黒澤 正志 院長の独自取材記事
Lino clinic
(福岡市中央区/赤坂駅)
最終更新日:2025/04/30

福岡市地下鉄空港線・赤坂駅から徒歩5分、2024年秋にオープンした「Lino clinic(リノクリニック)」。院長を務める黒澤正志先生は、産婦人科や産業医学に精通し、また精神科専門医や日本精神神経学会精神科専門医や精神保健指定医、認知症サポート医でもある。豊富な知識と経験を生かして、丁寧に相談に乗ってくれる。同院は「誰かに相談したいと思ったときに気軽に来られるクリニック」をコンセプトに、土日も含め、毎日20時まで診療をしている。院名の「リノ」は、「光」や「輝き」という意味のハワイ語で、「患者さんの人生が輝くように」という願いが込められているという。穏やかで安心感のある黒澤院長に、これまでの経緯や診療で大切にしていること、今後の展望などを聞いた。
(取材日2025年3月5日)
「人の心と向き合いたい」と医師を志す
医師を志したのはなぜですか?

小学生の頃から漠然と「お医者さんになりたい」と思っていました。体調が悪いときに病院へ行くと、優しい先生が診てくれて、安心した記憶があります。咳込んでつらい時に処方してもらう咳止めシロップの味も好きで、病院に対してネガティブなイメージを持ったことがありませんでした。高校生になると精神医学や心理学の著書に興味を持ち、学びたいという気持ちも芽生えました。医師になれば医学とともに人の心にも向き合えると考えたのが、医学を志したきっかけです。加えて、大学が家から近かったというのも進学の決め手の一つです(笑)。
医学部に進んでみていかがでしたか?
私が進学した産業医科大学のカリキュラムは、その名のとおり産業医や産業医学の研究者を養成することを主な目的として編成されています。そういった背景もあって、3年生になり、研究室に配属される際に産業保健分野を選びました。そこでは、指導教官に連れられて企業の講演会などに同行し、社員の方々にリラクゼーション法を教えたり、メンタルヘルスや会社員の自殺の要因について学んだりする機会がありました。もともと心理学や精神医学に興味があったこともあり、この経験は私にとって大きな影響を与えました。ただ病気を治療するだけでなく、従業員が休職に追い込まれず、心身ともに健やかに働き続けられるようにするための「予防医学」の考え方にも強く惹かれました。
産業医学、予防医学の考え方が今に生きているんですね。

もともとは産業医学を深めていくつもりでしたが、5年次の臨床実習、いわゆる「ポリクリ」で産婦人科を回った際、帝王切開で赤ちゃんが誕生する瞬間に立ち会ったことで変わりました。その方は「中隔子宮」という、子宮の内腔が左右に二分される疾患を持っており、手術中に見えた子宮の形がまるでハートのようだったんです。そのハート型の子宮から新しい命が生まれる光景に心を奪われてしまいました。さらに、医師として何か手技を身につけたいという思いもあり、卒業後は産婦人科に進むことにしました。指導してくださった先生方は、穏やかでありながら情熱的で、患者さんに優しく丁寧に接し、緊急時でも冷静で頼りになる存在でした。そんな尊敬できる先生方のもとで、約5年の経験を積みました。
経験のすべてが、現在の診療に生きている
多くの経験を積まれているのですね。

