江竜 喜彦 院長の独自取材記事
たつのこキッズクリニック
(愛知郡東郷町/赤池駅)
最終更新日:2025/11/07
東郷町にある「たつのこキッズクリニック」は、深海魚をテーマにした独創的な内装が印象的な小児科クリニック。院長を務める江竜喜彦先生は、大規模病院のNICUや産婦人科などで20年以上の経験を積んだベテラン医師だ。勤務医時代は、目の前の命を救うために邁進していたが、病気を持つ子どもの母親たちが抱える苦悩にふれ、診療への考え方が大きく変化。「治療後も、お子さんや親御さんの人生に寄り添うことを大切にしなくてはならない」と考えるようになったそうだ。土曜午後の診療やバリアフリー設計など、家族に寄り添う工夫を随所に施す同クリニックには、遠方からも多くの患者が訪れる。子どもと保護者の笑顔のために尽力し続けてきた江竜院長に、これまでの歩みや診療への想いについて聞いた。
(取材日2025年9月16日)
小児循環器の専門性を生かして幅広い診療に対応
先生が医師を志したきっかけを教えてください。

父が皮膚科の開業医で、子どもの頃は自然に後を継ぐものだと思い込んでいました。そうして皮膚科医を念頭に勉強を続けていたのですが、医学部5年生の時に父から「皮膚科を継ぐことは考えなくていい」と言われて驚きましたね。ちょうどその頃、小児科医不足や救急医療の問題がニュースで大きく取り上げられていて、「それほど小児科医が必要とされているのなら」と小児科医の道を選びました。大学卒業後は大学病院の小児科に入り初期研修をした後に、豊川市民病院へ赴任。さまざまな患者さまを診た経験から命を救うことの大切さを感じ、小児循環器の道を志したため国立成育医療研究センターの循環器科へ進みました。循環器科では心臓の基礎を学び、その後大学に戻り、大学ではその経験を生かしNICUで新生児を診ながら、心臓疾患の子どもたちも診ていました。
その後はどういった経験を積まれたのでしょうか。
大学のNICUでの勤務後、あいち小児保健医療総合センターで小児循環器と新生児科の医長を務めました。その後、産婦人科である鈴木病院で小児科部長として地域医療にも携わりました。開業前の3年間は、多くの分娩に応じている産婦人科で働き、新生児の診療を担当していました。高い専門性が求められる現場と、幅広く小児科診療に対応する地域医療の現場、その両方の経験を積んできたことで、小児科医としてバランスの取れた診療ができるようになったと思います。当クリニックでは、風邪や感染症はもちろん、学校健診で心電図異常や心雑音を指摘された際のフォロー、重篤な心疾患まで幅広く対応できることが強みです。
クリニックの特徴的な設備や環境について教えてください。

最大の特徴は完全バリアフリー設計です。私自身が双子の父親なので、双子用ベビーカーでそのまま診察室に入れるよう通路幅を確保しました。車いすの方もそのまま楽に移動できますよ。授乳室やおむつ交換台も設置し、受付横には赤ちゃんを寝かせられるスペースも設けました。内装は家族が好きな深海魚をテーマにしました。診察室にはカクレクマノミやメンダコ、チンアナゴなどの絵やぬいぐるみを置いているんですよ。深海魚をテーマにするクリニックはなかなかないと思いますので、少しでも訪れる方の癒やしにつながっていたらうれしいですね。土曜午後も診療を行っており、24時間ウェブからの予約が可能なことも特徴です。ドラッグストアと同じ敷地内にあるので、駐車台数も多いですし、なにより処方薬の受け取りも便利ですよ。
保護者の気持ちに丁寧に寄り添うことを大切に
小児循環器の専門家として、どのような診療を心がけていますか?

