田中 伸二 院長の独自取材記事
うみ・まちクリニック
(四国中央市/伊予三島駅)
最終更新日:2024/05/23

四国中央市三島地区にある「うみ・まちクリニック」。院長の田中伸二先生は、地域の中核病院であるHITO病院の病院長を経て、2024年4月1日に同院を開業した。HITO病院での形成外科、総合診療部門での24年にわたる経験を生かし、地域の患者の医療の窓口として幅広い診療を展開していきたいという。「これまでは手術などが必要な重症患者さんを中心に診てきましたが、今後はそこに至るまでの予防に力を入れていきたい」と話し、地域の人々の健康を守る「かかりつけ医」としての新たなスタートを切った田中院長に、病診連携や患者への思い、今後の展望などを聞いた。
(取材日2024年4月19日)
病診連携を推進する、地域のかかりつけ診療所
まず、開業に至る経緯について教えてください。

私は2000年に徳島大学病院の形成外科から四国中央市の石川病院(現・HITO病院)に赴任しました。それから24年の間に、日本の医療情勢も大きく変化しました。重症の患者さんや、救急は大きな病院で、症状が安定した患者さんは診療所で診るという病診の役割分担が明確になったんですね。HITO病院も地域の中核病院として外来患者さんが増えていく中で、症状が安定している患者さんは他院への紹介を進めていきました。ただ、患者さんとしては、ずっと診てもらっている医師のほうが安心して任せられますよね。私が当院を開業した目的もまさにそこなんです。HITO病院で診させていただいた患者さんの受け皿として、引き続き安心して通うことのできる診療所をつくりたいという思いからでした。
四国中央市内でも、三島地域に開業されたのはなぜでしょうか。
三島地域は四国中央市のちょうど真ん中に位置するエリアなので、三島地域の患者さんはもちろん川之江地区、土居地区などの患者さんもアクセスしやすいのではないかと考えました。またHITO病院や四国中央病院といった総合病院は川之江地域に集中しているため、地域の患者さんの入り口として、市の中心である三島地区に総合診療を展開することに当院の存在意義があると思ったんです。
先生は総合診療のご経験が豊富とのことですが、どのような診療をされるのでしょうか。

総合診療とは、特定の領域に限定することなく患者さんの全身を診る医療です。ですので、当院の診療内容も、風邪や腹痛、頭痛、倦怠感などの内科疾患の症状から、肩凝りや腰痛、肌のできものやイボなどの皮膚疾患、捻挫や切り傷などの外傷までカバーする、まさになんでも屋さんです。もともとは形成外科を専門としていましたが、HITO病院での勤務時代、総合診療部門を立ち上げることが決まり、当時の理事長のもとで私も幅広い診療を経験させてもらいました。そこで総合診療の医師として鍛えていただいたことが、当院の開業にもつながっています。「どの科を受診したらいいのかわからない」「だるさが続いているが原因がわからない」といったことでお悩みの患者さんも、気軽にご相談いただきたいと思います。
病気ではなく人を診る。全人的な医療を大切に
とても明るく爽やかな院内ですね。建物のコンセプトについても教えてください。

海が見えて、街がある。この場所を象徴するようなクリニックにしたいという思いがありました。待合室は、海の青を基調に、街の豊かな緑をあしらってゆったりと過ごしていただける空間を意識しました。院内は、待合室を中心に、診察室、処置室へのアクセスもスムーズにレイアウト。発熱症状に特化した外来は入り口を別に設け、ドライブスルー診察もできるようにしています。検査は血液検査やエックス線検査、心電図に対応しています。内視鏡やCTなどは置いていませんが、診察の上、必要と判断した場合は専門医療機関を紹介しています。また、車いすの方もストレスなく利用できる多目的トイレを完備しています。
診察において、心がけていることはありますか?
「病気ではなく人を診る」ですね。患者さんを診るにあたっては生活まで寄り添うことを大切にしています。私たち地域の診療所の役割というのは、治療だけではありません。大きな病院だと、忙しい外来の中でどうしても最小限の問診になってしまいますが、診療所は人対人の場所。「こんにちは」から始まって、生活で困っていることや悩みを聞いたり、時には趣味の話をしたり。日々の食事や行動、家族構成なども丁寧にお聞きします。特にご高齢の方はたくさんの病気を持たれていることもありますから、こまやかな問診の中でそれらを一つ一つ拾い上げることを心がけています。
医療と介護の連携にも力を入れているそうですね。

高齢化の進む地域の医療において、医療と介護は切っても切り離せません。HITO病院に勤務している頃から、私は四国中央市の医療介護の多職種連携事業に携わっています。多職種連携事業では、医療、介護、行政などの各方面からプロフェッショナルが集まり、在宅医療連携に関する課題に取り組んでいます。地域の人々が、病気を持ちつつも可能な限り住み慣れた場所で生活できるようにするためには、医療と介護の連携は欠かせません。今後は、当院でも在宅医療を展開し、患者さん一人ひとりの今とこれからを見守っていきたいと考えています。
予防医療から地域の人々の健康に寄り添う
医師をめざしたきっかけを伺えますか?

父親が小児科の医師で、夜遅くまで患者さんのために働く姿を幼い頃から見てきました。父はいつも忙しそうでしたが、その顔はとても生き生きとしていたのを覚えています。そのような姿を見て、自分も父のように医師になって人の役に立ちたいと思いました。それで、地元の徳島大学医学部へ進学し、医療の道を歩み始めたのです。卒業後は形成外科の医師として会津若松や高知の病院で経験を積み、再び徳島大学病院へ。石川病院(現・HITO病院)には、知人の先生からの紹介で赴任しました。
お忙しい日々だと思いますが、息抜きやご趣味はありますか?
休日は、妻と出かけることが息抜きになっていますね。私は日本酒が好きで、旅先の酒屋で銘酒との出会いを楽しむことも。四国は酒蔵が多く、地酒が非常においしいですよね。それから、私は高校・大学とラグビーに打ち込んでいたので、今もラグビー観戦をすると熱くなります。日本で開催された2019年のラグビーワールドカップは現地で観戦しました。
今後の展望をお聞かせください。

今後は病気に至るまでの予防の段階から、地域の人々に寄り添っていきたいと考えています。四国中央市で24年にわたり、たくさんの患者さんを診させていただきましたが、皆さん最期まで住み慣れた場所で暮らしたいという思いを持っていることを感じました。患者さんが望む生き方をサポートすることが、地域のかかりつけ医である私の務めです。高血圧症や高脂血症、糖尿病など生活習慣病を抱える患者さんの食事・運動指導にも注力し、健康寿命と平均寿命の差を縮めるための取り組みに励んでいきたいと思います。
では最後に、読者へのメッセージをお願いします。
頭痛、肩凝り、吐き気など、一見関係のない症状に見えても、実は共通する病気の症状であることがあります。私たち地域のかかりつけ医の役割は、そうした症状の一つ一つを総合的に診て、最善の医療へつなげることだと考えています。お困り事や悩み、不安、痛みなどをトータルにお聞きして、どう治療につなげていくか。相談の窓口として、私たちの存在を思い出していただけたらうれしいです。ちょっとした風邪や腹痛、腰や膝の痛み、高血圧症といった慢性的な病気まで、お体の不調はどんなことでもお気軽にご相談ください。