芦苅 大作 院長の独自取材記事
亀戸あしかりクリニック
(江東区/亀戸駅)
最終更新日:2024/10/09

亀戸駅北口から徒歩2分。真新しい医療モールの2階にある「亀戸あしかりクリニック」は、泌尿器科・糖尿病内科・内分泌内科・内科を診療科目に掲げ2024年に開業。長年大学病院で泌尿器科の診療を行い、病棟医長や医局長も努めた芦苅大作(あしかり・だいさく)先生が院長を務める。大学病院時代には泌尿器疾患の重症患者の診察や手術を数多く行う中、「初期診療の質を高くすることが医療全体のレベルを上げ、より多くの患者さんを治すことにつながる」と痛感したという。芦苅院長がこれまで研究と臨床の両輪で専門知識を深め、重ねてきた経験を初期治療に全投入しようと立ち上げた同院。医師であり研究者でもあった芦苅院長に、開業に至ったストーリーや、同院の特徴とめざす医療について、存分に語ってもらおう。
(取材日2024年9月11日)
前立腺がんと男性ホルモンの研究に注力
亀戸に開業されたのはなぜですか?

これまで大学の医局には15年間属していました。開業までの約5年間は御茶ノ水の日本大学病院で勤務していたんですが、そこで診ていた患者さんがJR中央・総武線で千葉方面からいらっしゃる方が多かったんですね。御茶ノ水って西側には大学病院も総合病院もたくさんありますが、東側には少なかったんです。それで、わざわざ御茶ノ水まではるばる通ってこられる患者さんの助けになればいいなと思って、ここを選びました。総合病院や大学病院だけでなく、泌尿器科自体も少なかったので、お役に立てるのではないかと思ったんです。また、この医療モールはちょっと変わっていまして、入居しているクリニック間で診診連携を行っていて、どこを受診してもしかるべきクリニックに紹介される仕組みになっているんです。
まるで大学病院のような構造ですね。それこそ先生はこれまでずっと大学病院にいらっしゃったんですよね?
おおよそ15年、ほとんどずっと大学の医療機関で臨床と研究を行ってきました。最初はがんなどをメインに診察して手術するような外科医師になりたくて、泌尿器科を選んだんです。泌尿器科は大きく2本柱に分けることができて、1つは前立腺がんや膀胱がん、腎がんなどのがん治療ですね。そしてもう1つの柱が排尿障害。おしっこに関わるトラブル全般です。私が専門的に研究を始めたのは、前立腺がんでした。入局した日本大学の泌尿器科の教授の勧めで、東京大学大学院の研究室に進みました。ただ、その講座は内科の所属で、男性ホルモンを研究するチームの前立腺がんの教室だったんです。なので、私の隣には糖尿病の研究者がいたり、その横では骨粗しょう症を扱っていたりして、合同の発表会や研究会などもあって、自然と視野が広がりました。また、研究だけではなく手術や外来の診察も担当し、実際に患者さんを診ながら論文を書くような4年間を過ごしました。
その後はオーストラリアに留学されたんですね?

前立腺がんをテーマに学位を取った後、メルボルンにあるモナシュ大学の研究室から声をかけていただいて、2年間行きました。そこが解剖学や病理学などを専門とする講座で、前立腺がん以外の研究をしている人たちがたくさんいたんです。ラボ内には前立腺肥大症やほかの前立腺疾患、内分泌ホルモンの研究者もいて、さまざまな新しい分野にふれることができました。教室では常に意見や見解を求められて、自分の言葉で主張せねばならず、そうした点でも鍛えられましたね。結局モナシュ大学では、前立腺がんのホルモン治療に関する論文を仕上げて帰ってきました。前立腺がんには男性ホルモンを利用した治療法が確立されているのですが、それで改善が図れない患者さんのメカニズムを解明し、次の世代の新しい治療薬の開発に注力してきました。
「重症化で大学病院」より、初期治療の質の向上が大事
そこまで前立腺がんと男性ホルモンに関してインプットし続けてきたのはなぜですか?