心疾患を持つ子どもたちは、ただの風邪でも近くの病院では診てもらえないことがあります。予防接種も断られる場合があり、親御さんたちは本当に困っています。私はそういう子たちの風邪も腹痛も、すべて診るようにしています。心臓の病気があっても、その子の日常生活全体を支えることが大切だと考えているからです。学校健診で心電図異常や心雑音を指摘された場合も、いきなり大きな病院へ行くのはハードルが高いと思いますので、まずは当クリニックで精査を、というように利用していただけたらうれしいですね。必要に応じて適切な専門病院を紹介しますので、ご安心ください。赤ちゃんの哺乳不良が実は心不全のサインだったというケースもあるので、些細な変化も見逃さないよう注意深く診察しています。
これまでの医師人生の中で、診療への考え方が変わったきっかけがあったそうですね。
ええ。若い頃は目の前の命を救うことばかり考えていました。でも、心臓の病気を持って生まれた子のお母さんたちと接するうちに、皆さんずっとつらい思いを抱えていることに気づきました。「元気な子に生んであげられなかった」と自分を責められているんです。国立成育医療研究センターに勤務していた時に、まだ若手で経験の浅い私に「先生と出会えたことが救いでした」と感謝の手紙をくださったお母さんがいました。今でも、子どもが高校生になりました、就職しましたと年賀状をくださるんです。小児科医は、お子さんと親御さんの人生に深く関わる、本当に責任の重い仕事だと思います。治療で命を救った後まで責任を取らなければいけない、寄り添ってあげなければいけないと強く思うようになりました。
親御さんたちへの対応で大切にしていることは?

私のもとに来てくださったからには、少しでも親御さんの気持ちが軽くなるように、笑顔になれるように支えたいと常に思っています。親御さんたちは皆さん本当に頑張っているんです。特に、病気を持つ子の親御さんは、相談できる場所も本音を言える場所もなかなかありません。大きい病院の忙しい外来では、ゆっくり話を聞いてもらえないことも多いですよね。ですから当クリニックでは、じっくり話を聞き、育児の小さな不安にも丁寧に寄り添うことを大切にしています。以前は励まそうと必要以上に声かけをしたこともありましたが、今はお母さん、お父さんの気持ちを第一に考え、その人のペースに合わせて寄り添うことができるようになってきたと思っています。本当の意味で寄り添えるようになったのは、ここ数年のことかもしれません。
持病があるなどの難しいケースも積極的に受け入れる
スタッフの皆さんとの連携について教えてください。

現在は受付スタッフ2人、看護師2人と私の5人体制で診療にあたっています。看護師は若い方たちですが、本当に子ども好きで、訪れる子どもたちを優しく迎えてくれます。診察が苦手な子どもたちも、看護師と遊ぶうちに笑顔になることが多いんですよ。受付スタッフは子育て経験者で、どんなに忙しくてもにこやかに優しく対応してくださいます。面接時に「一般的な小児科クリニックよりも病気や障害のあるお子さんが来ることが多いかもしれないけれど大丈夫ですか」と聞いたら、皆さん「問題ありません」と言ってくれました。スタッフ全員が同じ思いで、健康なお子さんはもちろん、病気を持つ子どもたちとその家族を支えようという気持ちで働いてくれています。
今後の展望についてお聞かせください。
以前の勤務先で診ていた子どもたちが、来院してくれていることもあり、東郷町外からの患者さんも半数以上いらっしゃいます。車で時間をかけて通ってくれる方もいて、本当にありがたいです。これからも、子どもたちや親御さんが気楽に来られるクリニックでありたいですね。ダウン症の子の相談、早産で生まれた子の成長フォロー、心臓病を持つ子の日常的な診療など、他のクリニックで対応が難しいケースも積極的に受け入れています。私が診られない病気でも、今まで培ってきた人脈を生かして適切な専門家をご紹介できることが強みです。「ここに来て良かった」と思ってもらえるよう、これからも努力を続けていきたいです。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

小児科医として、これまで命に関わる重症なお子さんもたくさん診てきました。さまざまな経験を積み重ねてきたからこそ、簡単ではない相談にも乗れると思っています。「これって大丈夫かな?」という、お子さんの体調に関する小さな不安でも構いません。育児で悩んでいるお母さんや病気を持って生まれた子のお母さんなど、困っていらっしゃることがある場合は一度いらしていただきたいですね。大切なお子さんの診療をすることにプレッシャーしかないですが、だからこそ真摯に向き合います。一人で悩まず、気軽にご相談ください。

