる方も多いのでしょうか?
昔と比べると大分違ってきてはいますが、やはり心療内科や精神科に通うことに対して抵抗があったり、自分が精神的な疾患になっていると認めたくないという葛藤をお持ちの方は多いです。悩みや不安だけでなく、そうした複雑な気持ちを抱えて来院される方が多いですので、まずは「よく来てくださいましたね」とお声がけをしています。せっかく一歩踏み出してくださったからには、僕らができ得る限りの協力はさせていただきたいと考えています。クリニックは患者さんの敵ではなく、お一人お一人の味方です。話をするだけでも不安が和らぐこともありますし、少しでも心が軽くなるようお手伝いします。まずはお話を伺うところから始めますので、本当に気軽な気持ちでお越しいただけたらうれしいです。
患者さんと接するときに心がけていることはありますか?
事前に問診票に記入いただいていますので、ある程度方向性を想定しながら診察するのですが、中には文章で書いてあるご希望と、実際に患者さんが内心で思っているご希望が違っていることも考えられます。ご自身でも明確になっていない不安や困り事に気づいていただきながらアプローチしていけるよう、お話を伺いながら方向性を整えていくことを大切にしています。そのためにも、まずは患者さんが抱えている気持ちを少しずつ伺って、どんなことに対して不安で、何をつらいと思っているのかを把握しながら、お一人お一人と関係を構築していくことが大事です。その上で、物の見方は一方向ではなくて他の見方もあるかもしれないとお伝えして、悩んでいることへの折り合いのつけ方、考え方や受け止め方について、一緒に考えていくように心がけています。
患者一人ひとりに寄り添い、でき得る限りのサポートを
先生がやりがいを感じる瞬間とは?
やっぱり、治療後に患者さんから感謝の言葉を頂けたときですね。相性の良い薬が見つかって治療をスムーズに進められたときなども、とてもうれしくなります。当院では子どもの方も受け入れていますので、長く通院していただく中で「大学の推薦入試に受かりました」と報告いただくこともあります。以前勤めていた病院で診ていた患者さんが阿倍野まで来てくださって、こんな良いことがあったよと教えてくださった時や、「またお世話になりたいです」と声をかけていただいた時は、医師冥利に尽きるとはこのことだなと思いました。
今後の展望について教えてください。
そうですね。まだ開業したばかりですので、自分の体調管理と家庭も大切にしながら、細く長く続けていきたいと思っています。理想としては、ゆくゆくは新たにスタッフを雇って、院内で心理検査をできるようにしたいという気持ちがあります。とはいえ、こぢんまりとしたクリニックですし、クリニックには地域で求められている役割や相性があるとも感じています。来院してくださる患者さんにとって一番良い環境になっていけるように、診療を続けながら柔軟にニーズに対応していき、クリニックとして成長していきたいですね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
当院では、患者さん一人ひとりに対して精いっぱい丁寧な対応をさせていただきたいと考えています。何か悩みがおありだったり、苦しい気持ちを感じているならば、一人で抱え込みすぎないでください。まずはその相談先の一つとして、当院をご検討いただけるとうれしいです。医師との相性もありますので、もし当院がちょっと違うなと思われた方には、ほかの医療機関の紹介もしています。心理検査や発達障害の診断は連携機関と協力して行っていますし、休職の診断書や傷病手当金の診断書は即日発行が可能です。各種手帳の申請など、患者さんが療養に専念しやすくなるよう、さまざまな制度の利用についてもサポートしています。家庭や仕事、対人関係、発達障害など、心の悩みを抱えている方は、お気軽にご相談ください。困っている方が地域で最初に頼れる窓口をめざして、力を尽くします。