その後、私はうつを発症して一時休職することになりました。復職はできたものの体力的につらくなってしまい、研修医時代にお世話になった精神科の先生に連絡し、その病院で働くことにしたのです。県内で見てもかなり患者数の多い病院でしたが、入院病床があったため「じっくり診ていいよ」と言ってもらえ、患者さんとしっかり向き合いながら診療することができました。まるで「ともに生活する」ような感覚で関わることができたのは貴重な経験でしたね。また、その病院は急性期から慢性期まで幅広く対応しており、患者さんの症状の変化や長期的な経過を見られたことも、現在の診療に役立っています。産婦人科での経験も、PMSや更年期障害、産後うつなどの患者さんを診る際にとても役立っていますし、精神疾患を持つ方が妊娠した際の薬の使い方などにも生かされています。
クリニックについて、思いやこだわりなどをお聞かせください。
精神科に勤務して数年たった頃「そろそろ開業しよう」と考えるようになりました。開業にあたり特にこだわったのは、「アクセスしやすく、気軽に通えるクリニック」であることです。メンタルクリニックは初診まで1ヵ月以上待つことも珍しくなく、受診を決意したタイミングですぐ相談できる環境を整えたいと思いました。そのため、複数の医師で診療体制を整え、予約枠も多めに確保。仕事終わりや土日しか通えない方のために、平日・土日問わず休診日なしで20時まで診療しています。内装も落ち着いたオレンジ系の色合いを基調にし、待合室にはパーティションを設けるなどリラックスできる空間を意識しました。完全予約制で、患者さん同士ができるだけ重ならないようにも配慮して、安心して通院できるようにしています。
どのような患者さんやご相談が多いですか?

この地域は生産年齢人口が多く、仕事をしている方の相談が比較的多いのが特徴です。特に適応障害の相談が多く、業務量の多さ、仕事のミスマッチ、人間関係の悩みなどが主な原因となっています。職場に行こうとすると涙が止まらなくなったり、動悸がしたり、朝になると頭痛や吐き気で動けなくなるといった症状から異変に気づくケースが多い印象です。もちろん、仕事の悩みに限らず「彼氏と別れて落ち込んでいる」「パートナーの浮気で眠れない」など、どんなことでも気軽に相談できる環境を整えています。熊本県で勤務していた際に、地震後に避難生活を送った方が、落ち着いた頃にバーンアウトの症状を訴えるケースもありました。災害時は無意識に気を張っていても、状況が落ち着くと心身の不調が現れることはよくあるんです。
どんな悩みでも、気軽に相談してほしい
診療において、先生が大切にしていることを教えてください。

患者さんが安心して話せるよう、リラックスした雰囲気を大切にしています。診察では、患者さんの話が診断や治療の大きな手がかりになるため、ゆっくりと気持ちを整理できるよう寄り添うことが大事です。無理に話してもらおうとはしませんが「焦らなくて大丈夫」「ここでは安心して話して良いです」と伝え、秘密は守られるという安心感を持ってもらえるよう常に配慮しています。私自身、過去にうつで休職した経験があるため、気持ちが追いつかず焦ってしまうことがどれほどつらいか、よく理解しているつもりです。自分の経験が、同じ悩みを持つ方の手助けになればと、患者さんが心のゆとりを取り戻し、少しずつ前に進めるよう、共感といたわりの心を持って話を聞いています。
今後の展望とお聞かせください。
これからも診断や治療の精度をさらに高めていきたいと考えています。特に発達障害は、かつては子どもの病気と考えられていましたが、近年では大人にも見られることがわかり、社会的な理解も進んできました。より正確な診断や適切な説明ができるよう、引き続き学びを深めていきます。精神疾患全般にいえることですが、患者さんが一人で解決できるものではないため、適切な道筋を示すことも重要です。例えば発達障害の可能性がある方には、専門の機関で詳しい評価や治療が受けられるよう案内したり、リワークを希望する方には職業訓練施設につないだりなどして、支援の幅を広げたいと考えています。現状ではまだ十分にできていませんが、今後はより多くの専門機関と連携を深め、患者さんが適切なサポートを受けられるようにしていきたいです。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

現在は開業してまだ間もないということもあり、比較的予約が取りやすい状況です。さらに新しい医師を迎えることも決まっており、より多くの患者さんに気軽に来ていただける環境を整えています。心療内科が初めての方や「こんな症状で受診して大丈夫かな」と迷う方には、ウェブでのお問い合わせフォームもご用意しています。仕事をしている場合、傷病休職や傷病手当などの制度は、初診日からしか適用されないことが多いので、仕事を休んでからではなく、早めの受診をお勧めします。「人間関係がうまくいかず仕事がつらい」「落ち込んで何も手につかない」「眠れない」……、そんな心や体の不調を感じたときは、一人で抱え込まず、どうぞお気軽に私たちに相談してください。