研究は目的ではなく、手段だと考えていました。そもそもの私の目標は、外科医師として手術を通してたくさんの人を治すこと。でも自分の手がける疾患に関して深い知識がなければ、ベストの医療を提供できないと考えていたんです。それで疾患一つ一つに対してきちんと知りたいと思って勉強するうちに、その中で男性ホルモンとがんのつながりに興味を持ち、さらに研究を深めることになったんです。だから帰国後は、それまで学んで得たことを臨床に生かす作業に注力しました。かなり深い知識を得たので、それを土台に実際に患者さんに向き合って、それぞれの方に合ったベストの治療を提供するということに重きを置き、診療や手術をメインに行ってきました。
大学病院で数多くの治療や手術を手がける中、どうして開業しようと思われたんですか?
大学病院では、町のクリニックやほかの病院から紹介された患者さんを診察することになります。そこで何度も何度も感じたのが、「なんでこんなになるまで放っておいたんだ」とか、「もう少し早くこちらに紹介してくれれば」とか「もっときちんとした初期治療を受けていたら」っていう思いでした。大学病院でたくさんの手術を行ってきましたが、力を尽くしてもうまくいかないことも非常に多く、紹介以前に町のクリニックを受診したときに、きちんと本当の問題点を見つけ出して、それに対するベストの治療が施されていれば、患者さんの予後をもっと良い状態にすることができるのではないかと痛感したんです。患者さんにとって最初の窓口となる医療機関の質をもっと上げないことには、医療レベル全体が上がってこないと思ったんです。
そこで、その役割を先生自身が担おうと考えられたんですね。

そうです。大学病院は本来、先進の医療を提供して患者さんの予後の改善を図っていく機関です。しかし実際はそうなっておらず、もはや大学病院ではないと手の施しようがない、という患者さんを受け入れることが多くなっていて。そうした事態を少しでも回避し、初期治療の段階で、より質の高い診断と治療を行って、適切に大きな病院に紹介できるよう、その立場に自分がなりたいと考えて開業を決意しました。
些細な違和感の中に重症が潜んでいることもある
クリニックを受診する患者さんの主訴は大学病院時代とは違いますか?

膀胱炎とか尿道炎みたいないわゆる感染症関係の患者さんが多いですね。皆さん「ありがとうございます」と笑顔で帰られるので、そうした日々の満足感は、大学病院では得られなかったものですね。ただそんな中に、実は重い病気が隠れていることもあるんです。それを見逃すことなくしっかり拾いながら、当院だけで完結するようなものはここで責任を持って治療を行うということが重要です。大学病院では良くも悪くも最後までお付き合いすることが多かったですから、患者さんが気づかないような重症度を見逃さないで大学病院につなぐのが、今の私の役割だと考えています。
糖尿病など、生活習慣病の患者さんも多くいらっしゃいますか?
そうですね。糖尿病は開業に先駆けて、大学の専門部署で経験を積んできました。糖尿病治療で大事なことは無理せず継続すること。診察室での治療というよりは日常の生活の見直しが重要ですが、例えば「1日の摂取カロリーを1600kcal以下にする」のが理想だとしても、急には無理ですよね。だからまずは一つ何かを意識する。フライ2個食べたいところを1個我慢するとか。間食は3時だけにするとか。昼寝の代わりにストレッチしてみるとか。現状に何かしら良い要素を入れて、とにかく良くなるために続けてもらうことを心がけています。
では、最後に地域の皆さんにメッセージをお願いします。

重症だと自覚して来院される方もいますが、多くの方はそこまでの覚悟はされていないと思います。でもそんな中に重病は隠れています。ちょっとでも何かあったら診せに来てください。例えばおトイレの回数が増えたとか、おしっこに違和感があるとか。そうした症状のほとんどは問題のないことのほうが多いんですけど、それでいいと思います。「大丈夫であること」を確認できれば、その後も長らく幸せに暮らしていくことにつながると思いますので。