阿部 和幸 院長の独自取材記事
ミル在宅クリニック鎌ケ谷
(鎌ケ谷市/鎌ヶ谷駅)
最終更新日:2024/09/26
2024年8月に開業した「ミル在宅クリニック鎌ケ谷」は、千葉県鎌ケ谷市を拠点としながら、市川市・船橋市・白井市・松戸市を中心に半径16キロ圏内を対象に訪問診療を行っている。呼吸器内科を専門とする院長の阿部和幸先生は、岩手県出身のドクターだ。震災後の岩手県の医療に従事し、被災した病院での勤務を通じて、患者一人ひとりの心に寄り添うケアに注力。診療を続けていく中で「患者さんの人生を最後まで支えたい」という思いが強くなり、在宅医療を専門とするクリニックを開業した。「患者さんの“その人らしさ”を尊重する医療を届けたいですね」と優しい笑顔で語る阿部先生に、訪問診療に対する思いや、今後の展望についてたっぷり語ってもらった。
(取材日2024年9月4日)
あらゆる患者に対応する在宅医療をめざして
こちらを開業する前は、岩手でご研鑽を積まれてきたそうですね。
はい、2024年3月まで岩手におりました。岩手県で生まれ育ち、岩手医科大学大学院を修了して医学博士を取得。震災後は岩手県の医療に従事し、呼吸器内科を専門としながら、総合内科としても幅広い治療経験を積んできました。がん治療から生活習慣病、循環器疾患、消化器疾患、神経疾患など、幅広い分野の経験があることが、私の強みと言えます。岩手での診療が落ち着いたことを機に、「東京での医療に携わり、さらなるスキルアップを図りたい」と強く思うようになり、新たな挑戦に踏み出しました。
なぜ在宅医療専門クリニックを開業しようと思ったのですか?
患者さんの人生を最後まで支えるために在宅医療に携わりたいと考えました。これまで呼吸器内科医として大学病院で長年にわたって抗がん剤治療を行ってきました。呼吸器内科の患者さんは、完治が難しい方が多くいらっしゃいます。そのため、治療を続ける中で「家に帰りたい」という患者さんの声をよく耳にしました。しかし、在宅医療や緩和ケアの制度が十分整っていない地域では、患者さんの希望どおりに治療することができません。大学病院が医療の前線だとすると、在宅医療は後方支援の役割だと考えています。「患者さんの希望する医療を届けたい」「私も後方支援を行いたい」と思うようになり、在宅医療を専門とするクリニックを運営することになりました。
「在宅医療」について詳しく教えていただけますか?
在宅医療は、病院に通うのが難しい方にとってたいへん有益な選択肢です。病院に行くと長い待ち時間や車いすでの移動が負担になることが多く、介護タクシーを利用するのも経済的負担が大きい場合があります。そのため、在宅医療のニーズが近年広まっているのです。在宅医療は重篤な患者さんが利用されているイメージを持っている方が多いかもしれません。しかし、実際には家の中では歩ける方やお家にいることが好きな方、普通に会話できて元気な方も対象です。当クリニックでは、血圧の薬の処方やインスリン治療が必要な方をはじめ、さまざまな患者さんに対応しています。「在宅医療が気になる」「この治療も在宅でできるのかな?」といったちょっとした相談でも構いませんし、アドバイスもいたします。ぜひお気軽にご相談ください。
患者の「その人らしさ」を尊重する医療を届けたい
クリニック名の「ミル」には、在宅医療への想いが込められているそうですね。
はい。「ミル」は「診る」という意味で、当クリニックでは「すぐミル・よくミル・だれでもミル」という「ミル3か条」掲げています。まず「すぐ診る」ですが、24時間365日対応可能です。夜間でもお電話いただければ迅速に対応できるため、患者さんやご家族も安心していただけるのではないでしょうか。次に「よく診る」についてですが、一人ひとりの患者さんに寄り添い、対話を通じてその人らしさを尊重する医療を届けたいと考えています。高齢の方が多い在宅医療では、単に医学的な正しさを押しつけるだけでは成り立ちません。患者さんの希望を理解した上で治療することで、その方の人生を応援することになるのだと思います。患者さんの希望と医学的見地のバランスをうまく取りながら医療を提供していきたいですね。そして「誰でも診る」は、私の幅広い領域での経験を生かし、さまざまな患者さんのニーズに対応できることを指しています。
患者さんだけではなく、ご家族へのサポートも手厚いと伺いました。
在宅医療は、ご家族へのサポートも非常に重要です。私たちは医療的な部分をサポートできますが、精神的な部分のサポートはご家族に勝るものはありません。しかし、患者さんを自宅で看ることは、ご家族にとって負担となるのも事実です。私たちはご家族の方が安心して相談できる環境を提供することで、その負担を少しでも軽減したいと考えています。ご家族の方の協力なくして在宅医療は完遂できないため、患者さんはもちろん、ご家族の方にも意識して寄り添うようにしています。
今後、どのような患者さんに利用していただきたいですか?
私が呼吸器内科専門ですので、呼吸器及び循環器の疾患がある方は、一度ご相談いただければと思います。また、従来の在宅医療は薬を処方するだけでしたが、近年は進化しており、携帯型の超音波(エコー)診断装置などもあり、当クリニックでも導入しています。さらに腹部や肺の水抜き、点滴、注射など、さまざまな処置がご自宅で受けられます。今は、病院に足を運ばなくても、必要な医療を家にいながら受けることができる時代です。今後もさらに設備を充実させ、より多くの患者さんに安心してご利用いただけるよう努めてまいります。
地域医療の強化を図り、安心して治療を受けられる町に
先生の得意な診療を教えてください。
私の得意な診療分野は在宅酸素療法です。この療法は、特に心臓や肺に疾患がある方において、体内の酸素供給が不十分な場合に使用されます。酸素療法は、外部から適切な量の酸素を供給することで、体内の酸素レベルを維持し、患者さんの生活の質を向上させることが可能です。私の経験と専門知識を生かし、患者さんに適切なケアを提供しています。
仕事を通じて、一番やりがいを感じるのはどんなときですか?
患者さんやそのご家族から感謝の言葉をいただいたときです。患者さんが求めることに可能な限り応えられたときに、良い仕事ができたと実感します。特に、自宅で最期を迎えたいと望んでいた患者さんをお看取りした時は、語弊があるかもしれませんが、役に立てたと思います。通常、医師にとって「死」は避けたい結果ですが、患者さんの希望をかなえられるという点では、医師冥利に尽きるといえるのではないでしょうか。また、終末期の患者さんを在宅で看取るということは、急性期医療の現場に余裕を持たせ、地域全体の医療体制の安定にも寄与しています。このように、患者さんの希望に寄り添いながら地域医療に貢献できることは、私にとって大きな喜びです。
将来的に取り組んでみたいことを教えてください。
地域での医療勉強会を企画し、地域医療の強化に取り組みたいと考えています。勉強会を通じて地域の医療関係者同士のつながりを深め、地域医療を確固たるものにしていきたいですね。また、大きな病院での勉強会にも積極的に参加し、急性期医療との連携を強化することもめざしています。医療を一元化せず、全体的に連携を深めることで、地域の医療が強化され、患者さんもより安心して治療を受けられる環境をつくりたいと考えています。