宮澤 森太郎 院長の独自取材記事
富士見こだまクリニック
(ふじみ野市/ふじみ野駅)
最終更新日:2025/02/26

ふじみ野駅より徒歩5分の場所にある「富士見こだまクリニック」は、新座市に構える新座こだまクリニックの分院として開院。本院同様に、各医師をはじめ、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、地域包括支援センターなど、多職種連携による訪問診療を主軸にしたクリニックだ。宮澤森太郎(みやざわ・しんたろう)院長は、リハビリテーション医療の分野で研鑽を積んできた専門家。そのため、内科、精神科、皮膚科に加え、リハビリテーション医療もカバーできる環境が構築されている。患者やその家族がどうしたら幸せになれるかを常に考え、寄り添い、緊急時は24時間365日体制で駆けつける。「以前は病院でしか受けられなかった治療も、ご自宅で受けられる時代になりました」と、力強いまなざしで話す宮澤院長。その在宅医療にかける情熱にふれた。
(取材日2024年9月9日)
リハビリテーション医療までカバーした在宅医療を軸に
こちらは新座市にある本院の分院とのことですが、院長に就任された経緯からお聞かせいただけますか。

本院の新座こだまクリニックの児玉奥博院長からお声がけいただいたのがきっかけです。そもそも児玉院長と知り合ったのは、私が経営している飲食店に来てくださったのが最初の出会い。さまざまな医療関係者の方がご利用くださっていたのですが、児玉院長ともそのご縁で親しくさせていただくようになり、声をかけてもらいました。私自身、地域医療に携わりたいと思い、小児のリハビリテーションをはじめ、脳卒中などの方に施すリハビリテーション医療の研鑽も積んでいましたので、お声がけいただき、自分の望んでいた道を歩み出せることになりました。リハビリテーション医療は身体の機能に働きかけることが多い分野ですが、以前から身体機能と精神の機能を切り離して考えることは難しいと感じていたんですね。そんな中、精神科の領域は児玉院長の得意分野ですので、私と児玉院長の専門領域を組み合わせることが患者さんも自分もプラスになると思ったんです。
飲食店経営と医師の二足のわらじを履かれていることにも驚きました。
飲食店に関してはスタッフの支えがあってこそなのですが、なぜ飲食店に着目したかというと、多職種の人が集い楽しめる場所であることが一つ。そして、私の専門であるリハビリテーション医療の分野は、理学療法士や作業療法士の力が不可欠なので、そのネットワークづくり。さらに、医療の枠にとらわれない、さまざまな職業の方とのコラボレーションにも役立つのではという期待もあります。私の専門領域には、食べ物を飲み込む力が低下した嚥下機能に関するアプローチが必要な患者さんが多くいらっしゃいます。将来的には、そのような飲み込む力や体の機能が低下した方も、心置きなく楽しめる飲食店にできたらと考えています。
では、数ある診療科の中でリハビリを専門に研鑽を積まれたのは何かきっかけがあったのですか?

他の診療科と比較すると、リハビリテーション科を専門にするドクターは決して多くはないと思うのですが、私の場合はスポーツが好きだったことがきっかけでした。10年ほどバレーボールに取り組んでいたことから、筋肉や神経の機能など、人間が体を動かすにあたって必要となる機能や臓器に興味を持っていました。リハビリを専門とする医師は急性期病院でも治療を行いますが、その後の回復期や慢性期の病棟、そして在宅医療が大きな舞台となりますので、私はその中でも在宅医療の分野に取り組んでいきたいと思っていたことと、このクリニックのお話をいただいたタイミングがうまく重なり、分院長を務めさせていただく運びとなりました。
在宅医療で最優先すべきは患者や家族が望む医療の提供
地域医療、そして在宅医療のどのような点に魅力を感じられたのでしょう。

