難波 智津子 院長の独自取材記事
まっぷデンタルクリニック
(広島市安佐南区/古市橋駅)
最終更新日:2026/01/08
2023年、JR可部線・古市橋駅より徒歩約5分のエリアに開業した「まっぷデンタルクリニック」。快活な大阪弁がトレードマークの難波智津子院長は、飾らない人間味にあふれた人柄が魅力だ。同院では外来診療を歩いて通える範囲の近隣住民に対象を限定し、診療の9割を訪問診療が占めるという独自のスタイルを取る。高齢化が進む古市エリアにおいて「通えなくなっても最期まで診る」という覚悟を持って奔走する難波院長に、同院のスタンスや診療への思いについて話を聞いた。
(取材日2025年11月22日)
訪問診療メインで地域の高齢者に寄り添う歯科医院
はじめに、先生のご経歴とクリニックの概要について教えてください。

朝日大学歯学部を卒業後、香川医科大学(現・香川大学医学部)の口腔外科で研鑽を積みました。その後は大阪・沖縄・佐賀・広島などで、一般歯科や訪問診療に携わる勤務医として多くの経験を重ね、2024年3月に当院を開業しました。クリニック名にある「まっぷ」は、私の名前「智津子(ちづこ)」から連想した「地図(マップ)」に由来しておりますが、実は「まっぷ」は高校時代のニックネームでもあります。当院は少し変わったスタイルを取っており、診療の約9割が高齢者が入居する施設やご自宅に伺う訪問診療、残りの1割が外来診療です。そのため看板も大きく出しておらず、近隣の高齢者の方が「近所だから」と気軽に来られるような、完全地域密着型の歯科医院となっています。
なぜ高齢者歯科に注力しようと思われたのですか?
大学医局時代、同期たちが親知らずの難しい抜歯などの外科処置を進んでやりたがる一方、私はあえて有病の高齢者を担当しました。高血圧や血液疾患、糖尿病など全身疾患を持つ患者さんの歯科治療は、処置そのものはシンプルでも、服薬状況の確認や医科との連携、ご家族への説明など、事前の段取りや全身管理が非常に重要になります。そうした「全身を診る」アプローチ法や、患者さんの背景まで含めてサポートすることに、技術の研鑽とはまた違った面白さとやりがいを感じました。
歯科医師を志したきっかけは何ですか?

私は、父が歯科医師、母が薬剤師、祖父が歯科技工士という医療家系で育ちました。自宅の1階が父が運営する歯科医院の診療室だったので、幼い頃から歯科医療は生活の一部でした。そのため、歯科医師になることに何の疑問も抱かず、自然とこの道を選んでいました。父の歯科医院は弟が継いでいて、妹も歯科医師です。私は結婚・出産を経て、子育てを最優先にしながらも歯科医師としてのキャリアを継続する中で、自分らしく働けるスタイルを模索してきました。その結果、場所にとらわれず患者さんの生活の場へ出向く、今の訪問診療中心のかたちに行き着きました。
保険診療だけに限定し、他院と連携した歯科治療を提供
こちらのクリニックの診療内容を教えてください。

主に、近隣に住んでいるご高齢の方の虫歯治療やメンテナンス、義歯の調整などを行っています。生活保護受給者が多めの患者層や土地柄もあり、当日の急なキャンセルも「無理しないでね」と受け入れるなど、緩やかな診療スタイルで通いやすさを重視しています。診療の軸となる訪問診療では、半径16km圏内の居宅や介護施設へ伺っています。ポータブルのエックス線撮影装置や診療機材を一通りそろえているため、虫歯治療や抜歯などの外科処置、入れ歯の作製や修理など、院内とほぼ変わらないレベルの治療が可能です。また、単に歯を治療するだけでなく、飲み込み機能のチェックや、誤嚥性肺炎を防ぐための口腔ケア、食事形態のアドバイスなどの「食支援」にも注力しています。
自由診療ではなく保険診療のみで対応されていると伺いました。
当院では自由診療は行わず、すべて保険診療の範囲内で対応しています。これには「地域の歯科医院同士で共存したい」という思いがあります。審美歯科や矯正歯科など専門性の高い自由診療を希望される方には、近隣で得意な歯科医師をご紹介しています。患者さんを取り合うのではなく、各クリニックが得意分野を生かして連携することで、地域医療全体の質も高まると考えているからです。また、私自身が子育てを最優先にしているため、高額な設備投資をして収益を追うよりも、自分のできる範囲で誠実に医療を提供したいという考えもあります。通院が難しくなった方や保険診療内での治療を望む方を、私が責任を持ってサポートしていくスタンスです。
診療において大切にしていることは何ですか?

訪問先の施設においては、職員や看護師の方々と密に情報を共有し、患者さんのその日の体調や服薬状況、食事の様子を把握した上で治療を行います。例えば、食事の際のお口の機能や姿勢などを観察し評価する「ミールラウンド」を重視しています。むせ込みがある場合は、実際に食事の場面を観察し「ワカメは張りつきやすいので避けましょう」「もう少し小さく刻んだほうが良いですよ」などと、具体的な食事指導を行うこともあります。口の中だけを診るのではなく、その方の生活背景や全身状態に寄り添うことが重要です。患者さんのご家族とも協力し、チーム全員で患者さんの「食べる楽しみ」や「生きる力」を支えていくことを大切にしています。
歯科医療を広げていくため、公私ともに尽力
印象に残っている患者さんとのエピソードはありますか?

以前、施設で診ていた患者さんが入院され、病院側から抜歯を勧められた際、ご家族から「母の大切な歯を抜きたくない」と相談を受けたことがあります。医学的には抜歯も選択肢でしたが、ご本人は既に経口摂取が難しい状態でしたので、ご家族の「そのままの姿でいてほしい」という思いを尊重して歯を残すためのアドバイスをしました。その時は勤務医だったので患者家族さんの意向には添えませんでした。開業した後に、「退院後は先生に最期までお願いしたい」と依頼されました。すでにお食事ができる状態ではありませんでしたが、患者さんのお口を潤すために好きだったミカンの果汁をスポンジに含ませ口に入れるという方法をご提案しました。「最後に大好きだった味を感じさせてあげられた」と娘さんが喜んでくださり、ご家族が悔いなく見送れるようサポートできたことが、私の心に深く残っています。
診療のほかに、力を入れている活動があるそうですね。
大阪に本部を置くNPO法人の活動に参加し、年に1回、海外でのボランティア活動を行っています。これまでに3回参加しましたが、そのうち2回は息子も連れて行き文化交流ができました。日本とは異なる歯科医療を受ける機会に恵まれない環境で、現地の方々に関わることができるのは、私にとっても、また次世代を担う息子にとっても得がたい経験です。来年の秋からは参加頻度を年2回に増やし、より本腰を入れて関わっていきたいと考えています。歯科医師として地域医療に貢献するのはもちろんですが、こうした海外での支援活動があることも広く知っていただき、微力ながら国際的な貢献も続けていきたいですね。ほかにも里親活動を行っています。高校3年生の次男が背中を押してくれ、このたび里親講習を終え、登録が完了しました。
最後に、今後の展望を教えてください。

同じように訪問診療メインのクリニックを開業する先生の支援をしたいと思っています。実際、NPO法人の活動で知り合った先生からの紹介で、神戸在住の先生の開業支援をしました。開業に必要な届け出、材料器材の選定、手順、人脈を使っての材料店さんの紹介などを行いました。その先生は7月に開業され、時折相談を受けることがあります。また、後進の先生方の支援もしていきたいと考えています。