回復期病棟でのリハビリテーション診療の経験もあるのですが、そこでは自宅復帰をめざすために行うことが多く、入院中に患者さんのご自宅にお伺いして、退院後の生活を見据えた環境のセッティングを行う機会が多々ありました。そこに仕事上のやりがいを強く感じたことが、地域医療や在宅医療の魅力につながったと思います。当院の開院前に、半年ほど新座市の本院で勤務を開始したのですが、訪問診療なので内科的な全身管理にも携わる機会が多く、刺激の連続でした。特に本院の児玉院長は認知症の患者さんも多く担当されているので、在宅医療でなければ得られない気づきのある経験を積ませていただきました。リハビリテーション分野においても精神科領域のアプローチを必要とすることがありますので、自身の今後の診療でも強みとなる持ち球を増やせているという実感があります。
こちらでの診療を開始された今、本院との違いを感じることはありますか?
この辺りは本院のある新座市と比べると、医療資源不足が否めません。そのため、困っていらっしゃる患者さんが多いことはすでに感じていますので、今後より在宅医療のニーズが高まってくるのではないかと思います。実際にご自宅へお伺いし、所謂リハビリテーションが可能か否かの環境を確認をさせていただくと、多職種連携を行うための土台づくりの必要性を感じるケースもあったので、そのあたりも含めしっかりと整備していくところから始めていきたいと思っています。対象エリアは、ふじみ野市周辺を中心に、徐々に拡大予定です。ご相談いただければ、可能な限り柔軟な対応を取らせていただきます。
実際の訪問診療の流れについても教えてください。

まずはご家族やケアマネジャーさんからのご相談に対し、ご自宅の環境調整を行い、治療計画を立てます。そして、訪問看護師、介護ヘルパー、市の職員といった方々と連携しながら診療を実施します。この多職種連携がないと訪問診療は成り立ちません。医療機関と違って、各ご家庭の環境や患者さんの状態というのは本当にさまざま。良い環境は患者さんによって異なります。そんな中でも一番大事にしているのは、患者さんやご家族のご希望を最優先に考えること。それを実現することが難しいケースもありますが、サポートするわれわれの意見が優先されるべきではないと思っていますので、ご希望をかなえられる環境に可能な限り近づけることに力を尽くします。
自宅で医療を受けることを諦めないでほしい
患者さんのご希望という点においては、「人生会議」という言葉も耳にするようになりました。

ええ。人生の最終段階で受けたい医療ケアなどについて、患者さん、そのご家族、医療従事者などが繰り返し話し合う「人生会議」。最初からうまく希望を伝えられない方もいらっしゃいますし、人の気持ちは変化を伴うものですから、繰り返し話し合うことが大事なんです。日頃のコミュニケーションの中から感じ取ったり、一緒に生活されているご家族の声にも耳を傾けながら、患者さんとの関係性を少しずつ築いていく。そういった時間を経て、やっとご本人が本当のお気持ちを伝えてくださることも少なくありませんので、そのお気持ちに、いかに寄り添えることができるかが私たちには求められます。
認知症の患者さんにはどのようなアプローチをされるのでしょう。
ご自身の感情をコントロールがうまくできず、ご家族にあたってしまう。そういったケースが多く見られますが、それはお互いにとって大きなストレスですから、医療者が行えるアプローチとして安定剤などお薬の処方や環境調整の提案をすることもあります。患者さんの状態にもよりますが、ご本人とご家族の幸せを一番に考えながら提案いたします。患者さんの状態やご希望は千差万別ですので、そこにお応えでき得る手段は備えているつもりです。お困り事があれば、気軽にご相談ください。
最後に、訪問診療を検討されている方やそのご家族へメッセージをお願いします。

在宅医療の情報や医療的な知識を得られる場所はまだ少ないと思いますので、在宅医療に対するご不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。しかし、皆さんが想像されている以上に、ご自宅で提供できる医療はたくさんあると思いますし、そのことを医師である私自身、日々実感しています。例えば、筋の痙縮などに対して行うボツリヌス製剤を用いた治療は一般的に急性期や回復期の医療機関で行うことが多いのですが、当院では訪問診療でも高い精度で実施できるよう、ポータブル筋電計を導入しています。このように、訪問診療の領域においても治療の幅はかなり広いのです。まずはご相談いただくことが最初のステップ。慣れ親しんだ自宅で療養できる手段はたくさんありますので、決して諦めないでいただきたいなと思います。